皆さん、こんにちは。認知症支援事業所 笑幸 代表の魚谷幸司です。
認知症はその原因となる病気から、いくつかの種類に分かれています。最も代表的なのは、「アルツハイマー病」を原因とする「アルツハイマー型認知症」ではないでしょうか。今回はそれとは対照的にあまり知られていない「意味性認知症」についてお話したいと思います。
意味性認知症とは、難病に指定されている「前頭側頭葉変性症」が原因で、言語障がいが生じる認知症のことです。具体的にどういうものなのでしょうか。私が「認知症の人と家族の会」に参加したときに聞いた、XさんとZさんの体験談をお話したいと思います。
全国的に症例が少なく診断されにくい「意味性認知症」
Xさんの奥さまはあるとき、「字が読みにくい」「言葉が出ない」などの自覚症状を持ち、病院で診察を受けました。結果は「異常なし」とのことでしたが、2年後に別の病院で診察をしたところ、「意味性認知症」と診断されました。それも入院してから15日以上も経過しての話です。
当時、奥さまの意思ははっきりしていましたが、Xさんは医師より「奥さまは治らない」と告げられました。その後、医師から意味性認知症の情報を事前に集めて対応するよう助言されたのですが、そもそも全体的な症例数が少ないとのこと。そこでXさんは自身のためだけでなく、「多くの人に知って欲しい」という思いも込めて、奥さまの病状や日常の行動、言動パターンを克明に記録していきました。Xさんはその記録内容をXさんが通うことになった施設や病院へ提供し、役に立っているそうです。
Xさんにとって、奥さまと2人だけで過ごす日々はいろいろな場面で難しかったようです。奥さまが車に乗って出かけようとしていたのを見つけ、車のガラスを叩き割ってとめたこともあるそうです。ただ排泄に関しては、おむつをつけることに特に抵抗はなかったようでした。
そんな日々が続く中、Xさんはこの気持ちを誰かに話したいと、介護をしている男性が集まって話をする場「男性介護者のつどい」に参加。Xさんはそれまで「こんな苦労をしているのは自分だけだ」と思っていたそうです。しかし、この「つどい」で自分よりもっと大変な人がいることを知り、「自分も頑張ろう」と改めて思う良い機会となりました。
もの忘れがなく体も健康だった
次に、Zさんのお話を紹介します。ある日、Zさんは奥さまの言動がおかしいことに気づき病院へ診察に行かれたそうです。ただ奥さまの自覚がないために、通院するのに苦労されたとのことでした。また先のXさんと同様に、「意味性認知症」と診断されるまで時間がかかったそうです。Zさんは、ほかの認知症の症状と違うことに驚いていたようでした。それは、Zさんの奥さまはもの忘れがなく、体もいたって元気だったからです。
しかしあるとき、自転車に乗って信号をきちんと守りながらどこまでも遠くに行かれてしまうことがあったそうです。幸いにも事前にGPSを取りつけていたので、それをたよりにZさんは探しに行かれたとのこと。認知症になる前に、「便利で良いから」と誕生日に送った電動自転車が仇になってしまったと苦笑いされていました。
ただそんな元気な姿の裏でZさんは、「意味性認知症の症状が進行することで、会話が続かなくなる辛さもわかって欲しい」と切に訴えられていました。また、現在は意味性認知症が難病に指定されていることを知り、障がい者サービスの1つである移動支援を使うこともあるそうですが、一方で「融通の効かない制度であることに不満もある」とも話されていました。
会話の中身を理解することよりも「理解してみよう」という姿勢が大事
最後に意味性認知症の症状がある方に対して、どのような支援を行えば良いのかを考えたいと思います。まずは言葉の数は減ったとしても、内容に関係なく話をしてもらうことが大切です。使わないと、より数が減ってしまいます。
しかし、どんなに話をしてもらったとしても、いずれはうまく会話ができなくなる場合が訪れると思います。そのときは、言葉以外のコミュニケーションや絵、ジェスチャーなどを見て理解する方法も考えていく必要があるでしょう。とはいえ何より大切なことは、ほかの認知症でも言えることですが、「会話の中身がわからなくても相手を理解してみよう」という姿勢を持って、相手の話を聞くことではないでしょうか。