こんにちは。特別養護老人ホーム裕和園の髙橋秀明です。
65歳以上の一人暮らしは年々増加しています。
2015年に内閣府が発表した「高齢社会白書」によると、65歳以上の一人暮らしの数は、男性約192万人、女性約400万人となっています。
超高齢社会の日本では、今後高齢者の一人暮らしがさらに増加すると見込まれており、認知症の方も同様です。
今回は、「認知症の方の一人暮らし」について考えていきたいと思います。
認知症の方の一人暮らしには、支障がつきもの
私が出会った認知症の方の、一人暮らしの事例をご紹介します。
一人暮らしのAさん(90歳)は、昼夜問わず1人で外出し、自宅から数キロメートル離れた場所で警察に保護されたり、「泥棒に入られた」と警察へ頻繁に電話するようになるなど、認知症の症状が見られるようになりました。
Aさんの居住地域を担当する民生委員と近所の方からSOSがあり、地域包括支援センターを介して、私が働く介護事業所のケアマネージャーが相談を受けました。
後日、ケアマネージャーと私は介護保険サービスの利用を勧めるため、Aさんの自宅を訪問しました。
家の中は足の踏み場もないほど散らかっており、テーブルの上にはカビの生えた食べ物や、変色したペットボトル、台所には食器などが積み重なっていて、部屋には異臭が漂っていました。
民生委員や近所の方によれば、以前のAさんはきれい好きで、家の中の掃除や庭の手入れをしている姿が見られたそうです。
しかし最近になって、Aさんのそんな姿を見かけなくなったそうです。
これらの情報から、Aさんはしばらく前から認知症状態で、生活に支障が出ていたのではないかと思われます。
認知症になると、これまでわかっていたことがわからなくなったり、できていたことができなくなったりすることがあります。
普段私たちは、無意識にたくさんの動作や認知能力を駆使して生活をしています。
身近なことでは料理、食事、排泄、入浴、着替え、洗濯、買い物などです。
排泄を例に挙げて、動作を細かく分解してみます。
排泄に必要な動作
- トイレの位置を思い出す
- トイレに向かって歩く
- 場所を認識する
- トイレのドアを開ける
- 便座カバーを開ける
- 便座に座れるように体の向きを変える
- ズボンと下着を下ろす
- 便座に座る
- 排泄する
- トイレットペーパーを切り取る
- 拭く
- 下着とズボンを履く
- 水を流す
- 便ふたを閉める
- トイレから出る
このように、排泄に必要な動作は多く複雑です。
認知症になると、記憶障害など中核症状が影響して、それぞれの動作に困難が生じてしまいます。
介護職員が動作を分解して、「どの部分ができていないのか、なぜできないのか」、「改善は可能か、そのために何が必要か」などを見極めて支援します。
具体的には以下のように支援します。
排泄への支援方法
- トイレの場所を伝える
- トイレのドアに、「トイレ」と書いた張り紙をする
- トイレに誘導する
- 水洗レバーの使い方を伝える
- 水洗レバーの操作を介助する

介護保険サービスを利用するまでのプロセス
排泄を例にしましたが、ほかにも必要に応じて一人暮らしの認知症の方を支援しています。
しかし、認知症の方の中には、一人暮らしが難しい場合があります。
「介護サービスを利用して、支援を受ければ良いのではないか」と考える方もいますが、介護保険サービスは「いつでも」「どんな場面でも」利用できるわけではありません。
また、身寄りの有無によって支援の方法は変わります。
身寄りの方がいる人の場合、介護保険サービスの利用プロセスは、以下のようになっています。
(1)本人の住所地にある地域包括支援センターに相談する
家族以外にも、行政、福祉専門職、地域住民などと連携を図って、支援の方法を協議、検討することが大切です。
また、介護保険の申請や手続きについても教えてくれます。
(2)ケアマネージャーを決める
今後の生活について本人を交えて、ケアマネージャーなどと話し合いをしましょう。
話し合うポイントは以下を参考にしてください。
- いつ・どの段階まで自宅生活を続けられるのか
- 自宅生活の継続が難しい場合は家族による支援は可能か
- 家族がどのくらいの頻度で本人の様子を見に行けるのか
- 介護保険サービスの検討
- 施設入居のタイミング
- 介護費用負担の上限
- 本人の金銭管理の方法
(3)介護保険サービスの利用
話し合いをもとに、ケアマネージャーがケアプランを作成し、サービスを利用します。
本人の状態や状況に応じて、訪問介護、通所介護、短期入所サービスなどの介護サービスを組み合わせて利用します。
ただし、適宜ケアマネージャーやサービス事業者、地域包括支援センター、地域住民などと話し合い、連携を図っていくことが必要です。

一人暮らしの認知症の方を支える、「小規模多機能型居宅介護」
制約のある介護保険サービスの中で、比較的柔軟性があるのが小規模多機能型居宅介護です。
「通い・泊り・訪問」を組み合わせたサービスを受けることができ、人とのかかわりを深めながら暮らすことができます。
小規模多機能型居宅介護の強みは、その日そのときの状態によって、サービス内容を変幻自在に変えられるところです。
ある小規模多機能型居宅介護では、一人暮らしの認知症の方の状態に応じて訪問回数を増やしたり、心配なときは宿泊してもらうなどして、様子を確認しています。

「気づく、気遣う、行動する」私たちができること3つ
認知症の方が住み慣れた地域で暮らせるように、生活の中の困難を事前に想定して手を打つためには、専門性が要求されます。
しかし、読者の皆さんにもできることがあるかもしれません。
それは「気づく、気遣う、行動する」ことです。
Aさんの事例では、民生委員や近所の方が地域包括支援センターに相談し、介護保険サービス、訪問介護、デイサービス、ショートステイの利用にへとつながりました。
それ以降、Aさんは約1年間自宅で一人暮らしを続けられました。
また、真夏に重ね着をしていたBさん(94歳)が車道を1人で歩いている姿を見かけた住民の方が「大丈夫ですか?」とと声をかけたことがきっかけで、Bさんが生活に支障を来していることがわかりました。
ご本人にしてみたら、私たちがかかわろうとしたときに「大きなお世話」と感じるかもしれません。
しかし、事例のように「あれ?」という気づき、「大丈夫かな?」という気遣い、「大丈夫ですか?」と声をかけることや、地域包括支援センターに「気になる方がいるのですが…」と相談することで、救われる方がいるのです。
以前「気づく、気遣う、行動する」のポイントを記述した、「認知症 第41回」も参考にしてみてください。
