介護生活にはいくつかの段階があり、それを波のように行ったり来たりします。
それぞれのサイクルの中で介護者に訪れる特徴があります。
今回は、その特徴を解説しながら、どのように悩みを解決していくべきか考えていきます。
介護に訪れる4つの時期
介護には「4つの時期」があります。
- パニック期:ケガや病気などのトラブルが起きる
- 環境調整期:容態に合わせて暮らしを整える手続きをする
- 生活期:実際の介護が始まる
- 看取り期:本人を看取る
そのうち介護生活では、パニック期と環境調整期、生活期を何度も繰り返します。
生活期は、介護環境が整い、要介護者の状態も安定してホッとしますが、介護者は24時間365日の介護に突入します。
パニック期から、さまざまな手続きや対応に奔走してきたため、自分が休息する時間を十分取れないまま、介護者自身の疲労がピークに達します。
風邪をひきやすくなったという小さな変化から、些細なことでイライラしてしまう、朝突然起きられなくなったなど、さまざまな形で心身の限界症状が現れやすくなります。

【事例】うまく行っているはずなのに、イライラしてしまう
50代会社員女性、Cさんのケースです。
10ヵ月前に、同居の父親(80代)が階段から転落、頸髄脊髄損傷から要介護5、身体障害1級になりました。
幸いなことに、姉や弟と協力しながら介護保険をフル活用し、2ヵ月前に自宅復帰できました。今は週3日、姉が日中のサポートを、隔週末で弟が泊まりがけで介護を手伝ってくれています。
父親が怪我をする前は「何かあったら自分には介護は無理、絶対に施設にお願いする」と宣言していたCさんでしたが、おむつ交換や食事介助など、自分でも意外なほど熱心に介護をしています。父親が少し腕を動かせるようになったときは、心から喜びました。
しかし、しばらく経った頃から「この生活はいつまで続くの?」「私はいつまで介護をしなければならないの?」という考えがふとよぎるようになりました。
また、些細なきっかけでイライラして、父親に怒鳴ってしまうことがあり、混乱しています。
「きょうだいも協力してくれているし、自分も介護の手順に慣れて、仕事にも復帰できています。なのに、つまらないことでイライラしてしまう自分がいて、不安になりました」と、相談を寄せてくださいました。
生活期の始まりは、心身の疲労に気がつかない
Cさんは、突然の父親の怪我と入院というパニック期、介護保険などの申請手続きを進めて住まいの環境を整える環境調整期を経て、生活期に入ったところです。
本来は心身の限界が来ている状態ですが、介護者の頭の中ではパニック期から環境調整期でフル活動した自分を「普通の状態」と認識してしまっているため、なんだか力が出ない、ちゃんとできていないと感じることがあります。
Cさんの場合も、仕事と介護で心身をフル稼働させながら「父親を自宅に連れて帰ってあげたい」との目標に向かって、この10ヵ月間を過ごしてきました。「父親を家に連れて帰る」というゴールに向けて、ある種の興奮状態にあったのかもしれません。
しかし、自宅介護の環境も整ったところで、Cさんの思考は通常モードに戻り、「この生活はいつまで続くの?」「私はいつまで介護をしなければならないの?」と先行きの見通しの立たない不安が出てきていました。
さらに、Cさん自身は自覚していませんが、心身の疲労はピークです。些細なことでイライラしたり、怒鳴ったりする状態になっているのも当然です。
加えて、「私はきょうだいの協力も得られて恵まれている。もっと困っている人に比べたら私なんて全然何もしていない。もっと頑張らなければ」という思考にも陥っていたため、親しい友人やきょうだいにも「この生活がいつまで続くのかと考えるとゾッとする」との本音が言えないことも、ストレスの一因となっていました。
自分のための時間を確保しよう
Cさんからお話を伺うと、介護と仕事を両立できているという自信を持っていましたが、趣味のゴスペルの活動をずっと休んでいたそうです。仕事もセーブして、新しい企画の担当からは外れていました。
また、訪問介護や看護は利用していたものの「父親が嫌がるから」との理由でデイサービスやショートステイといったサービスは利用していなかったのです。
Cさんにはまず、自分が休む時間や趣味の時間、心置きなく仕事に集中できる時間を少しずつ増やしていきましょうとアドバイスをしました。
Cさんのみならず、姉や弟も自分の生活や時間を犠牲にしてのサポートが10ヵ月続いています。自分の疲れを自覚したCさんは、誰にとってもこれ以上の負担は望ましくないことに気づきました。
そこで、父親に率直に「私たちも自分の生活を犠牲にしたくない。お父さんの生活を守るためにも、デイサービスやショートステイを使って欲しい」と話し合いを重ね、まずは半日のデイサービスの利用を開始することになりました。
父親は最初、デイサービスの利用を渋々承諾しましたが、施設の若い男性リハビリスタッフと話が合ったようで「行くのが楽しみだ!」と喜んで通うようになりました。
父親がデイサービスに行く日が増えたことで、姉の負担が減りました。姉も、同居のCさんに気を遣って、そろそろ体力の限界がきていることを言い出せずにいたのだそうです。
父親はまだショートステイの利用は拒んでいますが「長く今の生活を続けるために、ぜひご協力ください」と笑って伝えると、以前のように「絶対に嫌だ!」という反応ではなくなってきたそうです。
Cさんの場合、ご家族同士の関係性が良かったこともあり、かなり早くに解決に向かって動き出しましたが、一般的には、家族の協力も本人の承諾も得られず、サービスの利用に至らないといった悩みを抱えている人も多いかと思います。
サービスの利用が進まなくても、諦めずに、タイミングを見て提案する機会をつくりましょう。
介護は家族だけで、まして一人だけでは支えきれません。疲れを自覚したときは「まだ使っていないサービスはないだろうか?」と考えるきっかけにしてみましょう。
ケアマネージャーや地域包括支援センターは、お住まいの地域の情報の宝庫です。無理を重ねる前に、アドバイスをもらってください。

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りのことやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。
「介護サービスを嫌がって使ってくれない」といった日々の介護の悩みについては、拙書『がんばらない介護』で解説をしています。ぜひ、手にとって参考にしていただければと思います。