こんにちは。
デイサービスで看護師として勤務している、認知症LOVEレンジャーの友井川愛です。
認知症によってご自宅で生活が困難となり施設で生活することになったときに起こる問題の1つに「排泄の問題」があります。
「トイレの場所がわからない・なかなか覚えられない」「ポータブルトイレに排泄できない」と、ご自宅ではできていたにもかかわらず、施設ではうまくできないことがあります。
今回の記事では、なぜこのようなことが起こるのか解説します。
排泄問題の原因の1つに「環境の変化」
まず考えられるのは「環境の変化」です。
認知症の方は環境の変化にとても敏感なので、今まで住み慣れたご自宅とまったく違う施設の作りや雰囲気に戸惑いやすいです。
もしトイレの場所がわからず誰かに聞こうと思っても、職員も見慣れないので尋ねることもできずトイレを探してウロウロしてしまいます。
夜間帯にトイレがわからなくなるケースが多い
トイレの場所がわからず困ってしまうケースは、特に夜間帯に多くみられます。
では、夜間帯に多いのはなぜなのか、2つのケースで考えてみましょう。
- ケース1 夜間帯だけトイレがわからないAさん、80歳女性
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Aさんは最近、在宅から老人ホームに生活の場を移された方です。
日中はトイレの場所はわかっておりご自分で排泄されています。
しかし、夜間帯になると毎晩トイレの場所がわからず、廊下の隅に排泄してしまうのです。
「日中は大丈夫なのに、夜間になると場所がわからなくなる」のには理由があるはずですね。
- ケース2 ゴミ箱に排泄するBさん、75歳男性
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Bさんは長年暮らしていた自宅からグループホームに転居された方です。
排泄はご自宅でもポータブルトイレを使用し、問題なく生活されていました。
しかし、夜間帯になると居室に設置されているゴミ箱に排尿されるのです。
ポータブルトイレは設置してあるのにどうしてでしょう?
「生活歴」を知ることで排泄問題を解決できる
AさんとBさんのお二人の問題を解決するために必要だったのは、「生活歴」を知ることでした。
日中問題なく排泄できているのに、夜間帯だけうまくいかないのには原因がある、と考えた施設の職員はAさん、Bさんのご家族やヘルパーさん、ケアマネージャーにご自宅で生活されていた頃の情報提供をお願いしたのです。
寄せられた情報からは、Aさんのご自宅では寝室がトイレの隣にあったこと、トイレのドアに大きな字で「トイレ」と書いた紙が貼られていたことがわかりました。
Aさんのいる施設のトイレはAさんの部屋から少し離れており、トイレのドアや入口には「トイレ」とわかりやすい表示がされていませんでした。
その後は情報提供を受けて、Aさんの部屋はトイレの隣の部屋に変更され、トイレのドアにも表示をしたことで、Aさんは夜間帯でも困ることなくトイレに行けるようになったのです。
Bさんのケースでは、ご家族の情報から施設のゴミ箱の色が、自宅で使用していたポータブルトイレと同じ色だったことが判明しました。
認知症の方は色で物の識別をされる場合もあります。
施設の職員が自宅と同じ色のポータブルトイレを設置し、ゴミ箱も違う色にしたことで、ポータブルトイレで排泄ができるようになりました。
生活歴は“安心できる生活”につながる
「生活歴」とは、どのように生きてきてどのように生活してきたのかという、まさにその方の「歴史」です。
生活歴を知ることで、認知症の方の言動の理由がわかったり、対応のヒントになるので、より認知症の方が、落ち着いて問題なく生活していただけるケアにつながる大事なことです。
もちろん、なかなか言葉ではうまく自分の思いを伝えることが難しくなっているご本人にとっても、介護者が生活歴を知ってきちんと対応してくれることで、安心に生活できます。
私もよく、デイを利用される方とお話をさせていただきます。
認知症の方と世間話から昔話、普段の生活ぶりを伺ってコミュニケ―ションを取りながら、その方を知ろうと努めています。
なにか困ったことが起きたときには「生活歴」を探ることで解決できることもあるからです。
先程も触れましたが、認知症の方にとって環境が変わるということは、不安を招く原因になってしまいます。
顔馴染みの人達がいた「住み慣れた地域」や自宅から、見知らぬ人達の場所に生活の場を移すことになりますから、認知症の方からすれば、突然、言葉のわからない外国に1人放りだされたようなものです。
自宅と違う施設の部屋を「あなたの部屋ですよ」と言われても、認知症の方にとっては馴染みのない物だらけで落ち着くはずもありません。
自宅からできるだけ愛着のある物を持ってこよう
施設に持ち込める物は制限があるので難しいですが、在宅から施設へ生活の場を移す場合は、可能な限りご自宅から愛着のある物を持ってきていただくことをおすすめいたします。
また、認知症の方がなかなか落ち着かれない場合には、その方の生活歴からどのような生活をされてきたのか知ることで「適切なケア」ができます。
なにより、ご本人が安心できることが一番なので、ぜひ「生活歴」を活用してみてください。