みなさん、こんにちは。認知症支援事業所 笑幸 代表の魚谷幸司です。
2019年3月に厚生労働省が、介護職の方が受けている利用者からのハラスメントについての調査結果を発表し、いくつもの新聞に載ったのは記憶に新しいと思います。
今回はハラスメントについてお話していきますね。
介護現場ではハラスメントは相互的に起こりやすい
そもそもハラスメントとは何なのでしょうか。 ある辞書によると、以下のようにありました。
「行為者本人の意識の有無に関わらず、相手を不快にさせたり、自身の尊厳を傷つけられたと感じたりさせる発言や行動を指す」
先の調査によると、「精神的な暴力」や「身体的暴力」、「セクハラ」などがハラスメントの具体例として挙げられています。
今回の厚生労働省の調査では、介護者が利用者から受けたハラスメントが取り上げられていましたが、ハラスメントは必ずしも介護者側だけが受けるものではありません。
特に注目したいのは「精神的暴力」。
介護現場では介護をする側とされる側の双方が、このハラスメントを行ってしまうリスクが高いと思います。
例えば、同じ訴えを繰り返す認知症の人に、「何回言ったらわかるの」などと、言い返せないのを良いことに、口調荒く言ってしまうことはないでしょうか。
利用者側の視点に立つと、「忘れてしまったから聞いているだけなのに、なぜそんな言い方をするのか」と思っているのではないでしょうか。
そもそも、忘れてしまうのが認知症なのです。
認知症の人が「精神的な暴力を受けた」と口に出して言うことはまずないので気がつきませんが、これは認知症の人が受けるハラスメントだと思います。
このように、ハラスメントは何も介護者側だけが受けるものではないということを知っておく必要があるのです。
なぜハラスメントをしてしまうのか
また利用者側がハラスメントをした場合でも、利用者側の視点で考えることが必要だと考えています。
受け取り方を間違わないで欲しいのですが、私は決してハラスメントを肯定しているわけではありません。
“なぜハラスメントをしたか”、その理由を考えることが大切だということなのです。 例えば、身体的な暴力はどうでしょうか。
まず介護者が何もしていないのにいきなり暴力を受けた場合は、ハラスメント以前の問題で、症状の改善など、解決すべき問題は別にあると言って良いと思います。
では、介護者側が何かしたことに対する暴力=ハラスメントなのでしょうか。確かに暴力を受けて良い気分になる人はいるはずありません。また、仕方ないわけでもありません。
繰り返しになりますが、大切なのはなぜ暴力をふるうのかを考えることで、それにより結果的に減らすことにつながると考えています。
ただ考えるうえでは、理由を認知症だから、の一言で片づけてしまうことがないようにしてほしいと思います。
認知症ではない人にも見られる言動にもかかわらず、理解できない=認知症と結びつけてしまうのは大きな間違い、むしろ認知症の人にこそ理由があると思います。
では、なぜ認知症の人が暴力をふるってしまうのでしょうか。
それは、相手から言われていることの理解が難しくなることと、自分の思いを言葉で伝えることが難しくなっている結果なのです。
周囲と相談しながら、認知症の方への対応を考えよう
ひとつの例を挙げてみます。介護者がある認知症の方にお風呂に入ってもらおうと誘う場面で「お風呂にいきましょうか」と声をかけ、うなずかれたので手を取って浴室へ。
そして服を脱いでもらおうと、介護者が服に手をかけた途端いきなり暴力が…。
これについて、暴力をふるった認知症の人側に立つとこのように「推測」ができます。
内容はわからないけど何か言われているのでわからないけどうなずいた、そして浴室へ連れていかれ服を脱がされた…。
いきなり何をするのだと思って、身を守るため暴力をふるった。
ここで介護者側が考えるべきことは、まずうなずかれたからといってわかってもらえたとは限らないということ。
そして何をするのだと思っていても口に出せないことがあるということです。
言ったつもり、伝えたつもりでも認知症の人には理解できていないことがある。
認知症の方に理解してもらえる方法を考え、伝えようと「考える」だけでも状況は変わるのです。
それは一人で行わなくても良いので、どんなハラスメントにおいても我慢をせず、誰かに相談しながら解決方法を探りましょう。
セクハラについては心に傷を残しやすいため、毅然とした態度が必要だと思います。一人では解決することが難しいため、普段より組織(会社)として気軽に相談しすい環境を整えることが求められます。
ハラスメント自体は決して良いことではありませんが、理由を考えることを通して受け止め方が少しでも変わることを願います。