みなさん、こんにちは。デイサービスで看護師として勤務している、認知症LOVEレンジャーの友井川 愛です。
今回は認知症の中等度の方にみられる症状についてお話しさせていただきます。
認知症の方の中には、お出かけしたり、お散歩の際にいろいろなものを集める癖があります。それも、集めてくるのは壊れた傘や電化製品、粗大ごみといった不用品ばかりです。
当然、一緒に暮らしている家族からすれば困りますよね。今回は、認知症の方が不用品を集めてしまう理由と、その対処法について、お話ししたいと思います。
認知症の方はなぜ不用品を集めるの?
認知症の方はなぜ、不用品ばかりを集めてくるのでしょうか?これにはいくつかの原因が考えられ、認知症の症状である「判断力の低下」や「記憶障害」「見当識障害」などが合わさることで起こる行動だとされています。
しかし、これらの症状だけが理由とは限りませんので、認知症の方の立場から考えてみましょう。
不安な気持ちから物を拾ってしまう
認知症の方が不用品を集める理由として、第一には「不安」があります。認知症の方が感じる「不安」は、私達が感じる「不安」とは違います。
「これまで自分ができていたことができなくなり、失敗が増えることで家族に文句を言われるかもしれない、昔の自分には戻れないかもしれない」という不安です。
こうした感情から、心のよりどころを求めるために不用品を拾い、自分の心を落ち着かせようとしていることが考えられます。また、高齢の認知症の方には、若いころに大変な思いをしている方もいます。その影響から、不用品を拾ってきたり、ゴミを大切に保管している場合もあるのです。
対応として「捨ててきて」はNG
認知症の方が不用品を持って帰った際に、注意しなければいけないことがあります。それは、「なんでこんな物を持って帰ってきたの?」「ゴミだし汚いから捨てて」といったような否定的な言い方はしないことです。
もちろん、不用品を持って帰って歓迎もできないでしょうから「これが良いんですね」「よく見つけられましたね」などと受け入れましょう。

周囲の人がどんなに必要ではないと思っていても本人にとっては宝物。持ち帰った物を勝手に処分しないようにしてください。
また、本人の前で強制的に処分することも避けるようにしましょう。本人の意思を無視すると、興奮したり攻撃的になる可能性があります。
食品の場合は、衛生的に問題が出てくるので少しずつ本人の目が届かないうちに処分しましょう。
認知症の方は衰えていく自分に不安を感じている
私が聞いた話で、こんなことがあります。
Aさんという、高齢で認知症を患っている方がいました。Aさんは70歳までは自身の会社を経営しており、その後は自宅でゆっくりと過ごしています。そんなAさんですが、のんびり散歩するのが楽しいらしく、近所や商店街に出向いては、馴染みの方とお話をしています。
そんなAさんが、ある日ちょっと壊れた傘を持って帰ってきたのです。家族が気づき、Aさんに尋ねました。
「お義父さん、あの傘はどうしたのですか?」と。するとAさんは「散歩していたら見つけたんだ。まだ使えそうだから持ってきた」と言ったのです。
家族は、「傘なんて持って帰らなくてもうちにあるのに…」「どこで拾ってきたのかしら?」と思いました。
それからというもの、Aさんは散歩のたびに不用品を持って帰るようになったのです。家の中はもちろん、庭ですら沢山の不用品で溢れる状況になってしまい、家族は困ってしまいました。
Aさんの自室に、賞味期限が切れている食べ物を見つけたこともあります。家族がAさんに捨てるように言いますが、Aさんは怒って「これは大事なんだ」「食べられるから大丈夫なんだ」と言い返すのです。
できることをお願いして自信をもたせよう
Aさんがなぜ、自身の言動や行動に違和感がないかというと、会社を高齢になるまで経営した、一家の大黒柱としての誇りがあるからです。今までは一生懸命働き、周囲からも尊敬されていました。きっと、Aさんがこう思っていたのでしょう。
最近の自分は忘れっぽいし、かつてできていたことが今はできない。家族にはガミガミ言われて俺はもう昔のようにはなれないんだ。散歩したとき、物を拾うと落ち着く。でも、家族に「全部捨てろ」と言われた…。冗談じゃない!
認知症の方は、少しずつ衰えていく自分に戸惑いや不安の気持ち、喪失感があります。不用品を拾うのも、本人にとっては意味のある行動なのです。
認知症の方が不用品を拾ってきたとしても、本人の気持ちを汲み取り、持ち帰ってきた物も一旦は受け入れましょう。その後、本人と話をしながら「あなたはあなた、今のままでも大丈夫」であることを伝えてあげてください。

また、認知症の方は、自身ができることを探しているので、今の状態でも本人ができることを考えてお願いしてみましょう。「できることがある」ことがわかれば、本人にも自信が戻ります。大事なことは「本人の思い」です。きちんと向き合って、その思いを聞いてあげてくださいね。