こんにちは。ケアマネジャーの小川風子です。
介護は終わりが見えないことが多く、精神的・経済的・身体的にも負担になるものです。私は居宅のケアマネジャーとして10年ほど働いており、たくさんの要介護の方とその介護者を支援してきました。彼らの関係性は、親と子、配偶者、兄弟、孫と祖父・祖母などさまざまです。筆者は長年介護の仕事をしてきて、介護に伴う感情もさまざまであることを知り、「『どの関係性なら介護が楽』ということもないんだな」と思いました。皆が皆、要介護者の方のことが好きだから介護をするわけではなく、たとえ嫌いだったとしても、介護をしなくてはならないこともあるのです。
ただでさえ大変な介護生活なので、介護者が要介護の方のことを好きではないなら、きっとストレスは倍増することでしょう。とはいえ、「嫌いだから介護をしない」という選択肢を選べる人ばかりでもないと思います。
今回は、「関係が良くない方を介護する場合の対応策」についてです。解決に至ることは少ないかもしれませんが、以下のお話を参考に、少しでも気持ちを楽にしていただければ幸いです。
キーパーソンと要介護の方の関係性は重要
まず基本的なこととして、介護保険サービスを利用するときは、キーパーソンとなる人物を必ず1人は決めておきましょう。その方には、さまざまな場面でケアマネや事業所と連携を取っていただきます。ケアプランの作成時はもとより、何かの契約時やそのほかあらゆる要所でキーパーソンの出番があり、ケアマネと相談をしながら利用者の生活を支えてほしいです。
私はケアマネなので相談を受ける立場なのですが、介護者と要介護の方の関係性を確認してみると、「この人は本当に言いたいことをうまく伝えてくれているのかな?」と心配になることが往々にしてあります。
実の親子や配偶者の場合は利用者本人に不満があったときには比較的、赤裸々に気持ちを伝えてくれることが多いのですが、やはり姑や舅(しゅうと)の場合は、なかなか正直に伝えることが難しい方がいます。「関係は良いですよ」と片方がおっしゃったとしても、もう片方は「そう思っていなかった」なんてことはよくある話です。
逆に血縁関係がなくても良好な関係である義親子もいますし、逆に血のつながりがあっても絶縁状態の親子もいますので、一概には言えません。
普段のやり取りの頻度などはご家族の意思を尊重
介護者と要介護の方に血縁関係がなく、離れて暮らしているケースに関しては、「本心はどう思っているのかな」というのはいつも気にしています。「もしかしてあまり好きじゃないのかな」と。このような言い方をすると「仲が悪いのはだめなのか」と思われますが、そうではありません。関係性の良い・悪いでアプローチの方法やサービスの利用など臨機応変に対応するためにも、本心を知っておくことは重要です。
例えば、要介護のご本人のことが心配で、「すべて把握して、自分ができることはしたいと思っている」とケアマネに伝えた家族がいたとします。その場合、こちらとしてはこまめに連絡を取り、それこそ通院や必要なものの購入といった小さなことでも、「こういうことがありましたので、〇〇をお願いできますか」と依頼するわけです。
私の個人的な意見としては、介護は外注して介護保険サービスを積極的に使ってもらい、あまり介護者に負担はかけないほうが良いとは思います。しかし、できるだけ自分の手で介護をしたい方もおられますので、そのような方には事細かに報告をしていくわけです。そうでなければ、介護者から「あのケアマネは何も連絡くれない!」と怒られることもあります。
「家族の介護をしたくない」と思うのは悪いことではない
ところが、これがもし「関係性が良くない」「利用者に対し良い感情を持っていないキーパーソン」であればどうでしょうか。
はじめからそれを聞いていれば、私たちも必要以上に連絡をすることもありませんし、できるだけ介護者に負担をかけないケアプランを作成するでしょう。しかし、本当はあまり介護をしたくないのに真逆のことをケアマネに言ってしまったら、前述したように私たちはことあるごとに介護者に連絡をし、介護にきてもらうことになります。
利用者の方にも、何かあれば介護者にお願いするよう言ってしまうこともあるでしょう。それは誰にとっても得策ではありません。
家族関係が良くないことを恥ずかしく思われる方が多いのですが、私たちはそのような事例はたくさん見ていますし、要介護に至るまでの長い人生で何があったかは当事者にしかわかりません。なので「関係が良くない」「介護をしたくない」と思うのは全然良いのです。ただ、それは必ずケアマネに伝えてください。もし本人の前で言いにくいようなら、後日電話で伝えてもらっても大丈夫です。
「介護をするか・しないか」自分の気持ちを天秤にかける
前述したように、関係が良くないのであれば介護サービスを積極的に利用し、「自分は最低限のことしかしない」という考えを持つのも間違いではありません。
しかし、それまで嫌いだった人でも、病気やケガなどで要介護状態となり、衰弱した姿を見ると、「本当に何もしなくていいのか」と悩まれる方がいます。要介護の方の状態が大きく変わることもありますし、介護者がそれを見て「『嫌いなので介護はしません』というのは薄情ではないか」と思われるのですね。とはいえ、「昔からのいろいろな感情も残っているし、どうしよう」とも思ってしまうのです。
この悩みを抱かれる方は実はわりと多くて、その方に要介護の方も頼っている状況であることも多いです。「頼られているのに見捨てるのはどうだろう」と悩むのであれば、一度できる範囲で介護をしてみるのも一つの方法だと思います。「何もしない方が楽」なのか、はたまた「自分の感情を整理するために介護をする方が楽」なのか。天秤にかけてみてほしいのです。
最期まできちんと介護を全うすることで、自分自身が楽になるケースも存在します。ただ、もちろん途中でつらくなることがあるかもしれませんので、その場合は正直にケアマネに伝えてください。
「あまり関係は良くないけど、できるところまで介護をしたいと思っている。でも途中で無理と思うかもしれない」
これを伝えてもらえば、私たちも心構えができます。前述したように、介護はもともとの関係が良好でも大変なものです。それがそうでないならなおのこと。誰かが無理して介護をすれば、必ずどこかでほころびが生じます。そうならないためにも、正直な感情をケアマネに伝えておいてくださいね。