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星友啓「私が全米トップの進学校で“哲学”を唯一の必修科目にした理由」

最終更新日時 2022/05/23

私が全米トップの進学校で“哲学”を唯一の必修科目にした理由

星友啓氏は、2006年に創立されたスタンフォード大学・オンラインハイスクールで校長を務める日本人だ。同校は、2020年には全米進学校1位に選ばれた名門校である。世界中の優秀な若者はなぜこのオンラインスクールを選ぶのか。“哲学”が生徒の可能性を伸ばす理由や、自身の意外な過去についても語っていただいた。

文責/みんなの介護

全米進学校1位が大切にしている、基本のキ

みんなの介護 スタンフォード大学・オンラインハイスクールが進学校として高い人気を誇るのは、どんな秘密があるのですか?

 月並みに聞こえるかもしれませんが、何よりも大切にしているのが、生徒同士や生徒と先生の関係構築です。

うちの生徒たちに、学校に対してどう思うかを聞くと、「初めてソウルメイトが見つかった場所」という答えが多いんです。

これまでの学習環境では自分の発言が“馬鹿みたいな質問”や“突拍子のないコメント”と蔑ろにされてきた。しかし本校では、先生が話を聞くだけではなく、周りの生徒たちも自分のことをわかってくれる。そして一緒に議論ができるのです。

同じような知的好奇心や問題意識を持っている同年齢の生徒たちが集まってくる。そしてお互いに刺激し合えることが大きいです。

先生たちも、生徒たちの質問をしっかり受け止めることができる。

”馬鹿みたいな質問”はしばしば本質をついています。そのことを正面から認め、さらに一段高いレベルで議論ができる。本校では、各分野のエキスパートでありながら、生徒の好奇心に答えることができる先生たちが授業を行っています。

大切なのはシステムよりも人間。人間がしっかりしていると、オンライン教育などのシステムもうまく使える。逆にシステムだけに頼ろうとしても思うような結果は出ませんよね。

「君はこうだから」と決めつけない

みんなの介護 その人間関係の上に行われている授業はどんな内容なのでしょうか?

 生徒同士で議論して、模索しながら進めていくやり方がメインになっています。先生たちは、ただ答えを渡すのではありません。「こういうアプローチで考えられる」と、主体的に思考できる方法を生徒たちに教えます。

その前提の一つとして「既にある知識というのは、ある種の仮説でしかない」と考えること。

特に、高校で学ぶことなどは、わかりやすくするために単純化されています。正しいとされていても、のちのち「実は間違っていた」ということはいくらでもある。だからこそ、生徒たちにも本質を伝えることが大切なのです。

もう一つ信条としているのは「成長マインドセット」という考え方です。今はできなくても、努力することで、身に付く。間違ったとしても、それを学ぶことで変われる。スキルや能力は、固定的なものでなく、自分が常に成長することができるという心の構えを持つことが肝心です。そうした心構えを促せるような教育方法をとっています。

例えば、生徒が提出した論文を評価する。その評価やコメントを元に1度書き直してもらう。最終評価は、その書き直した論文から行います。生徒が現在の地点から成長していける道筋をつくり、サポートする教育方法の一例です。

みんなの介護 なるほど。教師が成長マインドセットという考え方で関わると、生徒のやる気と能力が同時に伸びそうです。逆に、これだけはしないようにしているということはありますか?

 「君はこうだから」とステレオタイプで生徒を決めつけないことです。例えば「君は理系だから文学は苦手だよね」と。そうすると生徒の方も「僕は理系だから文学は苦手でもしかたがない。頑張っても力が伸びないだろう」という思いにもなる。

これは「ステレオタイプの脅威」というスタンフォードの学者が見つけた考え方に基づいており、実際にそうした思い込みから生徒の成績やパフォーマンスが下がってしまうことが明らかにされてきました。また、そうしたステレオタイプは学校生活や授業の中のふとしたきっかけから植え付けられてしまうのです。

そのため、先生たちにも自分の中の無意識の先入観で予期せぬきっかけにつながらないように、成長マインドセットを伸ばすための生徒とのやりとりができるようにトレーニングをしています。

哲学を唯一の必修にした理由

みんなの介護 哲学が唯一の必修科目と伺いしました。

 哲学は、当たり前になっている物事の前提をあえて問い直し、新たな世界観や価値観にたどりつく。それこそが哲学の醍醐味です。

しかし、物事の前提を客観視するのはなかなか難しい。ときにアイデンティティが揺らぐような思いになることもあります。

哲学的な考え方ができると、新しい価値観や世界観を発見する機会にできる。それは、自分が良い生き方をするだけではなく、関わる人の可能性を引き出すことにもつながると感じます。

みんなの介護 若い頃からそうした考え方ができれば、その後の人生も変わりそうですね。

 だからこそ、本校では哲学を唯一の必修にしています。中学・高校の生徒たちは、専門的な知識を習得するに従い、前提になっている概念的な枠組みにはめられていくさなかにある。当たり前になっている価値観や枠組みを一歩踏み出して柔軟に考えられる習慣をつける必要があるのです。

現代社会はグローバル化が進み、テクノロジーの革新の早さなどで目まぐるしく移り変わっています。今目標としている職業も20年後にはないかもしれない。今までの世界観や価値観が一気に変わりつつある。

生きていくためには、そうした変化の中で新しい価値観や世界観に適応することが必要になります。また、新しい世界に合うような価値観や世界観を生み出せる人材も必要になります。

そうしたマインドを養っていくために、哲学が最も効果的だと考えたのです。

「既にある知識」は、ある種の仮説。だからこそ“答え”よりも“考え方”を教える

逃げるように専攻した哲学がその後の人生を導いた

みんなの介護 星さんご自身も、大学では哲学を学ばれたんですよね。

 私は大学に入学したときは理系学部でした。それが哲学の道に行くことになったのは大学二回生の専攻選びのときです。というのも、当時私は大学を休み過ぎて、理系の勉強についていけなくなっていました。

そこから逃げるようにして、三回生からは文系の哲学を専攻しました。当時、太宰治などの文学や思想に興味はあったのですが。

みんなの介護 その後、スタンフォード大学・オンラインハイスクールの校長になるまでは、どのような歩みだったのでしょうか。

 その後も結局、大学に行きませんでした。気づいたら、友人たちはみんな就職先が決まっていた。周りが就職活動をしていたことすら知らなかったことに気づき、さすがにまずいと思いましたね。

そして、今までの生き方に歯止めをかけるため、環境をガラッと変えることにしました。自分はすぐには変われないので、場所を変えてみようと。英語は好きだったので、アメリカへの留学を考えました。今振り返ると、実行ありきで、無計画な決断でした。

いくつか修士課程の願書を出して受かったのがテキサス州の大学。もともと専攻していた理系に近い論理学を勉強して、修士取得後に、博士課程でスタンフォードに来ました。

そうして研究を続けて、博士論文を書き終わったとき、1年間、わりと自由な時間ができました。

そこで生活費を稼ごうと思い、大学の中でプロジェクトを探すことにしました。すると、ちょうどスタンフォード大学・オンラインハイスクールで哲学を高校生に教えるプロジェクトが立ち上がろうとしていたのです。

みんなの介護 それがスタンフォード大学・オンラインハイスクールとの最初の出会いだったのですね。

 そうです。当時はアメリカでオンライン教育の熱気が高まっていたこともあって面白そうだと感じました。

そして、1年間だけのつもりで、そのプロジェクトに応募したのです。卒業後は研究職への内定が決まっていましたから。

しかし、1年やってみたらあまりにも面白かった。研究職の内定を辞退して、このまま高校に残ろうと思いました。そして今に至ります。

高校生に哲学を教える面白さに目覚め、いつしか校長へ

みんなの介護 どこに面白さを感じられたのですか?

 最初はスタンフォード大学の学生を教えていたのですが、彼らは本当に頭が良かった。私の授業がなかったとしても、みんな自分で学べると感じてしまいました。

私が教えることで何かインパクトを与えられているのだろうか。そのように問うてみても、むしろ彼らの時間を邪魔しているのではないかという思いさえ湧いてくる。そうした体験があって、教職ではない仕事を選んでいたのです。

しかし、オンライン高校のプロジェクトで、中高校生たちに教えることで、彼らの「学びたい熱意」に触発されました。

例えば、彼らのほとんどは、“哲学”については何も知らない。そんな生徒たちが、1ヶ月ぐらいするとアリストテレスの哲学についてしっかり議論できるようになっているのです。

その変化を見て、「彼らの人生に何らか変化を与えられたんじゃないか」というやりがいを感じました。それが面白かったですね。

そのように考えながら教職に携わる過程で、自分より教えることが上手な先生たちに出会いました。そして彼らをサポートするため、校長になったのです。

星友啓氏の著書『全米トップ校が教える自己肯定感の育て方』 (朝日新聞出版)は好評発売中!

学習や仕事の成果に大きく関与する「自己肯定感」は世界的にも注目されるファクター。超名門スタンフォード大学オンラインハイスクールで校長を務める著者が、そのコンセプトからアプローチ、エクササイズまで、最先端の知見を凝縮して教える。

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07