星友啓「私が全米トップの進学校で“哲学”を唯一の必修科目にした理由」
オンラインの授業で長々と「共有」をしてはいけない
みんなの介護 コロナ禍でオンラインの活用が進んで便利になった反面、つながりが希薄になりがちだという声も聞きます。
星 可能であれば小グループでの交流を深めることです。30人だとなかなか難しいけれど、5人ぐらいだと良いですね。
5人のグループでも、プレゼンのように1人の人がずっと話して終わりだと、つながりをつくる感じがなかなか出てこない。メンバーみんなに発言を回していくことが大切です。資料を全部読んできてもらい、プレゼンをレコーディングしたものを先に渡しておく。ミーティングでは議論だけ…。
教室の授業でも考え方は同じです。講義形式のような形だと難しいので、アクティブラーニングにする。生徒たちが主体となってエンゲージメントする授業形式にしていくことが大事です。それに、オンライン教育の場合は、臨場感を出すために、録画した映像を見るよりもライブが多い方が良い。
さらに普段のつながりのつくり方も重要です。オンラインでは会議も授業もクローズしてしまえばそれで終わりになる。会議室から出て廊下を歩いているうちに誰かに会うとか、トイレで井戸端会議なんていうことがありません。
どのようにして、対面であったコミュニティーの空間を再構築していくかということです。
その手段としてチャットなどのSNSは有効なツールの一つです。
業務連絡だけではなく、仕事に関係がないことを語るのを目的にしたチャットのスレッドを立てる。例えば「懐かしの音楽を3個あげる」など、お題を決めて回していく。そして、参加しているメンバーみんなで、役割を割り当てたりして盛り上げていく仕組みをつくる。給油室や喫煙所のほっとしたコミュニティーのスペースをオンラインで意識的に作るのです。
対面が良いと言うけれども、本当にそうだったか
みんなの介護 星さんの高校ではオンラインであるにもかかわらず、青春期ならではの友情を育むことができていることが伝わってきます。どんな取り組みをしているのですか?
星 私たちが取り組んでいるのは、今申し上げたような方法ですね。単にオンラインでつなぐのではなく、生徒たちが意見を交換してエンゲージするようにしています。先生たちが長い時間レクチャーするなんてことは、うちの学校ではありえません。
レクチャーをするのであれば、それを録画したものを授業の前に見てもらい、授業ではその内容をもとにしたディスカッションや演習を行う。
あとチャットの運用をかなり細かく考えてきました。クラスごとのチャットがあって、「〇〇さん、今日このことについて語ってね」と伝えておく。そうやって、初めのうちは生徒がお互いのことを知り合える状況を無理やりつくっておく。
そのような取り組みから、生徒たちが仲良くなると、自分たちでチャットをつくるようになります。そうなったら成功です。
学校で運営する対面のイベントも3ヵ月に1回ぐらい行っています。たまに会うことによって、人間関係をより深める。その人間関係をオンラインの方に持っていく。毎日会わなくてもいいわけです。
「対面がいいというけれども、本当にそうだったのか」と振り返る目線も持った方がいいと思います。対面にすることによって、本当に大事な友情や恋愛関係が育まれているのか。社会で日々起こっている出来事を見れば、そうとも言えないということがわかります。
みんなの介護 オンラインか対面かの手段よりも、人としてどれだけ良い関係性をつくれるかということですね。
星 そうですね。私は、人間同士の関係性を育むためには頻度と連続性がカギだと考えています。
例えば、今こうやってオンラインでお話をしたあと、会わなかったら友情はできないわけです。だけど何回か会うと関係性ができてくる。また、オンライン授業をする場合は、バーチャルであったとしても、常にそこにいるような感覚をつくっていくことが大事です。
頻度と連続性が人間関係を築くカギになるのは、オンラインでもリアルでも同じです。
古いままのカリキュラムが、学ぶ意欲を下げている
みんなの介護 ちなみに、日本の教育の課題には、ほかにどんなことがありますか?
星 昔からのカリキュラムがあまり変わっていないところですね。例えば数学の微分積分のように、40年ほど前に必要とされたスキルを身に付ける学習がいまだに残っている。教育も社会のインフラなので、急に変えたものが間違っていると大きな影響が出てしまうのはわかります。それにしても日本はかなり遅いです。
それから、これまでも問題とされてきましたが、教える人数が多すぎる。ようやく公立小学校の定員40人以下を35人以下にしようか…という話になりました。それも段階的に。
ほかの国の公教育を見ても、もっと少ない人数で教えている国は多い。個人に合わせて教育をパーソナライズできるような仕組みを作っていかなくてはいけません。
みんなの介護 例えば、「日常生活で使わないことをなぜ学ばないといけないの?」という声をよく聞きます。古いカリキュラムが学ぶ意欲を下げているように感じます。
星 まったくその通りです。例えば、数学や理科が日常との関連性から切り離されてしまっている。「微分積分なんて僕の人生にいらない」「何のために学ぶのかわからない」という生徒の声は無視できなくなっています。先生たちもそんな生徒の声になかなか答えることができません。
ようやく日常や社会に関連するように教えていくべきだと考えられるようになってきています。
実は今朝、世界屈指のEdTechカンファレンス「ASU GSV Summit」に参加していました。そこの主催者でもある米国1番のイノベーティブな大学といわれるアリゾナ州立大学の学長も同様の考えを示していました。
一握りの人が受けている教育の機会を広げていきたい
みんなの介護 なるほど。最後に、今後星さんが取り組んでいきたいことを教えてください。
星 これまでの私の活動の中でオンラインでも一流の教育ができるということは示せたと思います。しかし、本校の教育の機会を得ているのは、ごく一部の生徒たちでしかありません。
もっと多くの人に社会的なインパクトが持てる形で教育の機会を広げていきたい。そのために、まずは負担の少ない学費で学んでもらうために、どんな工夫ができるのだろうか関連のプログラムや事業を進めています。
あとは、脳科学を教育の中に取り込んでいくことですね。ただ教えるだけではなく、脳科学がベースになった効率的な学び方を学校現場に落とし込んでいきたいです。
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連載コンテンツ
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