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星友啓「私が全米トップの進学校で“哲学”を唯一の必修科目にした理由」

最終更新日時 2022/05/23

自己肯定感が強い=ナルシストではない。自己肯定感を持つのが苦手な日本人へのヒント

自己肯定感が科学を無視して語られている現状があった

みんなの介護 自己肯定感をテーマにした本を書こうと思われた理由は何ですか?

 一つは、日本人の自尊心や自己肯定感が他の先進各国に比べてびっくりするほど低いことに問題意識を感じていたからです。

例えば「自分に価値があると感じるか」という質問に対して、アメリカや中国では約8割がイエスと答える。しかし、日本ではそれが1割ぐらいです。もちろん「慎ましやかにしていなければ」という日本人特有の価値観もあります。それにしても低い。

そのような現状があり、自己肯定感を高める方法が日本で注目されるようになりました。しかし、科学的根拠が乏しく、逆効果につながる可能性もある内容が推奨されている。だからこそ先端の脳科学や心理学に基づいた自己肯定感の高め方について伝える必要性を感じたのです。

ナルシストや謙遜と自己肯定感はどう違うか

みんなの介護 日本では、自己肯定感を持っている=ナルシストと見られてしまう風潮もありますよね。

 確かに数十年前は心理学でも、自己肯定感や自尊心とナルシスティックな性格が結びついているという仮説が優位でした。しかし、現在ではこの2つは違うものだということがわかってきています。

ナルシストというのは、自分が他人より特別で優れているものであると感じて、周りから承認や尊敬を得ようとすること。

それに対して、“求めるべき自己肯定感”というのは、現実の自分を受け入れてありがたく思う気持ち。他の人との比較の上に成り立つものではありません。まして、他の人に承認をもらう必要もない。

一方で、謙遜というのは、ナルシストとは反対の姿勢に見えます。しかしよく考えると、謙遜も“周りに比べてどうか”という点から自分を見ています。

みんなの介護 ナルシストも謙遜も、他人の目が基準だったのですね。ちなみに星さんご自身は、自己肯定感は高い方ですか?

 今は高くなってきたと思います。昔は、あまりうまくいっていないなと思うことが多かった。特に暗中模索だった学生時代は、かなり自尊心が低くて、周りの人と話すのが難しいときさえありました。

日頃からいろいろな「顔」を持っておく

みんなの介護 星さんはどのようにして自己肯定感を高めて来られたのでしょう?

 『自己肯定感の育て方』の第2章で書かせていただいた自己肯定理論を実践してきました。これは、スタンフォード大学で屈指の研究実績がある社会心理学者のクロード・スティール教授が提唱した方法です。

私たちは、一人ひとりいろいろな「顔」を持っている。例えば、私は校長でありながら、二児の父であり、日本人であり、アメリカの永住者です。さらに少しひょうきんな中年男性で地域のマラソンクラブに所属している。

私という人間を、職業などの社会的役割、人種や文化的なバックグラウンド、どんな価値観や目標を持っているか、それらを踏まえてさまざまな角度から捉える。

落ち込むようなことが起きたときも、また別の「顔」を肯定できれば、気持ちを立て直しやすくなります。

そのためにも、日頃からいろいろな「顔」を持ってポートフォリオの中身を充実させておくようにするのが良いです。

人間の脳は自分を責めるようにメカニズムされている

自分を責めてしまう介護者へのヒント

みんなの介護 介護に携わる人の中には「自分の人生を犠牲にしても家族の介護をしないといけない」という思いでストレスを抱えてしまう人がいます。どうしたら自分の人生を大切にできますか?

 介護を支える制度自体が十分に整っていないという現状を踏まえた上で、自分を大切にするヒントをお話しします。

『スタンフォード式生き抜く力』という本にも書きましたが、人間というのはどうしても自分を責めるように脳がメカニズムされています。

人間にはネガティビティバイアスというものがある。間違ったことを次は直すためにも、自分を責めやすいように脳がメカニズムされたわけです。そういう仕組みになっているということを理解した上で、「自分を大事することは悪くないことだ」と意識的に考えることが大切です。

セルフコンパッション(苦悩する出来事にあったとき、自分に対する思いやりを持つ方法)などが注目を浴びて、科学的な研究も進んでいるのは良いことだと思っています。

また、先ほどのポートフォリオの話ではないですが、介護以外の時間も大切にする。例えば介護の合間にオンラインでのつながりに参加するなど、いろいろな自分の顔を持てる機会を考えることも力になるでしょう。

みんなの介護 自己肯定感が低い人というのは、そのまま行くとどんな悩みが生まれやすいですか?

 不安症やうつ病になる人が多いです。自己肯定感が低いと、現実の自分をありのままに受け入れて、ありがたく思うことができない。でも、そんな自分とずっと付き合わなきゃいけない。そしてストレスが溜まると、心や身体のいろいろなところに影響が出てきます。

それに、「今度こんな悪いことが起きたら立ち向かえない」という思いになって不安症の発症につながりやすい。

それから、お金や地位など、何かを得ることで自分の評価を高める間違った自己肯定感も、長期的にはうつ病や不安症のリスクをあげてしまいます。お金や地位などで短期的にはやる気や自己肯定感が上がっても、長期的には悪影響なことが明らかにされてきました。

そして、満足できなくなるとストレスが溜まってイライラしてくる。恋愛も友人関係もうまく続かず、離婚率が高くなるという報告もあります。心の隙間を埋めるために、タバコやお酒、ドラックなどの薬物に依存する傾向が出てくることも今までの研究でわかっています。

何歳からでも自己肯定感は高められる

みんなの介護 幼少期の環境で人間関係にトラウマを持つと、自己肯定感を持つことも難しくなるのではないかという気がします。

 そうですね。自己肯定感の持ち方の半分は幼少期の環境や遺伝によって決まります。しかし、もう半分は自分でどうにかできる問題なのです。

最近では、「ポストトラウマティックグロース」という言葉があります。トラウマから精神的な疾患につながっている人たちはたくさんいます。しかし、トラウマと向き合い乗り越える過程を通して成長していく生き方もできるという考え方です。

みんなの介護 トラウマになって終わりではない。その先があるということですね。

 まさにそうです。トラウマの影響で自己肯定感が低くなってしまう状況を変えられるということが科学的にわかってきています。

星友啓氏の著書『全米トップ校が教える自己肯定感の育て方』 (朝日新聞出版)は好評発売中!

学習や仕事の成果に大きく関与する「自己肯定感」は世界的にも注目されるファクター。超名門スタンフォード大学オンラインハイスクールで校長を務める著者が、そのコンセプトからアプローチ、エクササイズまで、最先端の知見を凝縮して教える。

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07