撮影当時の関口監督の心境は?
閉じこもりや入浴拒否よりも難しい問題だという認識はありました。だから、ダメで元々という心持ちでしたね
母の<下半身>問題は、一筋縄ではいかない…。
ある意味では、何年にもわたった母の閉じこもりや入浴拒否よりも難しい問題だという認識はありました。
それは母の「尊厳」に直結する問題だったからです。
この当時、すでに母の失禁や便の粗相が始まっていました。
母はそんな自分の状況を自覚できていたので、また失敗してしまうのではないかという心配のあまりトイレ通いが頻繁になり、特に夜中は30~60分おきに起きてくるような感じでした。

寝不足のため、昼間はフラフラ、さらに昼夜逆転が進行するという悪循環の中で暮らしていたのです。
せめてパッドを使う気持ちになってくれれば、夜もグッスリ眠れるのではないか。
久しぶりにこの動画を見て、そんな気持ちだったことをはっきりと思い出しました。
と同時に、母は娘の私が何を提案しても受け入れず、拒絶するだろうという覚悟も私の中にある程度できていたように思います。
母にとっては、娘から指図されるなんてトンデモナイというわけです。だから、ダメで元々という心持ちでしたね。
そのとき関口監督がとった行動は?
ケアマネージャーの西迫さんに説得をお願いしたものの、失敗。そんなときは全面撤退です
娘の話にはまったく聞く耳を持たない母ですが、外部の人に提案されたらどうなるだろうと考えて、ケアマネージャーの西迫さんに再登場をお願いしました。
つまり、この時点で、私一人で母を説得するのは、すでに諦めていたことになります。
自分の考えや思いに固執せず、ときには<撤退する>ことも大切なんですよね。
問題は<いつがそのときなのか>というタイミングを、介護している側が冷静に見極められるかどうか。
その1点に尽きると思います。
結果から言えば、動画をご覧になればわかるように、西迫さんの説得も失敗に終わりました。
私は母の表情を撮影していたので、すぐに「これはアカン」と思いました。

そんなときは全面撤退です。
母自身が納得できなければ(させられなければ)パッドにもリハパンにも移行できない。
私に残された選択は、ひたすら安いトイレットペーパーを大量に買うこと。
現にネットで安い商品を見つけ、定期的に購入することにしました。
また、粗相した下着は惜しみなくゴミ箱へ。
母は今まで通り自由に、同時に私もストレスが溜まらないように…。
関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?
うまくいかなければ撤退するのも選択肢のひとつ。ベストな状況や環境が整うまで辛抱強く待つ
「(相手のことを思って)こうなるといいな」「こうしてあげたい」という介護する側の思いは一見尊いように感じますが、果たして介護される側にとってはどうでしょうか?
ひょっとしたら、ウザったらしく感じるかも知れません。
介護される側の態度にイラっとしたとき、なぜ自分はイラっとしたのか。
自分の行為は、相手にどう見えているのか。
介護には、そんな冷静な態度と自己分析能力が必要だと思います。
私のように母にパッドを使って欲しいと思い、アクションを起こしてみても、うまくいかなければ撤退するのも選択肢のひとつです。
自分の考えに自分自身が縛られないようにすることは、介護においてとても大事だと思います。
全面撤退しつつ、心の中では諦めない。母のベストな状況や環境が整うまで辛抱強く待つ。

私は、パッドもリハパンもそのまま、母の目につかない場所に置いておきました。
いつそのときが来ても使えるように準備はしますが、決して押しつけない。
このあたりの「押してもダメなら引く」という塩梅は、介護が長くなるにつれて上手になっていったように思います。
そして実際に、母自身が納得してリハパンを履く日は、割とすぐにやってきたのです。