今回は新しく始まった「地域連携薬局」認定制度についてご紹介いたします。
まだかかりつけの薬局が決まっていないという方に、薬剤師や薬局を見つけるときのヒントになるかもしれません。
まだ普及していない「かかりつけ薬局」
2020年10月に内閣府が実施した世論調査報告によると、「薬局を一つに決め、薬剤師を一人に決めているか」の質問で、「かかりつけ薬剤師・薬局を決めている」と答えた人の割合は7.6%、「薬局は一つに決めているが、かかりつけ薬剤師は決めていない」と答えた人の割合が18.4%、「病院や診療所ごとにその近くにある薬局に行く」と答えた人の割合が57.7%となっています。なお、「特に決めていない」と答えた人の割合は13.7%に上ります。
この調査結果に、薬剤師として従事する一人としては大変残念に思いました。
クリニックや病院、歯科医院などを決めるとき、多くの人はご自身の価値判断で選ばれていると思います。「ここの病院は有名だから」「ここのクリニックは丁寧に対応してくれるから」「話をよく聞いてくれる先生だから」などの理由があって、医療機関、医師、歯科医師を選ばれているのではないでしょうか。
選定の判断基準では「近いからここに行く」という立地条件よりも、その医療機関や医師に対する「信頼」を重要視することが多いと思います。
しかし、薬剤師や薬局については「自分で選ぶ」という意識がまだまだ低いようです。「どこの薬局に行っても、もらう薬は同じだから」「なるべく病院から近くの薬局が便利だから」など、薬局や薬剤師ではなく、立地条件を薬局の選定基準にしている人が多いように感じます。
上記の調査において、「かかりつけ薬剤師・薬局を決めている」と回答された少数派の人たちがどのような理由から選んでいるかというと、「信頼できる薬剤師であるため」(49.7%)、「服用している全ての薬の飲み合わせについて確認してくれるため」(44.9%)、「生活状況や習慣などを理解してくれたうえで、薬についての説明などをしてくれるため」(36.1%)というような結果でした。
この結果を見ると、かかりつけ薬局を持っている人たちは、立地条件よりも、そこで働く薬剤師や薬局の機能に価値を見出して自ら選んでいることがわかります。少数ではあるものの、ここに価値を見出してもらえることは、薬剤師として大変うれしいことです。

求められる「地域に根差した薬局・薬剤師」
高齢化社会における日本では、医療機関の機能分化、在宅医療や施設・居住系介護サービスの需要が増える中で、地域でさまざまな療養環境(入院、外来、在宅医療、介護施設など)を移行するケースが増加しています。
地域包括ケアシステムの中における薬局・薬剤師
地域包括ケアシステムは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムのことを指しています。
薬剤師・薬局は、このような状況の変化に対応し、地域包括ケアシステムを担う一員として、医療機関などの関係機関と連携。その専門性を発揮し、安全かつ有効な薬物療法を地域の人々に切れ目なく提供する役割が求められています。
住民の方々にとって、地域に根差した「かかりつけ」となることができる薬剤師・薬局が求められているのです。
「地域連携薬局」が誕生した背景
このような背景から、2021年8月に「地域連携薬局」という新しい認定制度が、改正医薬品医療機器等法のもと施行されました。
「住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し」という方針が掲げられ、従来の対物業務(処方箋に基づいて医薬品を提供すること)だけでなく、対人業務(重複投与・飲み合わせのチェック、医師への処方提案、薬を渡した後の継続的な患者フォロー、薬の使用状況に応じて処方医等へのフィードバック、在宅訪問での薬学的管理など)について強化することが求められています。
薬局が「地域連携薬局」として認定を受けるためには、いくつかの要件があります。
- 関係機関との情報共有(入退院時の連携など)
- 夜間・休日の対応を含めた対応
- 地域包括ケアに関する研修を受けた薬剤師の配置
- 在宅医療への対応(麻薬調剤の対応など)
これらについて、都道府県知事が薬局の構造設備や業務体制に加え、機能を適切に発揮していることを実績により確認し、認定します。また、認定は1年ごとの更新制です。
始まったばかりの制度のため、まだ国民からの認知度も低く、認定を受けた薬局も少数です。このような認定制度が始まったことにより、多くの薬局が対人業務としての機能を今までよりも強化していくことでしょう。

認定の有無にかかわらず、薬局や薬剤師を「信頼」のもと選ぶというのは大事なことです。
薬を受け取る薬局を決めるとき、その立地条件だけで薬局を選ぶ時代はやがて終わりを迎え、そこに従事する薬剤師や薬局の機能によって人々に選ばれる時代が来ます。
一人でも多くの人が、自分の「かかりつけ薬剤師・薬局」をもっている。こう答えてもらえるよう、薬剤師も薬局も進化するときを迎えているのではないでしょうか。