介護者メンタルケア協会では、介護の現状把握をするための地図として「介護の4つの時期」をつくり、いつ何をどうすればいいのかをお伝えしています。
4つの時期とは、①ケガや病気などのトラブルが起きる「パニック期」、②容態に合わせて暮らしを整える手続きをする「環境調整期」、③実際の介護が始まる「生活期」、④「看取り期」です。

①~③を何度も繰り返すのが介護ですが、加えて、年末年始で慌ただしいときや、気象や交通状況で突然スケジュールが狂ったとき、冠婚葬祭などの行事があるときなど、介護者は小さな「プチパニック期」に翻弄されます。
マルチタスクは脳に負担をかける
私事ですが、最近、同居している姉が入院し、久しぶりの「プチパニック期」を経験しました。計画的な入退院だったので大混乱に陥ることはありませんでしたが、想定していた以上にタスクに追われました。
我が家には知的障がいの弟がいるので、病院の送迎や手続きがあります。そして、姉がいるときは私一人でもさっと済ませられた買い物や家事の負担が増えたことで時間が2倍以上になります。姉の不在で不安定になった弟への精神的なケアも必要でした。
その中で自分の仕事もあります。特に姉が入院した初日と2日目はまさに目が回るほどせわしなく、立ったまま食事をしたほどです。身体疲労はもちろんなのですが、久しぶりに「気力が尽きた…」という感覚を味わいました。
「どうしてこんなに疲れているんだろう」と自分を観察してみたところ、予定通りスケジュールをこなすために、一つの作業をしながらも、並行して「次はこれをしなければ、その次はあれをしなければ」とタスクの段取りを考えていることに気づいたのです。
頭の中で複数のことを考えながら行動することをマルチタスクといいます。このマルチタスクは、一見効率が良さそうに思われますが、実は脳に過剰な負担がかかります。
携帯やパソコンで、アプリを複数起動させていると、動作が遅くなったり、充電がすぐになくなったりした体験はありませんか? マルチタスクは脳のエラーとバッテリー切れを起こしてしまうのです。

タスクを「買い物メモ」化して淡々と取り組む
マルチタスクをしていたことに気がついた私は、シングルタスクへ変更することにしました。シングルタスクとは、一つのことだけに集中して行動することです。
まず、チラシの裏に、しなければならなないことを書き出しました。書き出すときに、順番や優先度を考える必要はありません。
頭に浮かぶことを全部書き出したら、今日やることと明日でもいいことといった大まかな優先順位を分けます。
余裕があれば、緊急度や優先度を踏まえて取り組む順番を決めると良いのですが、このときは余裕がまったくなかったので、リストの中から「今すぐできる一番簡単なことは何か?」を一つ決めて、それを完了させることから始めました。
私はそのとき、ちょうど夕方に差しかかっていたので、「洗濯物を取り込む」ことだけを実行しました。
次に夕食のための野菜を切る、次に弟の作業所に連絡を入れる…。とにかく簡単なことから淡々とやり、終えたら線を引いて消す。これを繰り返したところ、リスト全部を予定より早く終えることができました。
頭の中であれこれと考えながら行動していたときとは疲れ方がまったく違い、何より焦らずに済んで、とても気持ちよく一日を終えることができました。
その後も、頭で段取りを考えずにタスクをまず書き出し、一覧を見ながら行動する方法に専念したところ、やり残しや仕事のミスはほとんど起こらず、姉が退院する日まで大きなトラブルなく過ごすことができました。
このシングルタスクは、買い物メモと同じです。メモがないままスーパーで献立を考えながら買い物をしたら、余計な物を買ってしまったり、逆に買い忘れをしてしまったりといった経験は、誰にも覚えがあるでしょう。
買い物と同様、生活全般、仕事も含めて、メモ書きする時間をとって淡々と行動する方が、結果的に楽で良い仕事ができます。
年末年始はサービスが変則的になったり、家族や自分が体調を崩したりと慌ただしくなりがちな時期です。誰もが「プチパニック期」であるとも言えるでしょう。
パニックになったときにいきなり新しいことに取り組むことは難しいので、比較的余裕があるときにこのメモ書きをして一つずつ片付けていく方法を試しに取り入れて見てください。
多忙なとき、トラブルになったときにみなさんが取り組まれている対処法も、ぜひお聞かせくださいね。この「みんなの介護」の記事でもご紹介していきたいと思います。

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りのことやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。
「介護サービスを嫌がって使ってくれない」といった日々の介護の悩みについては、拙書『がんばらない介護』で解説をしています。ぜひ、手にとって参考にしていただければと思います。