皆さんこんにちは。陽だまりのnekoの夢のmaruこと井上百合枝です。
前回は「せん妄と認知症の違い」に焦点をあてましたが、今回は認知症の1つである「レビー小体型認知症」についてお話させていただきます。
前回、認知症の特徴として「認知機能の低下は一過性でなく、継続的」「発生は急激でなく、少しずつ経過」とお伝えさせていただきました。
では、表題にあります「レビー小体型認知症」の方は、認知症の方のなかでどのくらいの割合なのでしょうか。少し古いデータ(2012年3月)になりますが、『都市部における認知症有病率と認知症生活機能障害への対応』によると、アルツハイマー型認知症が67.6%なのに対して、レビー小体型認知症が4.3%となっています。
アルツハイマー型認知症と比べると、10分の1以下ということですね。数字からみても、まだなじみ深いとは言えない認知症のひとつであることが分かります。では、レビー小体型認知症とはどのような状態なのでしょうか。2人の例をあげてみます。
レビー小体型認知症の2つの代表的な症状
例1:70代女性、Tさんの場合
TさんはA市で10年ほど前から一人暮らしをしており、息子のSさんは結婚して隣市に家族と住んでいます。Tさんは夫が他界した後もいつも穏やか、そのうえ几帳面です。町内会の役員なども進んで引き受けていましたが、記憶力の低下が進み近頃はひとりで過ごす時間が多くなりました。
内科医からは服薬が処方されていますが、あるときを境に「手が震えてうまく薬の袋が開けられない」と言いだしました。その後、自分で薬を分けて処方どおりに飲むことも難しくなってしまったのです。
息子のSさんはそんなTさんを気にかけて、週末の昼間に顔を出して薬を飲みやすくするために仕分けをしていましたが、異変に気づきます。ある週末、昼間に予定のあったSさんが夕方にTさんの家に行くと、部屋中が泥棒でも入ったかのように荒れていたのです。
SさんがTさんに理由を聞くと、「天井にヘビが這っている。とぐろを巻いているときもある。ほら、今だってそこにいるでしょう!」と言って、とても怖がっています。 Tさんがそのヘビを追い払うために部屋中を駆け回ったので、周りが散らかってしまったようです。
以降、夕方になると毎日のようにTさんからSさんへ「ヘビが天井を這っている」「虫が部屋中にうようよいる」といった電話が来るようになりました。
例2:80代男性、Oさんの場合
Oさんは、普段はとても温厚な性格です。3年ほど前から歩くことに支障がでてしまい、あまり外出しなくなりました。娘のRさんは子どもの頃からOさんに怒られた記憶はありません。
ところが、あるときから気性が激しくなり、夜中になると大声をあげて家のなかを動き回るようになったのです。Rさんが「夜中だし、近所に迷惑がかかるから静かにして」と制止すると、余計に大声で「うるさい!何をするんだ!!」と叫ぶのですが、翌朝にRさんがOさんに昨夜の出来事を覚えているか聞くと、「そんなことはしていない」の一点張りです。
本人の恐怖を受け止めて対応すること
これら2人の症状は、レビー小体型認知症によるものです。
レビー小体型認知症の特徴は幻覚を見たり、記録障がいを起こしたり、パーキンソン病様の症状も起こします。TさんもOさんも、なぜ自分にそのようなことが起きているか理解できず、記憶の維持も難しいため、介護者も不安になったりイライラしたりすることも多いかと思います。
そんなときは、我慢せずにケアマネージャーや地域包括支援センター、訪問看護、主治医などに相談しましょう。医療面からのアプローチで認知症を治すことはできなくても、認知症進行や表出されている症状の緩和などができる場合があります。
また、介護保険の利用により、興奮時の転倒・転落等の事故やけがを防ぐため、手すりの設置をはじめとした住宅改修や福祉用具の再選定をすることも可能です。なにより、このようなときこそ介護者の休養が必要です。福祉サービスの利用により、介護者自身が追いつめられないようしっかりと休養・休息の時間を設けるようにしましょう。
症状に気づいたら医療・介護機関に相談を
さらに、TさんにもOさんにも共通するかかわり方のポイントとして理解していただきたいのは、2人とも恐怖や不安を感じているということです。
そのため、Tさんに限っては「ヘビなんていないでしょう」と声をかけるのは逆効果につながります。この場合、Tさんには「そうね、そこにいるのね、追い払うね」と言って本人の怖い気持ちを受け止め、対応することが必要です。
Oさんの場合は一緒に寝たり、本人が起きたら介護者が気づくような工夫(センサーや鈴のようなものを)をしておいて、本人が不安になったらすぐにかけつけましょう。本人にも介護者が気にかけていることが伝わるような工夫がオススメです。
いずれにしても、より良い介護のために医療・介護機関との連携はとても重要なことです。このような症状に気づいたときは、早めに医療・介護機関に相談しましょう。
そのとき、もし介護の計画を練ることがあれば、本人にとっても介護者にとっても少し余裕のあるものにすることが大切です。無理をせず、1人で抱え込まずに他者の手を適切に借りましょう。
※事例は、個人情報に配慮した架空のものです。