こんにちは。安部行政書士・社会保険労務士・FP事務所の安部静男です。
私は介護施設の設立に関する業務を行っています。その際に、処遇改善加算についての計画書や実績報告書の作成なども行っています。
介護の仕事をしている方は、「処遇改善加算」という制度を聞いたことがあると思います。毎月の給与や賞与などに上乗せして、支給されている方も多いのではないでしょうか。
今回は、「処遇改善加算」について解説します。
賃金改善の効果を継続するために創設された「処遇改善加算」
介護職員処遇改善加算は、2011年度まで実施されていた介護職員処遇改善交付金による賃金改善の効果を継続するために、2012年度から交付金を介護報酬に移行し、交付金の対象であった介護サービスに従事する介護職員の賃金改善に充てることを目的に創設されたものです。
これまで、何度か改定が行われてきていますが、介護職員の賃金改善を目的に創設され、職員の資質向上やキャリア形成、昇給やキャリアアップの仕組みの構築など要件を満たすことで加算の金額が大きくなる制度となっています。
2019年度の介護報酬改定においては、介護職員の確保や定着につなげていくため、処遇改善加算に加え、介護職員等特定処遇改善加算が創設されました。
処遇改善加算の種類
処遇改善加算は加算Ⅰ~加算Ⅴまでの全5区分からなり、区分ごとに設定された要件を満たすことで受けることができます。

処遇改善加算の要件
処遇改善加算の種類のところでも説明しましたが、処遇改善加算を受けるためには区分ごとに設定された要件を満たす必要があります。
その要件には、「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」があります。
キャリアパス要件にはⅠ・Ⅱ・Ⅲの3種類があります。
キャリアパス要件
- Ⅰ職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること
- Ⅱ資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること
- Ⅲ経験若しくは資格などに応じて昇給する仕組み、又は一定の基準に基づき定期に昇給を 判定する仕組みを設けること
キャリアパス要件Ⅲにある昇給の仕組み
- 「勤続年数」や「経験年数」などに応じて昇給する仕組み
- 「介護福祉士」や「実務者研修修了者」などの資格取得に応じて昇給する仕組み
- 「実技試験」や「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組み
職場環境等要件
- 賃金改善以外の職場環境の改善など、処遇改善の取組を実施すること
- 賃金改善を除く処遇改善の内容を、すべての介護職員に周知すること
キャリアパス要件と職場環境等要件の組み合わせにより、加算Ⅰ~加算Ⅴの区分が決まります。
介護職員の確保や定着のために創設された「特定処遇改善加算」
2019年からは、介護職員の確保や定着につなげていくため、処遇改善加算に加え、特定処遇改善加算が創設されました。
これは経験や技能のある介護職員の処遇改善を図ることを目的に、これまでの処遇改善加算に上乗せして加算が行われる制度です。
勤続年数が長く、経験やスキルのある介護職員へ重点的に賃金改善が出来るように制度が設計されています。
特定処遇改善加算を受けるための条件
- 従来の処遇改善加算の加算Ⅰ~加算Ⅲを受けていること
- 見える化要件など
文書作成における負担の軽減
処遇改善加算を受けるためには、計画書や実施報告書の提出などさまざまな手続きが必要です。
これまで、会社の事業主や事務職員は、計画書や報告書の作成作業に大変苦労していたと思います。
今回、「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」における議論や中間取りまとめの趣旨を踏まえ、処遇改善加算等の様式の取扱いについては以下の通りとすることとなりました。
処遇改善加算等の様式の取扱い
- 別紙様式は、原則として、都道府県などにおいて変更を加えないこと
- 計画書及び実績報告書の内容を証明する資料は、介護サービス事業者などが適切に保管していることを確認すること
- 都道府県などからの求めがあった場合には速やかに提出すること
- 届出時にすべての介護サービス事業者などから一律に添付を求めてはならないこと
- 別紙様式について押印は要しないこと
様式が変更になりましたが、介護職員処遇改善計画書と介護職員等特定処遇改善計画書及び介護職員処遇改善実績報告書と介護職員等特定処遇改善実績報告書の一本化も行われることになりました。
令和2年度の、介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算に係る届出から適用となります。
これまでは、処遇改善加算と特定処遇改善加算で別々の計画書や報告書の提出が必要でしたが、一本化されたことで少しは負担の軽減になっていると思います。
処遇改善加算は賃金の改善に繋がる大切な制度
ここまで処遇改善加算について説明してきました。
介護の仕事をしている職員にとっては、賃金の改善に繋がる大切な制度です。
処遇改善加算を受けるための「職場環境等要件」には、賃金改善を除く処遇改善の内容をすべての介護職員に周知していることとあります。
ご自身の働く事業所がどのような取り組みを行っているかについては、知っておくとよいと思います。
また、事業者にとってこの制度の趣旨や目的を理解することは、より良い施設や職場づくりにつながることだと思います。
処遇改善加算を導入していない事業所は、これを機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。