みなさんこんにちは。介護コンサルタントの星 多絵子です。
介護事業所では、余程の工夫をしなければ働く人材が集まりにくくなっています。
介護は重要な仕事にもかかわらず、給与が低いことが大きな要因となっているのでしょう。
今回は、そんな現状を打開するべく行われる「特定処遇改善加算」を紹介します。
特定処遇改善加算とは
今年(2019年)10月に消費税率が8%から10%に引き上げられます。
その財源の一部を、リーダー格の介護職員の処遇改善に充てることになりました。
詳細は職場内で最低一人、リーダー格の勤続10年以上の介護福祉士の賃金を月8万円上げるか、年収を440万円以上にするというもの。
この新しくできた加算を「特定処遇改善加算(介護職員等特定処遇改善加算)」といいます。
特定処遇改善加算が適用される条件は次のとおり。
特定処遇改善加算の適用条件
- 現⾏の介護職員処遇改善加算(I)から(III)までを取得していること
- 介護職員処遇改善加算の職場環境等要件について「複数の取り組み」を⾏っていること
- 介護職員処遇改善加算に基づく取り組みについて、ホームページへの掲載などを通じた⾒える化を⾏っていること
特定処遇改善加算の目的
介護職員の賃金は、全産業の平均と比較して10万円ほど低いです。
また、介護職員の離職率の高さも、改善課題とされてきました。
これまでも介護職員の職場定着のための取り組みとして、介護職員処遇改善加算等が設定されています。
定着率の向上を目指して、特に現場でリーダー的な役割を担う介護職員の賃金を全産業の平均年収440万円へ引き上げる特定処遇改善加算が新設されます。
なお、ベテランを優遇するのは、将来の生活を描きやすくしたりキャリアアップの道筋をわかりやすくしたりすることで、新規参入の増加や離職の防止につなげるためです。
対象者ごとの処遇改善内容
厚生労働省は、職員を3区分に分けて、それぞれ最低限の処遇改善ラインを決めています。
経験・技能のある介護職員
対象 | 勤続年数10年以上の介護福祉士 |
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改善の 最低ライン |
次の2項目を満たすように賃金を引き上げる ①事業所等の中で「月額8万円の処遇改善となる者」または「改善後の賃金が年収440万円(役職者を除く全産業平均賃金)以上となる者」が1人以上 ②平均の引き上げ幅は、「その他の介護職員の引き上げ幅の2倍」以上とする |
その他の介護職員対象
対象 | 「経験・技能のある介護職員」以外の介護職員 |
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改善の 最低ライン |
平均の引き上げ幅が「その他の職員の引き上げ幅の2倍」以上となるように、賃金を引き上げる |
その他の職種対象
対象 | 「経験・技能のある介護職員」「その他の介護職員」以外の全職員 |
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改善の 最低ライン |
改善後の賃金額が「役職者を除く全産業平均賃金(年収440万円)」を超えない場合に、処遇改善を可能とする |
440万円というラインが設けられたのは、全産業平均よりも給与の高いスタッフの賃金を、特定処遇改善加算でさらに引き上げることは、特定処遇改善加算の趣旨に反するためです。
特定処遇改善加算の問題点
特定処遇改善加算の、「10年以上の介護職員の賃金を上げる」という趣旨は良いのですが、対象となる人が少ないことは問題点の1つだと思います。
介護職員は離職率が高く、同じ施設に残るケースが少ないからです。
なにをもって経験・技能のある介護職員とするかについては、勤続10年以上の介護福祉士が基本とされていますが、10年の開始日はいつからかについては経営者の判断に委ねられます。
このように、経営者の判断にゆだねられる制度では、一番働いている介護職員に給与として結局いきわたらないリスクをはらんでいます。
まとめ
2019年度の特定処遇改善加算の内容をみたところ、介護保険の報酬で介護職員の給与がまかなえるのか、また、経営者にいったんお金が入る仕組みにも疑問を感じます。
裁量が恣意的にならない仕組みも必要ではないでしょうか。
今後、勤続10年以上の介護職員がどれだけいるかや効果は本当にあるのかなど、注目する必要がありそうです。