老人ホームへ親を入れるときに、「なんとなくモヤモヤしてしまうこと」ってあると思います。
そのモヤモヤの正体は「親を施設に入れることへの罪悪感」ではないでしょうか?
在宅介護が大変だから、以前から老人ホームへの入居を少し考えていたけど、いざ自分の親のことになると「自分のやっていることは親不孝なのではないか」と罪悪感に苛まれてしまうかもしれません。
しかし、介護者の人生も大切で、モヤモヤしているときこそ自身や要介護者の生活環境を見直すタイミングなのかもしれません。
この記事では、「自分の親を老人ホームに入れる時に持つ罪悪感への向き合い方」や「老人ホームの取り組み」などを紹介していきます。
介護者の我慢だけで成り立っている状況は危険
私が過去、関わった要介護者では以下のような事例がありました。
【事例】Iさん(60代女性)
Iさんは90歳の母親と夫の3人暮らし。
働きながら90歳の母親の在宅介護をしていたIさんでしたが、毎回トイレに起きる母親の介助に精神的にも身体的にも限界を感じていました。
老人ホームへの入居も頭をよぎる一方で、Iさんは老人ホームに入れた後の母親の姿をときどき想像しては、心の中で入居を断念していました。
入居後、面会に行ったときに母親が「一緒に帰りたい」「いつ帰れるの?」と自分に話しかけてくる姿を想像したら、なんとも重い罪悪感に苛まれてしまうのです。
老人ホームへの検討を断念しようとしていたとき、ケアマネである知人に相談。
「まずは入れる入れないは置いておいて、近隣の老人ホームのパンフレットを集めてみたら?」とアドバイスをもらい、情報収集してみることにしたのです。
事例のように親を老人ホームへ入れることへの罪悪感を持つ人は多いです。
しかし、介護者の我慢だけで成り立っている現状であるとしたら、本当に介護サービスを利用しないことが最善の選択であると言えるでしょうか?
一度冷静になり、何が両者にとって一番良い選択なのかを考えてみるのも良いでしょう。

老人ホームの取り組みやメリット
入居への不安がある方は、まず老人ホームの取り組みやメリットを知ることから始めましょう。
細かく老人ホームの情報を把握すれば、自分が想像していた以外の発見がある可能性もあります。
これから老人ホームの取り組みと入居のメリットをそれぞれ解説していきます。
老人ホームの取り組み
老人ホームでの介護ケアは、衣食住のお世話のみではありません。
衣食住の基本的な介助以外にも、主に下記のような内容の介護ケアを実施しています。
残存機能維持・向上のための自立支援
老人ホームといえば、一方的なお世話をされるだけと思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
日常生活上のリハビリとして各利用者のできることは自分でしてもらい、できない部分はスタッフがサポートすることで個々の生活力を高めています。
生活の質向上を目指し、継続してできることを伸ばす訓練を行います。
生活相談
生活相談はサ高住に組み込まれていることが多い介護ケアの一環ですが、表記していないだけで特養やグループホームでも同様のことは行われています。
施設生活での困りごとや相談に対応し、必要があれば他職種との連携を取ります。
メンタルケア
日々の生活で大切なメンタルケアも行っています。
音楽療法や回想法などを用いたリハビリを始めとし、日頃から利用者のメンタル面に関心を持ちながらケアを行うことを基本としています。
利用者の精神状態を観察し、変化があればスタッフ同士で情報共有しながら、メンタル安定を図る介護ケアを実施。
利用者が心穏やかに暮らせるように、スタッフが家族のような存在になり、家庭的な雰囲気を演出している小規模な老人ホームもあります。
介護スタッフは、利用者が「自宅に居ることができず寂しい思いをしている可能性がある」ことを理解し、気持ちに寄り添った介護ケアを実施するように教育されています。
介助だけでなく、多方面から利用者の生活サポートをするのが施設での介護ケアなのです。
レクリエーションやイベントなど
季節行事や日々のレクリエーションなど、多彩なイベントを行う老人ホームも多いです。
四季折々の季節感ある室内イベントはもちろんのこと、外出や食事イベントなど、楽しめる企画を多く用意しています。
イベントやレクリエーションの参加により、生活のメリハリとなったり、他者との交流が広がったりする点が大きなメリットです。
老人ホーム入居のメリット
実は老人ホームの入居メリットは、在宅介護の負担軽減のみならず、さまざまなものがあります。
主な老人ホーム入居のメリットは以下です。
- 残存機能維持ができる
- 健康管理ができる
- 協力医療機関との連携で万一の際も安心
- 他者とのかかわりが増える
特別養護老人ホームや住居型有料老人ホーム、グループホームなど老人ホームの種類によってケアの内容や環境は変わりますが、大まかなメリットは同じです。
老人ホームへの入居により「栄養バランスが整った」「今まで歩けず車イスを使用していたが少しずつ歩行器で歩けるようになった」など、状態が改善するパターンもあります。
また、イベントやレクリエーションが盛んな介護付き有料老人ホームなどに入居すれば、他の利用者との交流機会も増えるでしょう。
なお、入居してもらうことに不安がある場合は、本人の性格や苦手なことを想像してみるのも一つの手です。
例えば、食事にこだわりがあり引っ込み思案な方であれば、食事に力を入れていたり、家庭的な雰囲気を演出していたりする老人ホームを探してみるのがおすすめです。
各老人ホームのメリットと本人の性格や特徴を照らし合わせ、入居先を探してみると、よりマッチした施設が見つかるかもしれません。

罪悪感の根本原因を整理しよう
人間が不安になる根本の原因は、「わからない」からです。
「未来がわからないから心配になる」
「誰かが悪口を言っているような気がするけどよくわからないから不安になる」
といったように、人間は漠然としたものに対して不安を抱くようにできています。
しかし、不安になっている対象の情報を、すべて把握していたらどうでしょう?
例えば、就活面接が不安な方が、面接で聞かれる内容や面接官の人柄、当日の雰囲気など事前に知っていたら、その不安は軽減されるはずです。
このように、漠然とした不安は未知の何かから発生しているのです。
老人ホームへの罪悪感も同じこと。生活状況やスタッフの雰囲気などがわからないから、余計にモヤモヤするのです。
老人ホームへの入居が少しでも頭をよぎったならば、まずは老人ホームの情報収集から始めてみてはいかがでしょうか?
老人ホームといっても種類はさまざまあるので、いきなり入居を決めずとも、まずはショートステイから利用してみたり、可能であれば体験入居をしてみたりする選択肢もあります。
在宅介護での負担を感じているのであれば「老人ホームへの入居は無理」と断言せず、まずは罪悪感の根本である不安と向き合ってみましょう。
介護する側される側両者の人生を考えた選択を
要介護者が実親である場合は、特に「老人ホームに入居させること」に対して不安を抱く方が多いです。
確かに誰だって自宅にいてもらうほうが落ち着くかもしれません。
それを考えると「老人ホームに入れる自分は親不幸なのではないか」と悩んでしまうものですよね。
しかし、介護者が負担を抱えたまま在宅介護で力尽きてしまった場合を想像してみてください。
「限界を超える前に老人ホームに入居していれば、ここまで身体を壊すことはなかった」という現実を迎えてしまう可能性も0ではないはずです。
老人ホームには入居する形になったけど、要介護者も家族も元気で、週に1回面会に行けるほうが両者にとってより良い選択である可能性もあります。
本来、老人ホームは在宅介護で疲れた要介護者と家族の生活、そして人生の質を上げるためのもの。
まずは、「自分の人生を大切にすること」を自分自身に許可し、入居する場合はしっかり情報を集めたうえで、本人に合った老人ホームを選びましょう。