通所介護施設の送迎業務にはリスクがある
通所介護施設の業務を簡単に分類すると、「運転などの送迎業務」と「施設内での業務」の2つに分かれます。介護の仕事といえば後者のイメージが大きいですが、通所介護施設では送迎業務が不可欠です。
しかし、通所介護における送迎業務にはいくつかの課題があります。
- 交通事故のリスク
- 免許を持っていても運転技術に自信がない職員が多い
- 都市部では運転免許の保有率が低い
上記がネックとなって、職員やスタッフの採用が困難になっている事業所も少なくありません。送迎車の運転と施設内業務の両方を行えるスタッフはなかなか見つからないのです。
通所介護施設の運転業務は担い手が不足
厚生労働省は、介護事業所の業務を明確に切り分けて、分担することを提唱しています。介護のスペシャリストは、直接介護などの専門的な業務に注力させるのが望ましいとされています。
とはいえ、介護職員の負担を軽減させるために運転業務だけを行うスタッフを雇うとしても、終日運転が必要になることはあまりありません。
業務効率化を図る目的で、運転業務担当のスタッフを採用したはずが、経営が非効率になってしまうのでは本末転倒です。
特に小規模事業所の場合は、次のようなデメリットが生じる可能性が高まります。
- 介護担当スタッフが運転 →特定スタッフへの負担増加
- 運転担当スタッフが運転 →運転スタッフの雇用による人件費の増加
あちらを立てればこちらが立たずという状況になります。全職員が運転も施設内業務もすべて行えるのが理想ですが、そうした人材を採用するのは非常に困難です。
前述した送迎業務に関する人材不足やリスクを考えていくと、運転業務自体をアウトソーシング(外部への業務委託)することが一つの解決策になります。

地域全体の送迎業務を一括して引き受ける「ゴイッショ」
自動車メーカーのダイハツは、通所介護などの送迎業務サービスを提供する「ゴイッショ」を2022年春からスタートしました。
「ゴイッショ」は通所介護施設が各自で行っていた送迎業務を、ダイハツが引き受けて、地域一体で運行するサービスです。
まさに介護業界に求められている業務の切り分けを地域規模で実現してくれるサービスといえるでしょう。
アウトソーシングのメリット・デメリット
アウトソーシングによるメリットとデメリットには以下のようなものが考えられます。
メリット
- 自治体側:地域の介護事業の効率化が図れる
- 事業者側:送迎業務での事故リスク、運転スタッフの採用困難を解決
- 利用者側:今後も継続して通所介護施設を利用できる。通所施設の送迎に限らず、他の移動サービスも利用できる
デメリット
- 自治体規模での導入のため、1つの介護事業所の希望では利用できない
上記からもわかるように、現状ではメリットばかりで、自治体・事業者・利用者の三方良しといった印象です。
自治体という地域規模でのサービスのため、導入から開始までの時間は多少かかると思いますが、地域全体の問題を協働で解決する視点は、今後の介護事業を考えるうえで非常に大切なポイントになります。
送迎業務の効率化で介護サービスの質の向上が見込まれる
介護事業者にはスケールメリットを活かすような経営が求められています。スケールメリットとは、事業規模の拡大によって生まれる業務効率の向上などを指します。
介護事業所は規模が大きければ大きいほど利益率が高くなる傾向があり、業務効率化も図りやすくなります。
「ゴイッショ」は、各事業所による努力だけではなく、地域全体の介護事業所がまとまって送迎効率化を促進します。
地域全体を1つの介護サービスとみなして、送迎業務を効率化していくことで、大きな効果を生み出せるのではないでしょうか?
介護報酬改定のたび、介護事業所が生き残るためにはどうするかという話題が増え、大事な部分が忘れられがちになります。
「ゴイッショ」のように、地域で協力体制を構築して住民たちをケアしていくという考えはとても魅力的です。
こうした民間サービスが広がり、地域全体で介護業務の効率化を促すことができれば、介護職員の負担が軽減され、結果的に介護サービスの質が向上するのではないでしょうか。
