財務省が介護給付費抑制のために、要介護1・2の方の総合事業への移行を提言したことで、介護業界に大きな波紋を呼んでいます。
厚生労働省の報告によれば、2022年2月の時点で要介護・要支援認定者は689.1万人。そのうち、要介護1は142万人(20.6%)、要介護2は116万人(16.8%)となっており、約4割を占めています。
さまざまな議論が起きていますが、何よりも要介護1・2の方を「軽度者」と位置付ける見解には疑問を覚えます。
そこで、要介護1・2の方は本当に「軽度者」なのかを考えてみたいと思います。
介護度と介護に要する介護力は比例しない
財務省は、要介護1や要介護2の方を「軽度者」という言葉で位置付け、介護の労力は比較的軽くて済むかのような印象を植えつけようとしているのではないかと思います。
これまで要介護者を支えてきた在宅介護者や介護従事者を冒涜しているとさえ感じています。
かねてより要介護度と必要な介護労力の不一致が問題視されてきました。例えば「自立度が比較的高く、認知症の症状が比較的重い」方は、要介護度の区分が低く抑えられてしまう一方、介護に大きな苦労を伴います。
その実態を説明する前に、まずは「要介護認定等基準時間」について知る必要があります。
要介護認定等基準時間とは、要介護度を決める際の基準となる介護に必要な時間のことです。
要支援1 | 25分以上32分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
---|---|
要支援2 | 32分以上50分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護1 | |
要介護2 | 50分以上70分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護3 | 70分以上90分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護4 | 90分以上110分未満又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護5 | 110分以上又はこれに相当すると認められる状態 |
要介護認定等基準時間は、次の5つの分類にかかわる介助をそれぞれ時間にして数値化したものです。
- 直接的生活介助(入浴・排泄・食事など)
- 間接的介助(洗濯・掃除など)
- 問題行動関連行為(認知症周辺症状に対応する援助)
- 機能訓練関連行為(歩行や日常生活訓練に関する援助)
- 医療関連行為(輸液管理や診療補助・処置など)
この時間には、実際にかかる時間や手間がほとんど加味されていません。
認知症の症状により実際には24時間目が離せない状況だったとしても、身体的には元気で5つの分類のうち4つの分類については問題がなかった場合、最大でも20%の基準時間までしか加味されないということが起こります。
そのため、介護度と介護に要する介護負担は比例しません。
例えば、対応を一つ間違えようものなら暴言を放ち、時として暴力を振るってしまう要介護度1の認知症の人がいる一方で、言葉を失って動くこともままならないが静かにベッドで過ごしている要介護度4の人もいます。
介護する側の心労や介護ストレス、実際の介護に要する時間を比較すれば、前者の「要介護度1」の方が労力は大きくなります。
要介護認定については言及されていませんが、財務省が「軽度者」とする人の中には、介護者にとって重度と感じるような方も含まれているのです。

要介護度が反映されないケース
あってはならないことですが、認知症の症状がない要介護者が現行の介護保険サービスを利用できなくならないよう、上手に演技して実際よりも要介護度が重く認定されることがあります。
その一方で、認知症の症状が重い方は、そうした演技ができないどころか、逆に背伸びして健康に見せてしまう傾向があるため、要介護度が軽くなってしまうことも少なくありません。
これらは確かに極端な例ですが、要介護度の数値と必要な介護労力の不一致が頻繁にあることは事実です。認定結果に不服がある場合、再申請や申し立てができますが、時間と労力をかけてそうしたことをやる人は多くはありません。
単純に介護度の段階は自立を含めて、わずか8段階しかありません。さらに、有効認定期間は短くて1年に1回、今では4年に1回という長い期間でしか見直しされません。
もはや「次の認定期間が来たときには介護保険制度が変わっていた(3年に一度見直しされる)」という事態になっていることもあるのです。
加えて、それほどの長期間を経て、わずか1時間程度の認定調査と、数分診察を受けて出される主治医意見書などで審査された要介護度が、介護者の日々の苦労やストレスをも汲み取って導き出されることは残念ながらありません。
介護度の軽重に最も強く影響するのは、むしろお住いになっている自治体の財政状況というのが現実だと考えるべきかもしれません。
要介護1・2の人は軽度者とは呼べない理由
介護の状況は日々刻々と変化しています。たとえ要介護者側が大きく変化しなくとも、生活状況が変われば要介護度にかかわらず大変な状況になることも想像に難くありません。
要介護度は見えないものを数値化した一つの目安ではありますが、ストレスや労力を単純に数値化できるものではありません。
介護が数字通りに負担の軽重を示すなら、要介護度が低い在宅要介護者を看きれなかった在宅介護家族は、介護力が足らないとか、努力不足とでもいうのでしょうか。
そんなことは断じてありません。私も軽度者などと括れない壮絶な介護現場をいくつも見てきました。
私は、22年間在宅介護の通所サービスをメインに携わらせていただいてきましたが、要介護1・2の認知症の症状のある方々に、暴力や暴言を振るわれたことは少なくありません。
もちろん、介助方法が適切ではなかったことやアプローチの方法が間違っていたというケースもあります。要介護度1の方でも警察に頼らざるを得なかったこともありますし、何度も捜索に駆け回ったこともあります。
私たち介護従事者は「あなたたちに看てもらっている間だけまともに働ける、家事ができる、やっと眠れる…」といった感謝の声をいただくことがあります。在宅介護者の涙にもらい泣きしそうになりながら、今も支援にあたらせていただいています。
在宅介護の現場は声を上げられないだけで、介護保険制度だけでは足らないほどの苦労を抱えています。

それを財源がないからと発足当初の介護保険対象者を減らせばいいという安易な発想には耳を疑わざるを得ません。
ただでさえ介護保険制度は改定や見直しが頻繁に行われ、そのたびに複雑でわかりにくく、使いづらくなっています。実態をきちんと調べ、十分な審議がされることを切に願います。