千葉県の地域包括支援センターに社会福祉士として勤務する藤野です。
事故や犯罪が起きたときは110番、火事や救急は119番というのは小学生でも知っているほど一般化されています。
しかし、地域包括支援センターを「高齢者の相談窓口、福祉の相談を受ける場」と認識している方は少ないのではないでしょうか。
そこで、改めて地域包括支援センターが持つ役割や、よく寄せられる相談内容について解説します。
全国に広がる地域包括支援センター
そもそも「地域包括支援センター」とは何でしょうか。
厚生労働省の定義によると「地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とし、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関」です。すべての市町村に1カ所以上設置されており、全国に5,351カ所あります。
運営形態は市町村直営が20.5%、委託型が79.5%で、委託型が増加傾向にあります。全国に5,351ヵ所も存在しているにもかかわらず、一般化されていないことは大きな問題だと考えています。
そこで、私たちは地域のあらゆる世代の方に広くその存在を知っていただけるよう回覧板を作成し、活動内容を周知するなど、さまざまな取り組みを行なっています。
そもそも、どんなときに地域包括支援センターへ相談したら良いかわからないという声があります。そこで実際にあった相談内容を3つご紹介します。
地域包括支援センターに寄せられる相談トップ3
第1位:介護保険の申請
最も多く寄せられるのは、介護保険申請に関する相談です。「認知症状が出てきた」「腰が痛くて起き上がりが大変」「家の中を歩くのも大変になってきた」「自宅のお風呂に入るのが怖い」といった状況に対処するため、福祉サービスの利用が必要となった高齢者の介護保険申請をお手伝いしています。
高齢者や家族にとって、あまり慣れていない書式に則って、介護保険の申請書を作成することはとても大変です。
そんなとき、地域にある包括支援センターに連絡してください。自宅まで訪問し、介護保険申請書の作成や提出を支援してくれます。介護保険の申請をすると認定調査員が調査に来ますが、ひとり暮らしの方や家族が日中働いていて調査に同席できない場合などは、包括支援センターのスタッフが立ち合うこともあります。

第2位:介護給付に関すること
「デイサービスを利用したい」「ヘルパーさんに調理の支援をしてもらいたい」「布団からの起き上がりが大変なので介護ベッドが使いたい」など、介護給付に関する相談内容は多岐にわたっています。
ポータブルトイレや浴槽の手すりなどの購入もお手伝いしています。これらの製品は量販店でも購入可能ですが、介護保険を利用することで1割負担で購入できる場合が多くあります。そのうえ、介護保険で購入できる製品の方が使い勝手にも優れていることがほとんどです。
例えば、量販店で手すりが付いていないポータブルトイレが5,000~6,000円だったとすると、介護保険制度の利用で脱臭機能などが付属した利便性の高い製品を同額程度の自己負担で購入することができます。
ただし、事前に申請しなければ介護保険の適用とはなりません。
介護保険制度を活用すると、介護の負担だけではなく、金銭的な負担を軽減できることもあります。福祉サービスや福祉用具の購入、住宅改修の相談も包括支援センターの業務として大きな比重を占めています。
第3位:虐待について
1位や2位と比べるとそれほど多くはありませんが、虐待に関する相談が寄せられることもあります。地域包括支援センターでは、高齢者の虐待については当事者や民生委員からの連絡、警察からの情報提供をもとに対応しています。
暴力や金銭的な搾取が生じ、高齢者の生命の安全が確保できない場合は当事者から身柄を引き離すなどの手配を行政と共同して行います。
介護者のストレスによって虐待が生じている場合は、福祉サービスの提案や家族関係の調整なども支援しています。
高齢者の命の安全と人権を守るために、虐待対応だけでなく成年後見人制度のご案内や引きこもりの子どもや孫の支援も関係機関と共同して実施します。
高齢者の生活上の課題は、本人にだけ起因しているのではなく、子や孫といった周辺の人間関係から生じていることも多くあります。そのため、子や孫の状況によっては必要な医療機関への誘導や仕事を探す機関につなげるなどの対応も必要です。
高齢者に関するさまざまな困りごとに対応
多くの相談を受ける事例として、独居高齢者で身寄りがなく、さらに認知症状により在宅での生活の維持が困難というケースがあります。そして、そういった状況にある高齢者の入退院の支援なども行っています。
また、体調が悪いのにお金がなくて通院や入院をあきらめている方などに向けて、生活保護の申請の支援も行っています。
高齢者が安心して地域で生活していくためには、介護保険による福祉サービスの利用だけでは解決できないことが多々あります。
高齢者の心身や金銭状況だけでなく、家族が抱える課題も解決していかなければなりません。
例えば、飼い主が急逝した後、40匹を超える猫たちが残され、残された飼い主の家族の生活環境と経済状況をひっ迫させるケースがありました。このケースでは、近隣住民とのトラブルにも発展してしまいました。
そこで、動物愛護団体の方々と連携し、猫たちの避妊去勢手術の段取りや子猫たちの里親探しなども行いました。その結果、世帯の住環境や経済状態も安定し、猫たちも穏やかに生活できるようになりました。
また、介護を担う家族がうつ病などの精神疾病に苦しんでいるケースもあります。専門医による治療を受けていない方も多く見受けられますし、そういった症状のために就職や社会参加が阻まれていることもあります。
そうしたとき、私たちは医療機関や障がい者関係の行政機関と連携して家庭内の複合的な生活課題の支援も行います。

地域包括支援センター単独では解決することが困難な課題でも、多種多様な職種や機関、住民との連携で高齢者のさまざまな困りごとに対応しています。もし高齢者に関わることで困ったことがあれば、地域包括支援センターを気軽に利用してみてください。