こんにちは。理学療法士でライターの中川恵子です。「介護の教科書」の連載では、介護を経験した方へのインタビューをご紹介させていただきます。
アロマの香りにはいろいろな効果がありますが、コミュニケーションの手段にもなるアロマを、介護の現場で試してみたことはありますか?
歳をとると、皮膚が乾燥しやすく、かゆみで悩んでいる方も多いですよね。そのような場合にも、アロマが有効なことがあります。
義父、認知症の義母、実父を介護してきて、現在は7年ほど前に近所に呼び寄せた実母の介護と、かれこれ20年介護をしてきた福祉アロマケア心香・芳崎欣子さん。介護福祉士、介護支援専門員として在宅介護の現場で働きながらアロマを勉強し、介護に生かした体験談についてお話をお伺いしました。
家族の介護を通して、介護福祉士、ケアマネージャーを目指す
私(芳崎欣子さん)は、結婚後2年ほどで義父の介護がスタートし、義父の死後、2001年にホームヘルパー2級を取得し、介護の仕事を始めました。
介護職を志すきっかけは、義父の介護中に困ったり、義母の付き添いで、義母の妹たちを見舞うたびに衰えていく姿を目の当たりにしたことでした。
例えば、義父が入浴中に浴槽から出られなくなったり、おむつ交換のときに義母と二人で大変な思いをしました。今後、義母のサポートをしていく自分を想像したときに「介護の知識は必要」だと思い、まずは資格を取得しようと思いました。
45年ほど前、私の祖母はアルツハイマー型認知症でした。母は祖母の様子を実家に見に帰るとき、いつも私を一緒に連れて行きました。母が家の中を片づけている間に、母の代わりに散髪屋さんに洗髪に連れていくことが、私の役割でした。
認知症の祖母はお風呂に入るのを嫌がりました。体を拭いてあげることはできましたが、ドライシャンプーもない時代でしたので、髪を洗うのが困難でした。そのため、自宅で清潔を保つことが難しかったのです。
道中で動かなくなったりしてしまう祖母を、たった100メートルほど先の散髪屋さんまで連れていくことは、小学生の私にとっては大変でした。
その頃は認知症という言葉もなく、「ボケた」「頭がおかしくなった」などと言われている時代でした。私だけで祖母を連れて行くと、「おばあちゃんは、頭おかしくなったからな」というようなことを言われることがありました。
たぶん祖母のことが心にずっと残っていて、「認知症のケアは介護に対する心得や技術を知っておかないと将来大変なことになる」と思ったことも介護の世界を志すひとつのきっかけになっていたのかもしれません。
在宅介護の現場で働きはじめると仕事が楽しく、その後、介護福祉士の資格を取得しました。2009年には、介護支援専門員の資格を取り、2010年からは介護支援専門員として働き始めました。
そんな折、実母の病気が発覚。入院して手術をするも、予後が悪く病院を渡り歩く日々。そんな中、実父が要介護状態となり、3人のサポートをしながら介護の仕事を続けることが難しくなり、2011年にリタイアしました。
入浴事故の懸念から入浴サービスの利用を開始
その後、義母の認知症の症状は進み、2014年末からの腰痛のため、義母のデイサービス利用を増やして入浴サービスを利用し始めました。
ある日突然、デイサービスで「これからはずっと、ここで入ってね」と言われれば、拒否をするのが当たり前でしょう。もちろん義母もデイサービス利用時の入浴を断固拒否しました。
義母が入浴拒否する気持ちも想像できましたが、家族の立場となると「そうよね、入りたくないよね」では済ませられません。
私は多方面からアプローチして下さっている介護職員さんの努力を水の泡にしないように「自宅でお風呂に入る!」という義母の申し出を断り続けました。当初は5回に1回しか入浴できませんでしたが、3回に1回、2回に1回となり、8ヵ月経った頃にはデイサービスでの入浴がほとんどできるようになりました。
職員さんにも人気!デイサービスの浴室がアロマの香りに
義母は自分の手を袖に通せるのですが、セーターの上からシャツを着てしまったり、10枚くらい重ね着してしまうので、サポートが必要な状態でした。
背中が老人性の乾皮症で痒くなっていたので、痒さを緩和してくれそうなアロマブレンドオイルを塗った後、ベタベタしないようにベビーパウダーのような役割を果たすクレイをつけると、「気持ちいいわ」と喜んでくれました。
私は、カモマイル・ローマン、ラベンダー、フランキンセンスを、ホホバオイルにブレンドしていました。
「乾燥しているから、着替える前に塗っとこうね」と言って、オイルを使ったタッチケアをして着替えを手伝うと、気持ちが落ち着いて介助を嫌がらない効果があるようでした。
だんだんできないことが増えてきて、着替えの準備などを私がするようになってくると、職員さんにオイルを渡して、デイサービスでもお風呂上がりに使ってもらうようにしていました。
義母は嗅覚が低下していたので、香りがわかっていたかは怪しかったのですが、「これを使うと浴室にいい香りが広がる」「今回の香りはすごくいい香りですね」と職員さんが喜んでくれました。
身内介護でやり残したことを、ほかの高齢者介護で実践
義母がいなかったら、介護の資格をとって仕事にすることも、アロマを学んで仕事にすることもなかったと思います。それほど介護経験は「今の私」に大きな影響を与えています。
2011年に父が亡くなり、2014年に実母を自宅近くのマンションに呼び寄せてから、マンションの一部屋を貸してもらってアロマサロンをはじめました。
介護というのは自分の親や義両親だからこそできなくて、他人相手ならできることがたくさんあると思います。
義母がお世話になった感謝の気持ちと、自分が身内介護でやり残した思いのあることを、ほかの高齢者にお返しして喜んでいただきたいという思いが、施設でのアロマボランティア活動を始めるきっかけにもなりました。
私は、介護職として働いてきて、介護者家族として介護をしてきました。自分たちが将来介護サービスを利用する立場になったとき、安心して笑顔で過ごすために、アロマを活用したケアも選択肢の一つとして当たり前になる時代になれば良いなと思っています。