皆さんこんにちは。終活カウンセラー協会認定終活講師でジャーナリストの小川朗です。本日は何かと話題の「総合事業」にスポットを当てたいと思います。
総合事業が進められるも普及はまだまだ
総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)というのは、超高齢社会のニッポンにおいて、今後さらに深刻化する人手不足への対策として、介護予防とボランティアなどの人的サポートを行っていこうという考え方です。
出典:厚生労働省
こうした事業は自治体を中心に進められています。例えば、新潟県新潟市では「にいがたし元気力アップ・サポーター制度」を実施。65歳以上の介護保険第1号被保険者を対象として、特別養護老人ホームやグループホームなど、登録している577の施設・事業所でお茶出しや配膳、ドライヤーかけなどのサポーター活動を広く募集しています。こうした事業に参加するとポイントに応じて最大5,000円の協力金がもらえます。一番多かった2017年度で2,600人のサポーター登録があったそうですが、「その後減ってしまって2020年で(協力金は)200人程度の申請しかなかった」そうです(新潟市福祉部ケア推進課の話)。
こうした総合事業は順調に浸透しているとは言い難いようです。新潟市内の受け入れ協力機関を運営している関係者は「元気力アップ・サポーター制度ですね。他の施設の動向はわかりませんが」と前置きしたうえで、こう明かしてくれました。「うちも5年ほど前から登録をしており、サポーターの受け入れをしていますが、残念ながら参加者も少なく、お世辞にもうまくいっているとは言えない状況です」。
総合事業は目的の1つに「高齢者の社会参加の促進」を挙げていますが、コロナ禍ということもあり、思うようには進んでいないのが実情のようです。
財務省は要介護度1、2の方の介護保険適用に後ろ向き?
問題はそれだけではありません。物議を醸しているのが直近の制度改正です。要支援だった高齢者が要介護1以上の認定を受けたあとも、それまで受けていた補助金による「総合事業」のサービスを継続できることになりました。一見するとサービスが拡大されたように見えますが、一方で要介護認定を受けた高齢者を総合事業に留めておくことができるようになるのではないかと懸念されているのです。
2020年9月、パブリックコメントが公募された段階で、直接的な行動に出たのが「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事です。田村憲久厚生労働大臣宛に「要介護認定者の総合事業移行は絶対に認められない~要介護者の介護保険外しに道を拓く『省令改正』は撤回すべき~」という緊急声明を提出しました。
鈴木さんは声明を出した真意をこう明かしてくれました。
「一生懸命頑張っているボランティアの存在を否定するわけではないんです。しかし認知症の初期で要支援から要介護1、2になった人というのは、できることとできなくなったことがあって、本人も混乱して家族も混乱している。もちろん一般のボランティアの方などの協力も大事ですが、そういう時期には専門の方が中心にいて、きちんと対応していく必要があります。やはり介護職と作業療法士の方々にチーム(の要)となって対応していただかないと難しい。ボランティアの方にそうした対応を任せるのは酷ですし、家族もまた不安になると思います」
鈴木さんがアクションを起こした動機の1つに、これまで目にしてきた財務省の動きもあります。
「心配し過ぎだという方もおられるかと思いますが、財務省は基本的には『介護保険は要介護3以上』としています。要介護に総合事業が適用されるのは、まさに財務省が言っている『1、2までは軽度なので、専門職のかかわりは必要ない』ということです。要介護1、2でも総合事業を使える道を拓いたというのは、非常に危惧されるところです」
人材不足を補うには予算確保が先決
そもそも論になりますが、こうした事態を招いている原因は、介護業界の人手不足。前出の事業所関係者も「いまだ介護現場の人手不足の解消の目処はなく、厳しい現状が続いています。また次の報酬改訂時には事業所側に求められることが増えることが予想され、更なる事業所格差が広がると思います」と今後の展開にも不安を口にしていました。
こうした状況を打開するには、やはり国がしっかりと現状を把握し、予算を投入して介護業界の整備をしていく以外に道はないでしょう。総合事業のあるべき姿として、こんな意見もありました。
「一般のボランティアに正しい知識を教育する機関や、正しい知識を与えられた一般のボランティアが専門家に繋げられる道筋があったらいいと思います。バックに経験の豊富な訪問看護師から認知症専門の医師へ繋がる道筋もあったらいいと思います」(訪問看護師の山田富恵さん)。
人材不足を補うために、一般ボランティアに正しい知識を身につけてもらう。これは地域包括ケアの構築に向けて、避けて通れない道筋だと思います。