千葉県の地域包括支援センターで社会福祉士として勤務する藤野雅一です。
私たちが担当する地域では過疎・高齢化が進んでおり、高齢化率は50%に迫ろうとしています。また、担当地域の面積は市内全体の70%を占め、沿岸部や山間部などでは独自の課題が生じています。独居高齢者や高齢者のみの世帯も、同時に増加しています。
今回は過疎が進む地方で何が起きているのかを、私の経験を基に説明いたします。
過疎化で問題となったのは交通インフラの弱体化
過疎・高齢化が進む地域で問題となってくるのが、交通手段です。人が少なくなればバスの本数も少なくなり、最悪のケースでは路線が廃止されたり、タクシーも顧客が減ることで業務縮小や撤収に追い込まれかねません。
私たちの担当するエリアの駅前では、かろうじて1台から2台のタクシーがお客さんを待っていますが、少ないタクシーの奪い合いで、利用したいときにはタクシーがなくなることもしばしば。そんな交通状況の中で、高齢により運転免許証を返納すれば、買い物や通院や余暇のための外出もできなくなります。
高齢者が地域で安心して住み続けるためには、以下のことが必要だと考えます。
- しっかりと食べること
- 適切な医療を受けること
- 誰かとつながっていること
しっかりと食べるためには食材を買いに行かなければなりません。適切な医療を受けるためには医療機関に行く必要があります。誰かとつながっていくためには外に出かけることも大切です。
しかし、公共交通が弱体化している地域で運転ができなくなると、これらの要件を満たすことが途端に難しくなるのです。次に、山間部に住んでいるご高齢者を支援したケースについてご紹介します。
山間部に住む独居高齢者の事例
山間部にお住まいの80代後半の独居高齢者が、急な腰痛のため動くことができなくなってしまいました。この方は認知症の症状があったので、介護サービスなどを受けるよう数年前からお勧めしていました。しかし、認知症の症状を持つ多くの方がそうであるように、ご本人からは拒否されていました。本来、介護サービスを利用し、担当のケアマネージャーがついていれば、こういった非常事態も早期に感知することができるのです。しかし、このケースでは、ご本人がキッチンにうずくまって動けなくなったところを近隣に住む親族が発見したことで事態が明らかになりました。
親族はキッチンにうずくまる本人に対し、体を引きずって、ダイニングに敷いた布団に移動させるのが精一杯の状態でした。その後、私たちに相談の連絡が入ったのです。
居宅が山間部にあることに加え、認知症の症状による通院の拒否、福祉サービス利用の拒否が発生、主治医がいないうえに移動も困難なため、親族は困り果てていました。
そこで、私たちは現地で状況を把握したのち、地域で精力的に活動している医師に相談しました。医師はすぐさま往診に来てくださいました。結果的に在宅での治療が困難であるとの判断がなされ、救急搬送の要請をしたのち、無事医療機関への入院が決まりました。
往診や訪問看護に結びつく「地域の目」
地域の高齢者、特に山間部など交通の便が悪い地域で生活されている方にとっては往診による診察や訪問看護による健康状態の把握がとても重要です。薬なども地元の薬局が届けてくれる体制もつくられ、自宅での生活が心配なく送れます。
今回往診してくださった医師は数年前から「独居高齢者や高齢者のみ世帯の場合、体調を崩して通院した段階では重篤化しているケースが多い。通院が困難な山間部の高齢者が困っていたら、可能な限り往診や訪問看護で対応することが大切。重篤化する前に専門医への紹介をするなどの対応も行うので積極的に相談するように」とのお言葉をいただいておりました。
住み慣れた地域で安心して住み続けるためには健康状態の把握がとても大切です。都市部であれば、総合病院があり、毎日たくさん運行されているバスに乗れば必要な時に必要な医療を当たり前のように受けることができます。
一方で過疎・高齢化地域では、その当たり前なことのハードルが高いのです。こういった地域では医療や住民、福祉関係者の情報共有と「最近屋外で見かけなくなったけど大丈夫かな?」などのちょっとした変化を察知し、情報をつなげていくネットワークが大切になってきます。
ところが、そのネットワークですら過疎・高齢化が阻みます。なぜなら情報を伝える人がいないからです。特に山間部などは一軒一軒の間隔がとても離れていたり、隣近所みんなが高齢者といったケースも少なくありません。
ですから、過疎・高齢化で機能が低下した近隣住民のネットワークを強化しなければなりません。私たちの市では警察と協同して「ウォーキング見守り わんわんパトロール」という見守りネットワークの構築を図っています。
健康増進のためのウォーキングや、ペットの散歩の時間を活用して、地域の異常を察知した際に、警察や地域包括支援センターに情報をつなげてもらおうという活動です。人が少なくなってしまったことで弱体化した地域の見守りの目を、少しでも強化できればという思いで実行されています。
非組織的な活動が地域に浸透することで、希薄化したネットワークを再構築することが可能になります。そして、高齢者が安心して生活することができる地域をつくりたいと考え、日々活動しています。