読者の皆様、こんにちは。作家やメディア評論家などで活動中の奥村シンゴです。
筆者は約6年間、認知症の祖母をほぼ1人で在宅介護していました。そんな祖母は、2019年の1月に精神科病院へ入院後、2020年11月に療養型病院へ転院。筆者は祖母が入院中のときも週1回の面会へ行き(現在は新型コロナの影響で禁止中)、急病時においては病院へ付き添い、カンファレンス対応や費用の管理などもしています。
しかし祖母の認知症は進行し、今では食事や入浴、着衣・着脱に至るすべての日常生活において全介助が必要に。要介護度は4から5に上がってしまいました。
このころになると、祖母は何を話しているのか、よくわからなくなるときがありました。しかし、そんな状況の中でも祖母とはたまに、「奇跡的に」会話が通じるときがあります。今回は筆者と祖母と奇跡のエピソードも交えて、「オンラインを含む面会の重要性」をお話ししたいと思います。
久しぶりに再会した祖母が筆者の名前を覚えていた!?
前述した通り、祖母は2020年11月に精神科病院から療養型病院へ転院したのですが、その際、筆者が入退院の手続きで付き添うことになりました。当時も新型コロナの影響で病院の面会は禁止されていたので、筆者は祖母と1ヵ月ぶりの再会です。転院先の療養型病院の看護師が「少しだけの時間になりますが、おばあさまに何か仰りたいことがあればお話ください」と時間をくれました。
筆者は、祖母に「ばあちゃん元気か?俺のことを覚えてるか?」と聞くと、祖母は「ありゃま、あんた、どなたさん?お兄さん?」と返してきました。筆者は祖母に「シンゴやで、覚えてる?シンゴ」と聞くと、祖母は「あ、そうですか。ご苦労さんでした」と以前よりか細く、弱い声で返事。筆者は「祖母が完全に自身のことを忘れており、元気がなくなってきている」と感じました。
ところが、療養型病院で祖母のリハビリを担当する作業療法士は「おばあさま、会話は独り言のようで、かなり認知症が進んでいらっしゃいますね。でもね、漢字で書かれた「シンゴ」が読めたんですよ。お孫さん(筆者)はシンゴさんと仰るんですね。私も名前がシンゴなんです。もしかしたらそれで読めたのかもしれませんね」と話したのです。
もちろん、偶然に漢字が読めただけなのかもしれません。しかし、「筆者を頭の片隅で記憶していて、話したことで思い出したのかも」と考えると嬉しくて、思わず涙を流してしまいました。
「敬老の日」を覚えていた祖母
奇跡はこれだけではありません。2019年の秋、筆者が敬老の日に祖母が入院している精神科病院へ、プレゼントを持って行ったときのことです。祖母は当時から記憶障がいが進んでおり、言葉を忘れているので会話がほとんど通じない状態でした。
食事のときも、「お腹がいっぱい」「食べる気分じゃない」という言葉さえ出てこない状況…。それでも筆者は祖母に、「今日は敬老の日やで、ばあちゃんは何歳になったか覚えている?」と質問しました。
すると祖母は、「あら、そう。おめでたい日だわね。私は何歳になったんかいな?恥ずかしいわ」と笑いながら嬉しそうに答えたのです。敬老の日の意味を理解していたうえに、恥ずかしいという感情まで伝えてくれた祖母。そこには認知症がまだ進行していない頃の祖母の姿がありました。私はまるで、タイムマシンに乗って、5年前の祖母と話したかのような感覚を味わったのです。
たとえ話が通じなくても話し続けよう
家族の認知症に進行して会話が通じなくなってくると、中には「面会しても意味がない」と感じる方がいるかもしれません。複数の高齢者施設の職員から、「重度になると面会にまったくこない家族がいる。オンライン面会をしても対応は変わらない」という話はよく聞きます。
しかし、高齢者施設の中には新型コロナが感染拡大しても、オンライン面会や窓越し面会などを実施しているところもあります。そうした施設に入所・入院しているご家族は、積極的に面会をして、ご本人に話しかけてあげてください。もちろん、在宅介護をしている皆さまもです。
本人との話題に困るという家族の声を耳にすることがありますが、家族のことや最近のできごと、街の様子や思い出話、何でも構わないと思います。本人と話が通じなくても「話して笑う」の繰り返しで十分です。
要介護度が進まないように刺激を与えることが大事
現在、新型コロナの影響で十分なレクリエーションができなかったり、外出不可な高齢者施設が少なくなく、高齢者施設の利用を控えてる人が相次いでいます。時事通信の調査では、要介護度が進んだ場合などに提出する区分変更申請の件数が、2020年4月の緊急事態宣言以降、大幅に増加しているとのことです。
なので、高齢者施設にご迷惑をおかけしない範囲内で本人の体調が良いときに、刺激を与えてあげてください。どんなに認知症が進行していても、家族の想いはきっと本人に伝わるはずです。
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