皆さん、こんにちは。終活カウンセラー協会で講師をしている、ジャ-ナリストの小川朗です。
今回は年末年始の介護業界が抱える、大きな問題について考えてみたいと思います。それは「人員確保の問題」。はじめて体験するコロナ禍の年の瀬が押し詰まるにつれて、民間の各事業所からは「人手不足による悲鳴」にも似た声が上がっているというのです。そこで、今回はテーマは「年末年始の介護施設で何が起こっているのか」について。新潟で複数の介護施設を営む、(一社)終活カウンセラー協会理事の井上智則さん(ケア・クリエイト・アソシエーション代表取締役)に、じっくりお話を伺いました。
介護事業所は年末年始、人手不足になりやすい
小川:2020年の4月にアップされたこのコラムの第137回以来になりますか。今回もよろしくお願いいたします。
井上:実はあの記事を読んだ某通信社の記者さんからも取材を受けました。「『みんなの介護』の内容が非常に良かったので」とおっしゃっていましたよ。
小川:それはありがとうございます(笑)。取材に協力いただいた3月末の時点でも、すでに介護業界は深刻な事態に直面していたと思います。あれから9ヵ月が経ち、訪問看護や訪問介護の現場はどんな状況ですか。
井上:感染の再拡大で求職者がこないので、人手不足は形を変えて深刻なものになりつつあります。特に10月末からコロナの影響が出てきていますね。
小川:年末年始はさらに厳しくなる、という声が出てきているようですね。
井上:病院系の事業所は日曜日が休みのため、祝日も休みやすい。でもフルに開けている民間の事業所は常に動いていますので、年末の人員確保はさらに厳しくなるでしょうね。
小川:介護サービスに従事している方も、お正月休みは欲しいですよね。帰省される方もおられるでしょうし。年末年始の移動に制限がかけられたことで、地元でお仕事をされる方も増えるのではないですか。
井上:地方に限らず医療・福祉のお仕事をされている方は、基本、年末年始もなく働いている方も多いと思います。ただ、少しでも待遇や環境の良い所があれば転職される方が多いです。年末年始、特にボーナスをもらってから転職される方が多いですね。
慰労金を定期的に給付しないと他業種に流れてしまう
小川:労働環境の問題もそうですが、賃金の問題も指摘されていますよね。井上さんは3月の時点で、退職者の増加についてはすでに警鐘を鳴らされていましたが…。
井上:そうですね。介護職員に一律5万円の慰労金が出たものの、それ1回では離職しようとする方を止める効果は薄いと言わざるを得ないです。
小川:6月半ばに閣議決定した「医療・介護・障がい福祉の分野で働く方への『慰労金』」ですね。
井上:そうです。現状を見る限り、定期的にこういうものでサポートしていかないと、ほかの業界に流れてしまう状況は避けられません。またコロナ禍、医療介護で頑張っている方にエールを送るため、国からそういった慰労金を与えてほしいと思っております。
小川:各業種のボーナスも減らされたり、なかったりという状況ですが…。
井上:そんな状況だからこそ、「ボーナスをもらってほかの業種に転職したい」と考える方も少なからずいらっしゃいます。そうなった現場はさらに苦しくなるでしょうね。
管理者が現場で働かざるを得ないことも…
小川:人手不足が深刻化すると、困るのはサービス利用者ですよね。そのあたり、どう対応していくおつもりですか。
井上:こうなってくると、管理する立場の職員までもが現場で働く必要が出てきますね。私も介護支援専門員などの資格を持っていますので、必要とあれば現場に出て仕事もしております。現場で仕事をすることで利用者や職員の生の声を聞くことができるので、大変勉強になりますね。
小川:それは素晴らしいお考えですが、それだけでは対応しきれない部分も出てくると思うのですが…。
井上:そうですね、その場合には、同一の事業者様に、仕事を振る場合も出てくるでしょう。しかし今いるお客様がほかの事業所に行ってしまうと、基本的に戻ってきません。経営者側としては、究極の選択になってきます。
小川:そうなると、介護関係に従事する方々の待遇改善は、なかなか厳しいように見えます。
井上:3年に1度の介護報酬の改定が来年の春に行われます。それについての発表が厚生労働省から12月の中旬に出されました。「プラス改定」というニュースが出ていましたが、事業者側がやらなければならないことが非常に増えており、実際にプラスに働くとは考えづらいです。中身を見ると「働く方々のベースアップまでには、なかなかつなげられない改定だ」というのが実際のところです。
小川:となると、やはり国になんとかしてもらうしかないですね。そういえば、消費税のアップの理由として「社会福祉の財源にする」という声がありました。8%から10%に上がった2%分を、こういうときにこそ使うべきですよね。
井上:そうですね。政府のコロナ対策はいろいろなところに振り分けられていますが、やはり給付金のようなもので持続的に働く人をサポートしていただかないことには、離職者を減らすのは難しくなっていくと思います。
小川:さまざまな難しい問題が、介護業界を覆っていることがよくわかりました。高齢化社会が直面している介護の問題は、国の最優先課題にすべきだと感じました。ありがとうございました。
年末年始の人員確保に関連して、多数の事業所が大ピンチな状態です。介護業界の人手不足の問題、待ったなし。国を挙げてのサポートが、この冬必要になっています。