皆さん、こんにちは。終活カウンセラー協会で講師をしている、ジャーナリストの小川朗です。
今回は「ケアの駅」第2弾イベント(10月23・24日、東京都江東区東陽)で講演された笠松恵子院長(ユウデンタルクリニック)と、「ケアの駅」の生みの親である山田富恵さんにお話を伺いました。そこで見えてきたものは「口活」。すなわち「口内環境を整えることが重要である」というテーマです。
訪問歯科の必要性を感じていない家族に警鐘
まず「訪問歯科診療」とは何か知っておくことが大事です。
訪問歯科診療とは、歯科医師や歯科衛生士が歯医者へ行くことが困難な方のご自宅や入居している介護施設を訪問。歯科診療や口腔ケアを行います。
これについて笠松院長に話を伺いました。
小川:歯医者さんに行かなくても良いんですね。
笠松:そうです。インプラント以外の治療は、ご自宅でほとんどできます。訪問歯科専門の「ポータブルユニット(歯の治療に使う器具を持ち運べるようにしたもの)」というのがあるんです。
小川:そりゃすごい。「歯科医院が設備ごとお家にやってくる」という感じですね。素晴らしいサービスだと思いますが、一般の方は、まだまだ訪問歯科診療の存在自体を知らないように感じます。
笠松:その1つの原因として挙げられるのが、「ご家族が要介護の方の口の中を見ない」ことだと思います。家族の口の中って見ます?
小川:見ないですね。
笠松:そう、それが問題なんです。「食べることができるから問題ない」「歯が痛くないから大丈夫」とご家族が思い込んで、歯や入れ歯を放置しているケースが多いんです。しかし実際口の中に食べものが残っていることはよくあります。
小川:つまり、「家族が要介護の方の口内環境が悪くなっていることに気づいていないため、訪問歯科の必要性を自覚していない」ということですか…。
ご家族が要介護の方の口内環境を知らずにいる。それでは歯科診療への必要性を感じるはずもありません。元気なうちは自分の足で医療施設に出かけることもできたでしょうが、在宅介護を受ける状況となれば通院は困難に。そんな方々に対し、外来診療と同じように歯科診療を行うのが訪問歯科診療なのです。
口腔ケアは新型コロナの予防にもなる
実はもう1つ、笠松院長が強調されていたポイントがあります。それは「新型コロナの感染予防対策に、口腔ケアがとても大事である」ということ。「ケアの駅」の講演で配布されたユウデンタルクリニックからの資料には、以下の内容が記載されていました。
- 口腔内が不清潔だと細菌が増え、その細菌がタンパク質の分解酵素を出してしまい、喉の粘膜を破壊してしまう。結果、喉にウイルスが付着しやすくなり感染を起こす可能性が増える。
- きれいな口腔内は喉の粘膜が正常に保てるため、ウイルスが付着しにくい。
- お口の機能を保つことで食事をしっかり取ることができ、低栄養状態の防止や免疫力アップにつながる。
- うがいと手洗いに加えて、「毎食後」と「寝る前の歯磨き」を実践しよう。
小川:私は自律神経の本の編集に関わった関係で「腸活」がテーマの講演依頼をよく受けます。腸内環境も口内環境もバランスが大事ですね。
笠松:そうですね。ただ、イソジンが「飛沫感染を防ぐために有効だから」という理由で売れましたが、必要以上に使いすぎるのはどうかと思います。イソジンは善玉菌も殺してしまうので、抵抗力が下がってしまい、良くないものを吸収するリスクが高まるからです。口の中は粘膜で、吸収しやすい性質を持っています。
小川:マウスウォッシュも使い過ぎは良くないのでしょうか。
笠松:使いすぎは良くないと思いますね。だから私は水でのうがいをお奨めしています。
過ぎたるは及ばざるがごとし、とはよく言ったものです。それにしても、最近「口腔ケア」が注目ワードとして上昇していますが、この現象の裏に何があるのでしょうか。笠松院長に聞いてみると、こんなお答えが返ってきました。
笠松:大きい施設などで口腔ケアを行った群と行わなかった群のデータが揃ってきて、口腔ケアが有効であることのエビデンスが蓄積されたのが大きいと思います。口腔ケアを行ったとき、行わなかった群にくらべて良い意味で結果が全然違った。その事実が広く知られるようになったのだと思いますね。
口内環境の悪化から食が細くなる
今回「ケアの駅」は第2弾のイベントのテーマに「『老化の坂は口から』!? オーラルフレイルを知り食べられる口を育てる」を掲げました。その思いを「ケアの駅」の生みの親である山田富恵さんに聞いてみました。
小川:なぜ今回オーラルフレイルを取り上げたんですか?
山田:中央区(東京都)で訪問看護を始めてまだ1年くらいの頃、痩せて「何を食べたら良いかわからない」 と悩んでいる方がいました。その当時の私は「栄養のある、消化の良いものを食べてください」などと漠然としか返せなかったんです。そのとき、しっかり向き合えなかったことが申し訳なくて…。「入れ歯があわない」「唾液がでにくい」「自分で清潔にできない」など、口内環境の悪化から食が細くなっている状況があります。歯科につなげるのも大事ですが、歯だけが原因の方は少ないですね。フレイル(虚弱)状態であれば改善することができます。ぜひ、看護の力も知っていただきたいですね。そういう事実があったので今回取り上げることを決めました。
要介護者の9割は歯科治療や専門的な口腔ケアが必要
介護保険が適用される場合、訪問歯科を受診する際にキーパーソンとなるのがケアプランを作成するケアマネージャー。主治医である内科医が起点となり、ケアマネージャーと連携を図ります。その後ケアマネージャーが訪問歯科医の手配をするのです。何でも相談できるケアマネージャーが見つかれば、質の高い口腔ケアを受けるチャンスも広がります。
2016年の国立長寿医療研究センター・第10回在宅医療推進会議の資料『在宅歯科医療 現状と課題』には、要介護者の9割が歯科治療や専門的口腔ケアが必要であるのに対し、実際に治療を受けたのは約27%であるとのデータが掲載されています。
2016年の要介護者数は約456万人。そのうち300万人近くが歯科治療を受けていないことになるのです。訪問歯科を受診する際は、ケアマネージャーや主治医、訪問看護師など介護にかかわっている方に相談してみましょう。