はじめまして、こんにちは。おうちサロン「ゆきのしずく」を運営している、「認知症介護よりそいケアアドバイザー」の石川深雪です。
今回は「見当識障害」や「人物誤認」に焦点を当てて話していきます。
認知症の症状のひとつに、家族のような親しい人であっても、認識ができなくなってしまうことがあります。
私の友人夫婦のケースを紹介すると、ご主人のお母さまが若年性認知症で介護施設に入ったときのことです。
ご主人が面会に行くと、お母さまはただ黙って微笑むばかりで、以前までのように話をしてくれなかったそうです。
「俺のこと忘れちゃってたな…」と、ショックを受けたことを話してくれました。
一緒に過ごしてきた家族に忘れられるという悲しさは、経験した方にしかわからないほど大きいものだと思います。
認知症になってご家族を認識できなくなった方は、家族のことを完全に忘れてしまっているのでしょうか?
家族がわからなくなる2つの症状

見当識障害
「その人が誰なのかわからなくなる」ことを、「見当識障害」といいます。
見当識とは、日付や時間、自分がいる場所、周囲にいる人などの状況を把握する能力のことです。
見当識障害は、家族のことがわからなくなるといった症状以外にも、季節や時間帯がわからなくなったり、家まで帰る道順がわからなくなったり、といった症状がみられます。
アルツハイマー型認知症の方は、時間や場所を把握する能力よりも、人を識別する能力の方が長く維持できることが多いと言われています。
一方でレビー小体型認知症では、比較的早い段階から、家族を識別できなくなることがあります。
人物誤認
「その人を違う人間として認識してしまう」ことを「人物誤認」といいます。
私も介護職員として働いているとき、入所されていたおばあちゃんに実の姪だと認識され、ずっとその姪っ子さんの名前で呼ばれていたことがありました。
「人物誤認」の場合、自分が若かった頃に記憶が戻っていることがあります。
一生懸命働いていた頃、子どもを抱えて家を守っていた頃など、人によって記憶が戻る時代はさまざま。
「人物誤認」の特徴は、記憶が戻っている当時の人物と、現在目の前にいる人物を、認知症によって間違って認識してしまうことです。
例えば、認知症の女性が新婚時代の頃に記憶が戻ってしまい、夫と息子の三人暮らしだと思い込んでいるとします。
しかし実際に目の前にいるのは、当時よりもはるかに年を重ねた夫と、もう立派に大人になっている息子ですよね。
普通の方なら「おかしい」と気付く状況かもしれませんが、認知症の方はそれに気付かず、記憶のなかの夫により年齢が近い息子を、自分の配偶者だと認識してしまうのです。
家族はどう対応すべき?
認知症を完全に治す治療法はまだ見つかっていません。
そのため認知症の進行を抑えたり、進行速度を遅くしたりする治療が主流となっています。
では認知症の方が家族のことを忘れてしまったとき、家族はどうしたら良いのでしょうか?
それは本人が決して故意に家族を忘れているわけではないことを理解し、「本人が認識しているものが、本人にとっての現実である」ということを受け入れるという対応が大切です。

例えば、90歳の人が自分は60歳だと言い、介護スタッフを自分の姪だと言うのであれば、それがその方にとって生きている世界なのです。
その世界を否定し、真実をわからせようと説得したところで、かえって混乱を招いてしまうことがあります。
認知症ではない私たちだって、当たり前にある住む場所、家族、仕事をいきなり「それは違う」「この人はあなたの家族じゃない!」と言われたら、混乱したり、不安になったり、怒りを感じたりするはずです。
だからこそ、認知症の方が「私たちの世界と別の時間を生きているな」と感じたら、できる限りその人の世界に合わせてあげてください。
つらくなったときは周囲に相談する
もちろん、認知症の方の世界をすべて受け入れ、そこに合わせて振る舞うことは家族にとって容易ではありませんよね。
家族のみなさんは、本人が若く、しっかりしていたときのことを知っています。
一緒に過ごした大切な思い出もたくさんあるでしょう。
それなのに自分たちのことを忘れて、理解できない言動を繰り返すことに対して、悲しくてやりきれない気持ちになるかもしれません。
そんなときは、状況や気持ちを専門家(介護スタッフ、ケアマネなど)に相談してみてください。
さまざまな方の視点から、対応の仕方を考えていくのが良いと思います。
家族にしか見せない一面
私の祖母も亡くなる直前、病院で付き添っていた母にだけ牙をむき、怒鳴り、病室から追い出したことがありました。
病状の進行、薬の副作用…何が原因なのかはわかりませんが、家族を識別できず混乱しているようでした。今でも当時を思い出すと涙が出ます。
しかし介護職員としてたくさんの人とかかわっていると、多くの認知症の方が、名前や顔がわからなくなっても家族のことは記憶の奥底で覚えているように感じています。
一見して家族のことがわからない様子でも、家族に向ける笑顔は、それ以外の方に向けるものとはまったく違うこともあるそうです。

一方で、家族の言うことだけはどうしても聞かないという人もいました。
言葉での意思疎通は難しい状態でしたが、お医者さん、私たち介護スタッフなど、家族以外の人間の前では「うんうん」と頷き、笑顔も見せてくれました。
しかし、家族を前にすると駄々っ子のように振る舞うのです。
そうした反応をする認知症の方の場合、どこかで家族のことを覚えていて信頼しているからこそ、ご家族に甘えているのではないでしょうか。
私の祖母もそうだったのではないかと思っています。
周囲の誰かに誰かに相談してみると、家族は気付いていない「家族にしか見せない表情」を、客観的に教えてくれるかもしれませんね。
今回のテーマまとめ
- 1.本人が認識している世界が、真実と違っていても否定しましょう
- 2.悩んだときは近くの専門家に相談しましょう