こんにちは。介護関連のライターの郷司純子です。取材や私自身の祖母の認知症ケアで培った経験をみなさんにお伝えしていければと思っております。
今回は、前回の「認知症の症状に対する対処法」に引き続き、「認知症を発見するきっかけ」についてお話ししていきます。お付き合いください。
時代と共に認知症治療も進んでいる
祖母が認知症を発症したのは今から約32年前。その当時、認知症はまだ「呆けた」「痴呆」などと呼ばれており、一度発症すると治療する術はありませんでした。
私の叔母は当時医療従事者でしたが、医療にある程度通じた叔母ですら祖母の病気の治療法や対処法をなにも話してくれない状況でしたので「祖母はもう、どうにもならない状態になっているのだ」と悟りました。
いまだに認知症は、完治させる方法が見つかっていない病気であることに変わりはありませんが、1999年に「アリセプト」が発売されてから、認知症は「病気の進行を遅らせることができる疾患」になりました。
早期発見・早期治療によりより長くQOLを維持できれば、その人らしい人生を全うできる時間も長くなります。祖母のように認知症発症からわずか5年で亡くなってしまうと、本人はもちろん家族も心の準備ができないまま、あっという間に認知症が進行し、とても悔いの残る看取りになってしまいます。
抗認知症薬により認知症の進行を遅らせることで、QOLを維持して少しでも長く家族や周囲の方々と触れ合える時間が得られるのは大きなメリットです。
本人の意思を尊重した生活環境や療養環境を整えてあげたり、その人らしい人生の総まとめの時間を作ってあげられるのであれば、本人も家族も納得できる充実した時間が過ごせるでしょう。
くどくない程度の観察を心がけて!
認知症の進行を遅らせるためには服薬治療が必要ですが、服薬治療の前の段階で「認知症の発見」は必須です。認知症は発症している本人が気付きにくい面もあるため、ご家族や周囲にいる方が観察してあげてください。…とは言っても、目を皿のようにして注意深く観察する必要はありません。
- 「おばあちゃんはいつも家の中をキレイにしていたのに、最近部屋がすごく汚い。このままだとゴミ屋敷になるんじゃないの?」
- 「お母さん、いつも隙のないお洒落をする人なのに、どうして汚れた服を平気で着ているの?」
- 「お父さんは、なぜ通いなれた道で迷ってしまうんだ?」
- 「主人が急に『お前が俺の財布を盗んだだろう!』と血相変えてやってきた」
「あれ?なんだか家族がいつもと違うな。一体どうしたんだ?」その感覚がとても大事なのです。いつもと違うと感じたら、ご家族の行動をもう少し注意深く見守ってください。
早期発見のポイントを確認してください!
認知症を発見するきっかけにはさまざまなバリエーションがあり、一言でくくれるものではありません。ただ、ある程度のパターンには分類できますので、簡単にまとめてみたいと思います。
- 物忘れがひどい
- 同じ事を何度も繰り返して話す、同じ質問を何度も繰り返す、同じことを何度もするなど物忘れの症状から認知症が発覚するケースがあります。脳の海馬と呼ばれる記憶を司る場所がダメージを受けているので、短期記憶の能力が落ちている状態です。
- 他にも、電話を切ったばかりなのに相手の名前や話した内容を忘れる、いつも財布や鍵などをしまい忘れて探し物をしている、同じ食べ物ばかりを買ってくるので冷蔵庫に同じ物が大量に買い置きされているなどの症状もみられます。しまい忘れ・置き忘れはそのうち「物盗られ妄想」へと発展することもあるので注意してください。
- 物忘れはアルツハイマー型認知症の初期のうちから目立つ症状です。ただし認知症ではなく単に加齢で物忘れが酷くなっているだけ、という可能性もあります。物忘れの症状が見られたからと言ってすぐに「お母さんは認知症です」と決めつけないでください。
- 意欲低下
- いつもお化粧をバッチリ決めお洒落に敏感で身なりを気にしていた方が、服装に気を遣わなくなりお化粧も一切しなくなった…。ご家族の意欲低下に違和感を覚え、受診の結果認知症が発覚したケースもあります。
- 祖母のように毎日ゴミ一つなく自宅を綺麗にしていた方が急に怠惰になり、横になってボンヤリ過ごすようになるなどの症状も考えられます。ほかにもずっと続けていた趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなる、体を動かすのを嫌がり自宅にこもる、などの症状がみられることもあります。
- 理解力や判断力の低下
- 認知症を発症すると理解力や判断力が低下するため、ドラマや映画などテレビ番組を視聴していても内容が理解できないことがあります。
- 計算ミスが増えたり段取りよく料理が作れない、片付けがうまくできない、車の運転で操作ミスが増える、話しのつじつまが合わなくなる、お財布が小銭でパンパンに膨らむ(計算が上手くできなくなり、1万円札などまとまったお金で支払うため)などの症状も考えられます。
- その他の場面
- 他にも…
・時間や場所がわからなくなる…通い慣れた道で迷う・約束の時間や日時、場所を間違えるなど
・人格が変化する…ちょっとしたことですぐに怒るようになった、イライラして精神的に不安定になる、人の意見を聞かず頑固になった、自分の失敗を人のせいにして認めないなど
・不安感が強くなる…家族や配偶者などのそばをひとときも離れたがらない、一人になるのを怖がる、「変なことをしそうで心配」「どんどん忘れてしまう」など不安を訴えるなど
・幻視や幻覚など…とくにレビー小体型認知症の場合、「窓の向こうに誰かがいる」「ご飯の上にたくさん虫がいる(ゴマが虫のように見える)」と見えないものが見える幻覚・幻視など
これら症状が単独、また複合してみられる場合は注意して観察してあげてください。もちろんこれら症状があるからと言って認知症であるかどうかを確実に判断できるわけではありません。
ネガティブにさせないことが大事!
認知症の原因疾患にはアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などいくつか疾患があります。これら原因疾患を単独で発症するケースもありますし、いくつか併発してしまうケースもあるのでご注意ください。
原因疾患を併発すると、前章で上げた症状以外の初期症状が出ることも十分ありえます。大事なことは「家族がいつもと違う」と感じることです。ここから、「認知症かな?」と感じたあと、どのような行動を取るのが良いのかを考えていきます。
オレンジドクターの存在
私の住むエリアにはオレンジドクターと呼ばれる医師がいます。認知症医療の研修を修了した医師のことで、名簿なども公開されています。もしかかりつけ医がオレンジドクターであれば、一度相談してみてください。ただし相談には原則として診察料がかかるようです。事前にオレンジドクターに問い合わせをお願いします。
- STEP1.「心得」ネガティブワードは心を不安定にさせる
- 認知症は根本治療が確立されていない病気ですし、不治の病のイメージがあるのも事実です。ただ認知症が疑われる段階で「お母さんは認知症ですよ」「認知症は治らない病気」「どんどん悪くなる」などネガティブな言葉を使うのは避けてください。
- なかなか医療機関を受診しないご家族を「脅して」病院へ連れていこうとするのは一つの方法のように思えますが、ご本人の心を傷つけ、不安にさせます。もし認知症を発症している場合、さらに症状が悪化するかもしれません。
- 認知症は時間をかけてゆっくり進行する病気なので、1分1秒を争って受診する必要はありません。もちろん治療が遅れれば遅れるほど病気は進行していきますので、早期発見・早期治療が大切なのは他の病気と同じです。
- STEP2.「スムーズな受診」医療機関で受診してもらうために
- もしご家族が「なんだか最近おかしい、以前出来ていたことが出来なくなっている」など自分自身の異変を感じている場合はスムーズに医療機関を受診してくれる可能性が高くなりますが「生活に影響がない、何も異常はない」と考えているご家族の場合、いきなり物忘れ外来や精神科に連れていくと「俺は認知症じゃない!どこもおかしくないぞ!」と怒ってしまう可能性があります。
- 怒るだけではなく、家族との信頼関係にヒビが入るかもしれません…慎重に物事を進めて行きましょう。
- そうなりそうな場合、いきなり認知症の専門医に連れていくのは止めておいた方がよさそうです。まずはかかりつけの医師に事情を説明し「いつもの診察」で、かかりつけ医に本人が認知症かどうかを探ってもらう方法がいいでしょう。定期的に会う顔見知りの医師であれば、警戒感を抱かれるようなことはまずありません。
- STEP3.「診断を受け入れる」もし認知症であると診断されたら…
- もし診察の結果「認知症である」と診断された場合、本人に病気を告知する方が良いのでしょうか?それとも告知しない方が良いのでしょうか?認知症の治療となれば服薬治療や各種セラピーなどで、病気の進行を出来る限り遅らせる方法がとられます。
- このとき「今飲んでいる薬が何なのかわからない」「何の病気になっているのかもわからない」ようでは、本人が「家族からわけの分からない薬を飲まされている」と思ってしまえば薬や家族の行動に不信感を持ち、積極的に治療しようという気持ちになれないかもしれません。
- 抗認知症薬の効果を引き出すためにも、家族はもちろんご本人にも告知と覚悟が必要であると考えます。ただし病気の進行状態によっては本人に告知しない方が良いケースもあるようなので、医師と相談して一番良い対処法を検討してください。