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第25回

【事例】認知症でも「手続き記憶」(身体に染みついた記憶)は最後まで残る!包丁使用を一律に禁止するのは早計

最終更新日時 2018/04/13
#親の介護
一昔前まで問題行動と言われ、介護者が「困る・問題」だと捉えていたために問題行動という呼ばれ方をしていたというお話しもしました。しかし本人の立場に立って考えてみると、「私は点滴や酸素は必要ない」というのが本人にとっての事実です。

こんにちは。介護老人保健施設「総和苑」で介護課長をしている高橋秀明です。

介護の教科書では引き続き「認知症」だけに焦点をあてるのではなく、「人の想いを考えていくことの重要性」についても触れていきます。

今回は「僕が出会った方々(認知症の状態にある方やそのご家族)を通じて僕自身が気づいたことや学んだこと」をお伝えしていきます。

「記憶障害」は認知症の状態になっても記憶がいっぺんに失われない

前回は認知症の基礎知識(第20回目参照)についてお話しました。アルツハイマー型認知症になると出てくる中核症状のひとつに「記憶障害」があります。ここで押さえておきたい重要なポイントは、認知症という状態になったからといって記憶がいっぺんに失われるのではないということです。認知症に関連するさまざまな書籍などに目を通すと、記憶には種類があるということがわかります。

感覚記憶
目や耳が捉えたさまざまな情報の中で、特に関心のあるものをキャッチする瞬間的な記憶。記憶量もごくわずかで、短期(記憶)貯蔵庫に移されないとすぐに消えてしまう。
短期記憶
感覚(記憶)貯蔵庫から送られてきた情報を数秒~数十秒覚えておくこと。
例)電話をかけるときに番号を暗記し、番号をプッシュするまでの間は番号を覚えていられる。しかし電話をかけ終えると番号を忘れてしまう。
長期記憶
短期(記憶)貯蔵庫から送られてきた情報は分類・体系化して長期(記憶)貯蔵庫に保管される。長期記憶の保存量は、短期記憶と違い膨大である。
例)自分の名前、生年月日、住所や箸の使い方など、日常生活を営むのに必要な記憶。しかし、不要になった情報(以前住んでいた場所の住所)や呼び出される頻度の少ない情報は失われていきやすい。

認知症という状態だからという理由で一律的に包丁を使わせないのは誤り

エピソード記憶
いつ、何があったかなどの出来事に関する体験などの記憶
例)昨日の夕食に焼き魚を食べたなどのエピソード
意味記憶
一般的な知識や物の名前などの記憶
例)家族の名前、「赤信号は止まる」という一般知識、「りんご」などの名称
手続き記憶
長年にわたって身体で覚えてきた・身体に染みついた記憶
例)包丁の使い方や車の運転の仕方など

(参考文献:加藤伸司編「発達と老化の理解」ミネルヴァ書房,2010年、P133長谷川和夫、中村考一共著「その人を中心にした認知症ケア」ぱーそん書房、2016年)

これら以外にもたくさんの記憶の種類があるそうです。年をとると、若いときとは違って身体的な能力は衰えていくのが一般的です。脳の力も少しずつ衰え、忘れっぽくなったりもしますが、日常生活に大きな支障をきたすことはほとんどありません。

しかし、認知症という状態になると「午前中に長男が面会に来て一緒にご飯を食べた」というエピソードをまったく覚えていないなど記憶がぽっかりと抜けてしまうことがあります。長期記憶よりも短期記憶に支障をきたしやすいのが、アルツハイマー型認知症の特徴です。

一般的に記憶保持時間の分類では、「感覚記憶→短期記憶→長期記憶」の順で失われることが多いと言われています。「今日あったこと(短期記憶)は忘れているのに、何で昔のことは(長期記憶)はよく覚えているんだ」というご家族の方がいますが、基礎知識を持つとこれは当然のことだと思えるようになります。

また、記憶の内容では「エピソード記憶→意味記憶→手続き記憶」の順で失われていくと言われています。昔取った杵柄という言葉がありますが、長年主婦として包丁を使い料理をされてきた人が、認知症という状態になっても抜群の包丁さばきをみせるのは、包丁の使い方が身体に染みつき覚えているからです。そのことをふまえると「認知症という状態だから危ない」といって一律的に包丁を使わせないというのは誤った考え方だと思います(ただし、本人の認知機能や身体能力を見極めたうえで使ってもらうというリスク管理が前提です)。

アルツハイマー型認知症を患ったトミ子さん拘束のお話し

これからお話しさせていただく事例は、僕が"トミ子さん"に出会う前に、面談でご家族や入院先の看護師さんから聞き取ったお話しですので、僕の推測が多少含まれていることをご理解ください。

2016年8月にトミ子さんという方と出会いました。ご家族の話では、トミ子さんは2005年に脳梗塞を発症するも、大きな後遺症(麻痺や言語障害など)はみられず、自宅で生活を送っていました。しかしその2年後、自宅で転んでしまい、左大腿骨頸部骨折し手術。そのあたりから認知機能の低下がみられ、アルツハイマー型認知症と診断されました。

認知機能の低下があり、「家族との約束ごとや自分が話したことを忘れてしまう、日時が曖昧になる」などの記憶障害や失見当はあったようですが、身体に染みついた家事動作(包丁を使って野菜などを切ること・ガスコンロを使って料理をすること(ときどき消し忘れはあったが家族の「火を消し忘れているよ」などの言葉かけで火の元の取り扱いが適切にできていた)・洗濯をすることや洗濯物を取り込みたたむこと・掃除など)や住み慣れた自宅環境でお風呂に入ったり、トイレに行くことができるなど(手続き記憶は保持されていたためと考えられます)日常生活にはさほど大きな支障はなく、自宅で暮らすことができていました。

そんなトミ子さんは2016年4月に肺炎を発症し、とある病院に入院しました。抗生剤の点滴などによる治療は順調に進み、肺炎は2週間程度で良くなったため退院することができました。しかし、歩くことがままならなくなり、入院前までは自分の役割であった家事をしなくなり、トイレにも行かずオムツをあてるなど寝ている時間が多くなりました。

主体的な暮らしから受け身の暮らしに変わってしまったのです。「寝ている時間が長くなる→身体能力や考えるなどの認知機能を使わない→身体・認知機能が衰える」という悪循環に陥り体力も衰えていきました。数日間の自宅生活を送った後、また肺炎を発症し再入院。この入院でトミ子さんに新たな問題が起こります。

自分がなぜ点滴や酸素吸入(酸素は微量)をされているのかが理解できず、点滴や酸素マスクを自ら外してしまいます。トミ子さんは肺炎を起こしているために治療を施さないと命を落としかねません。病院ではミトン手袋を使いベッド柵に手を縛り(身体拘束)、点滴や酸素マスクを自ら外さすことができないような手立てが施されました。

しかし「何でこんなこと(手を縛るという身体拘束)をするの!この手をほどいてよ!」と怒りが爆発。大きな声を出して抵抗し大混乱状態に陥ったそうです(看護師さん談)。

「肺炎の治療のため点滴や酸素吸入が必要な状態(支援者が知る現実)」に対してトミ子さんは中核症状の影響を受けて認知がずれ、「私は点滴や酸素は必要ない(本人にとっての事実)」という誤差が生じてしまったのです。(参考文献:梅本聡著『認知症ケアの突破口』中央法規、2013年)

大きな声を出して抵抗するようなことは行動・心理症状と一言で言われるものですが、トミ子さんがそのときに持ち合わせている(発揮できる)すべての力を使って「やめてほしい」という表現をされたのだと僕は思います。トミ子さんのこのお話しは次回に続きます。

行動・心理状況が起こる背景には、理由が隠れている

前回もお話ししましたが、「徘徊」「不穏」「暴言」「暴力」「放尿」「帰宅願望」「異食」「介護抵抗」「妄想」「幻覚」「不安」「不眠」「抑うつ」などは行動・心理症状といわれています。

一昔前まで問題行動と言われ、介護者が「困る・問題」だと捉えていたために"問題行動"という呼ばれ方をしていたというお話しもしました。しかし、本人の立場に立って考えてみると、「私は点滴や酸素は必要ない」というのが本人にとっての事実です。

それに対して「やむを得なく自分で点滴や酸素マスクを外せないようにする」という手立てが行動・心理症状を引き起こす引き金になりました(今回の話は「治療」と「人としての尊厳」というはざまでゆれる難しいテーマです。「治療だからしょうがない」と割りきる・あきらめるのではなく、この課題については考え続けなければならないと思います)。

行動・心理症状が起こる背景には原因があり、その発生原因は多岐にわたると言われています。薬剤の影響や体の不調などによって起こることもあれば、介護者の関わり方など、環境によって起こるのです。

まず私たち(介護者)にできる入り口は、相手の心の内をわかろうとすること、相手に思いをめぐらせること。つまり、「本人にとって不快や不安を感じることは何かを考えること」と「本人が嫌がることをなるべく押しつけたりしないこと」。これだけでもきっと変わることがあるはずです。

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向川 誉
株式会社 ハレヤカ・ジャパン 事務局長
2018/03/20

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