アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」とは?
製薬大手エーザイなどが開発したアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」について、11月29日、最終段階の臨床試験の結果が発表されました。症状の進行を遅らせる有効性が確認されたことで、新薬への期待がにわかに高まっています。
この「レカネマブ」は人工的に作った抗体を活用した薬剤です。アルツハイマー病の原因物質とされる「アミロイドβ」が凝固する前の「プロトフィブリル」と呼ばれる段階で、この抗体と結合させて除去するメカニズムです。そのため、「アミロイドβ」の蓄積を防ぐことが期待されています。
最終段階の臨床試験の結果によると、全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBスコアの平均変化量は、レカネマブ投与群がプラセボ投与群と比較して-0.45となり27%の悪化抑制(p=0.00005)を示したと報告されています。また、プラセボ(偽薬)を投与した場合と比べて、認知機能の低下を7ヵ月半遅らせるとみられるとのことです。
「レカネマブ」の効果はどのくらい期待できる?
アルツハイマー病新薬「レカネマブ」が優れているのは、学術的にその効果が極めて明瞭に証明された点です。
実は、アデュカヌマブ(アルツハイマー病の進行抑制を狙う薬剤)では、評価項目によっては効果が不明瞭なものもありましたが、レカネマブは、主要な項目すべてで明確に効果を発揮したことが臨床試験の結果から示されています。
さらに、1年以上経過しても進行を抑制する効果が持続する点も画期的だと言われています。
加えて、世界の認知症研究者が注目している点がもうひとつあります。それは、「レカネマブ」が認知症の予防にも繋がるかもしれないという点です。
予防の観点で有効かどうかについては、まだ臨床試験が行われている最中なので確定的なことは言えませんが、「レカネマブ」のメカニズムを考えると予防効果も期待できる可能性があります。
もし、予防にも繋がるとなれば、私たちと認知症との付き合い方が根本から変わる可能性もあります。
「レカネマブ」の副作用・安全性は?
「レカネマブ」の副作用については、アデュカヌマブ同様、動脈のまわりに水が溜まる血管周囲の浮腫などが報告されています。
また、「レカネマブ」を投与された約1600人のうち2人が脳の出血で死亡したと報告されました。しかし、エーザイは、死亡した2人にもともと重大な合併症があったことなどから「レカネマブとの因果関係は無いと評価した」と発表しています。
「みんなの介護編集部」で専門家に取材したところ、「放置すればどんどん進行してしまう認知症に対して、レカネマブのもたらすベネフィット(利益)を考慮すれば、リスクとしては比較的少ない」という意見が多数寄せられました。
「レカネマブ」の普及への道筋は?
「レカネマブ」については、日本でも承認される可能性が高いとみられていますが、課題もあります。
この「レカネマブ」は症状が軽度かほとんど無い段階で早期投与してこそ効果を発揮することが期待される薬剤です。しかし、現在の日本の制度においては症状が顕在化してからでないと保険適用になりません。
自費の場合には年間数百万円単位の費用負担がかかると見込まれています。また、仮に自費で使うにしても、早期診断に有用なPET(陽電子放射断層撮影)検査も保険適用外でハードルが高いため、検査体制のさらなる充実も必要となります。
アルツハイマー病は進行性の神経疾患で、高齢化が進む日本において社会的に大きな課題となっています。できる限り早期に発見して進行を抑制することができれば、当事者の方々も自立した生活を維持できるようになります。
アルツハイマー病の克服は、本人だけでなく、家族・医療や介護従事者・社会にとっても大きなメリットがあります。できるだけ多くの人が、「レカネマブ」のような効果的な薬剤を使いやすい体制が整うことに期待したいですね。