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第145回

認知症の人への声かけは「抑える」のがコツ 利用者対応がうまい介護職員の特徴とは

最終更新日時 2020/08/12

株式会社Qship(キューシップ)代表・介護福祉士の梅本聡です。今回は、「利用者の方への対応がうまい職員の特徴」についてお伝えします。

利用者の方に大声を出すのはNG

介護現場では時折、立ち上がりや歩行が不安定な利用者さんがイスから立ち上がるのを見て、職員がこんな声をかけている光景を見かけます。

「○○さん!立たないで!!」「○○さん!座ってて!!」

声をかけているといっても「大声」で叫んでいるので、はたから見たら怒鳴っている、叱責しているかのようにも感じます。

利用者の方が転倒する可能性があるわけですから、動きを止めたくなる気持ちはわからなくもありません。しかし、僕の介護歴27年間の経験上、大声で叫んで利用者の方の動きを制止しようしても刺激するばかりで、逆にトラブルの種をまくことになります。

ましてや怒鳴ったり、叱責すれば(大声で叫ぶことで利用者さんがそう感じてしまえば)なおのことです。人にとって、「自分の意思に基づいた行動」を大声で叫ばれながら抑制・否定されることは屈辱です。

大声を出した結果、利用者の方が「なんで、大声で命令されなきゃいけないんだ」「なんで年下の人間に怒られなきゃいけないんだ」と思ってもおかしくありません。となれば、反発したり怒ったりするのも当たり前ではないでしょうか。

だからこそ、「座って!」と利用者の方に言っても、逆に「フン」とばかりに立ち上がろうとしたり、「なんで立っちゃダメなんだよ!」と怒りをぶつけてきたりするのです。そのきっかけを作ったのは、「大声」で叫んだ方ではないでしょうか。

怒っている若い女性と高齢女性

立ち上がった理由を探ること

僕が出会ってきた対応のうまい職員は共通して大声で叫びません。転倒の可能性がある利用者さんの立ち上がりを見たら、サッと本人の側に赴き、優しく冷静な口調で「○○さん、座りませんか」と声をかけます。しかも、本人に聞こえる程度に「声量を抑えて」です。

または、「声量を抑えて」優しく冷静な口調で「どうされましたか?」と問いかけます。なぜ問いかけるのかというと、「トイレに行きたい」「部屋に帰りたい」「単にお尻が痛い」など、立つという行為には何かしらの理由があるからです。そのため「なぜ立ち上がるのか?」の理由を探り、その理由にあわせた声がけや対応を行おうと考えているわけです。

立ち上がった理由がトイレに行きたいのであればトイレに誘導。お尻が痛いのであれば座り直しを手伝ったり、クッションを用意すれば解決するかもしれません。その場で本人の気持ち(理由)に対応できないのであれば、「今は別の方のお手伝いをしているので、5分後に歩くのをお手伝いしますね」と説明をすれば、落ち着いてくれるかもしれません。

利用者の方が立ち上がっただけで条件反射のごとく「座ってて!」と大声で叫び、利用者の方は座らされる。でも納得はしていませんから、また立ち上がる。再び職員が座るよう大声で叫び、利用者の方は座らされる。

その光景はまるで、モグラたたきのようです。そして、この繰り返しによってお互いストレスが高まったり、繰り返しがエスカレートして、「座ってって言ったでしょ!」「なんでだよ!」「前にも転んだでしょ!」と口論に発展してしまう…。

そうならないために心掛けたいことは、「声量を抑えて」であり、「理由を探る」ことではないでしょうか。

認知症の症状を考えて行動すること

僕が特別養護老人ホームに勤めていたときのことです。併設されているショートステイに所用があり立ち寄ると、利用初日のAさん(女性)と職員が共同生活室で押し問答を繰り広げていました。

職員とAさんの会話

Aさん「私は帰るよ」
職員「だ・か・ら!!今日はここに泊まっていくんです」

認知症の状態にあるAさんは、外出したら自分で帰宅するのは難しい状態です。しかし日に何度も外出を試みたり、日常生活の行為を自分1人でやり遂げることが難しいため、常に支援が必要でした。同居する娘さんは長期にわたる介護に疲れてしまい、休息をとるために母親のショートステイ利用を申し込んだのです。

職員とAさんの会話

Aさん「何で私が泊まっていかなきゃいけないのよ!」
職員「娘さんがここに泊まっていくように手続きをしたんです」
Aさん「そんなわけないでしょ。帰るのよ、私は!」

2人の押し問答に冷ややかな視線を向けるほかの利用者の方。その視線を感じていたたまれなくなったのか、玄関に向かおうするAさんの前に、「だ・か・ら、ダメですって!!」と職員が立ちふさがります。そしてまた、押し問答。僕は見かねて、「ちょっと、もういいから…」と2人の間に介入しました。

梅本とAさんの会話

梅本「Aさん、あちらで僕がお話しを聞きますんで…」
Aさん「何でよ。話なんていいわよ。とにかく私は帰りたいの」
梅本「そうですか。わかりました。」
梅本(少し間を開けて)「帰りたいっていうお気持ちもお聞きしますので…」
Aさん「…」
梅本「とりあえずあちらに行きましょう」

僕はAさんに聞こえる程度の声量でこう語りかけました。すると彼女は「私は帰るんだから」などとブツブツ言いながらも、僕の手招きでご自分が利用する部屋に向かってくれたのです。

職員からすれば「帰らせるわけにはいかない」という思いがありますから、必死に説得を心掛けたのでしょう。その説得がエスカレートし、大声になってしまったのだと思います。私はそのことを責める気はありません。僕はただこの場を収めようと思っただけなので、対応がうまい職員から学んだように「声量を抑えて」彼女に語り掛けました。

OKサインを出す白衣を着た若い女性とベッドで介護している様子

また、できるだけ言葉をつなげず、伝えたいことを短いフレーズにしました。このときで言うと、「僕はあなたの気持ちを理解していますから、ちゃんとあなたの話を聞きます。でも場所を変えましょう」と、ひとつながりで伝えるのではなく、一つひとつを分解し、短く伝えたということです。

というのも、認知症の方は、一度に処理できる情報の量が減ると言われているからです。例えば、職員と一緒に散歩に出かけ施設に戻ってきた利用者さんに対してこう伝えるとします。

「まずは手洗いうがいをして、それが終わったらお部屋に帽子を置いてきてくださいね。そうしたら談話室に戻ってきてください。皆さんでお茶でも飲みましょう」

この一連の言葉のなかには、利用者さんが処理し、対処しなければいけない情報が4つあります。

  1. 手洗いうがいをする
  2. 部屋に帽子を置いてくる
  3. 談話室に戻る
  4. みんなでお茶を飲む

これをひとつながりで伝えるのではなく、まずは手洗いうがいを促し、それが終わったら次(部屋に帽子を置いてくる)のことを伝え、それが終わったら…を繰り返すわけです。(1つの行動に対して1つの伝達)。

僕がAさんに「あなたの気持ちは理解していること、それも踏まえてあなたの話を聞くこと、話をする場所を変えたいこと」をひとつながりで伝えても、ただでさえ彼女は帰ることで頭がいっぱいで興奮もしていますから、より僕から伝えたこと(情報)を処理(理解)するのは難しいでしょう。だから短いフレーズにして伝えたのです。

吹き出しの中でうがいや話している様子の高齢女性と手を取る若い女性

さらに、場所を変えたかったのにも理由があります。Aさんはこの時、ほかの利用者さんや職員が目に入り、テレビの音が耳に入る環境にいました。この環境は、集中力を持続させることが難しい認知症の状態にある彼女にとって、人と集中して話ができる状況にないと思ったのです。だから、静かな居室で2人だけで話をしようと判断したわけですね。

次回も、利用者対応がうまい職員の特徴をお伝えします。ポイントは、「押してダメなら引いてみよう」と「引き出しを多く持とう」です。

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