こんにちは。特別養護老人ホーム裕和園の髙橋秀明です。本日は「特別養護老人ホーム(以下、特養)における入所者のスケジュール」についてお話します。
特養は数ある介護保険施設の中で一番歴史があります。2000年に介護保険制度が施行されたわけですが特養はそれより前の1963年、介護保険制度創設前の「措置」の時代から存在し、長い歴史を積み上げて今に至ります。
特養の歴史を書籍や当時の映像からひも解いていくと、「措置」の時代は職員の作成したスケジュールによって入所者の1日が詳細に決められていました。
それから年月が経ち、介護保険制度が創設・成熟したおかげで支援のあり方も変化を遂げてきました。「職員が作成したスケジュールに一律的に入居者をあてはめる暮らし」から、「入居者一人ひとりの暮らしの意向やこだわり、長年培った生活スタイルに配慮した支援」に変遷したわけです。
とはいえ、スケジュールが完全になくなったわけではありません。少なくとも、僕が働く特養では大まかなスケジュールが存在しています。
特養に入所を検討されている方やそのご家族、すでに特養に入所されている方のご家族からも、「1日をどのように過ごすのか?・過ごしているのか?」という質問をいただきます。その質問に今回はお答えしますので、参考にしてみてください。
特養における1日のスケジュール
まず、大まかな一日のスケジュールは下記になります。
入所者の起床時間はまちまち
起床時間は入所者によってさまざまですが、ほとんどは朝食前には起きています。朝食前にコーヒーを飲みながら新聞を読む方もいれば、早朝から起きて他入所者が使用するおしぼりやタオルをもの干し竿から取り込んでたたんでいる方、朝食の直前まで寝ている方など、10人いれば10通りの生活スタイルがあるわけです。
認知症の状態などで意思表示が難しくなっている方は職員が誘導しますが、その時には「起きますか、起きませんか」「食事に行きませんか」といった、本人の意思を確認することを前提としています。
今から17年前、介護老人保健施設で介護職員だった私は、職員が決めたスケジュールに従い、朝6時になったら入所者の意思に関係なく、一律的に起床介助をしていたこともありました。しかし、今は「強制・管理的」を標準とした介護から「本人の意思を確認する」ことを標準とした介護へ変化を遂げているのです。
食事のメニューは決められている
人が生きるために必要な行為の1つが食事です。食事は「お腹が空いた」という生理現象をはじめ、「〇〇を食べたいという意思・意欲」「食材を獲得するために買い物に出かける」「食材を調理する」といった、食を通じて生きるために必要なさまざまな生活行為がちりばめられています。
また、おいしい食事をしたときは満足感を得ることもできますよね。つまり、食事は単なる「栄養補給」ではないのです。特養では、食材を獲得するために買いものに出かけたり、調理をするということは施設の性質上ほとんどありませんが、「お腹が空いたなあ」「うまいもんが食べたい」という意思・意欲を叶えたり、おいしい食事をしたときの満足感を与えることはできます。
『特別養護⽼⼈ホームの設備および運営に関する基準』の第⼗七条に、食事について以下の通り書かれています。
第十七条
- 特別養護老人ホームは、栄養並びに入所者の心身の状況および嗜好を考慮した食事を、適切な時間に提供しなければならない。
- 特別養護老人ホームは、入所者が可能な限り離床して、食堂で食事を摂ることを支援しなければならない。
上記2項のように、食事は食堂ですることが一般的です。しかし、体調不良者や看取りの状態にある方などは、その時その方の状態に応じて居室で食事をする等変更しています。また、コロナ禍のため現在は制限をしている特養も多いと思いますが、ご家族と外食をしたり、ご家族持ち込みの食事をするなども可能です。
また、食事時間は朝は7:30~9:00頃、昼は11:30~13:00頃、夜は17:30~18:30頃に設定しているところが一般的ですが、夕食の提供時間は18時以降が好ましいとなっています。就寝時間や翌日朝食までの間隔に配慮するためです。
食事の内容に関しては、特養では予めメニューが決められています。しかし、本人の嗜好やアレルギーなどを事前に聞き取り、魚から肉に変更したり代替品を提供するなどの柔軟な対応が可能です。
さまざまな種類の浴槽がある
特養の浴槽は「家庭に近い浴槽」「銭湯のように広い浴槽」「歩けない方でも湯船に使うことができる機械浴槽」「寝たきりの方でも浴槽に浸かることができる特別浴槽」など、さまざまな種類があります。
入浴時間は日中に行っているところが多く、就寝する前に入浴できる特養は少ないかもしれません。また、特養での入浴回数は週2回以上と決められています。その根拠は『特別養護⽼⼈ホームの設備及び運営に関する基準』第⼗六条の2にある、「1週間に2回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない」からきています。
つまり、「特養における1人あたりの入浴回数は週2回」が標準なわけですが、これはあくまで「最低基準」です。特養によっては、毎日入浴できるところもあります。 入居者によっては週2回の入浴で良いと思っている方もいるかもしれませんが、毎日お風呂に入りたいと思っている方もいますよね。
食事や入浴以外は自由時間
特養での1日のスケジュールを簡単にお話しさせていただきましたが、入所者のそれぞれの生活は施設サービス計画書に基づき個別性があることを知っておきましょう。
食事や入浴以外の時間は、基本的に入所者それぞれの時間です。居室でTVを見ながら過ごす方や趣味に勤しむ方、機能訓練を実施する方、職員が実施するレクリエーションに参加される方などさまざまです。
今回は特養の1日のスケジュールについてお話をさせていただきました。特養は歴史ある施設ですが、歴史あるが故に「既存のスケジュール」にこだわり、変化しにくい面があることも事実です。
「被介護者の⽣きる姿は、介護をする⼈で⼤きく変わる」ということを忘れないようにしましょう。スケジュール1つとっても、入所者の生活に大きな影響を与えている可能性があることを胸に刻み、より良くしていくことに尽力をしていきたいです。