株式会社Qship(キューシップ)代表の介護福祉士、梅本聡です。
第129回では、グループホームの日中の時間帯における「人員配置基準」をお伝えしました。
今回は、夜間・深夜時間帯の基準がどうなっているのか、確認してみたいと思います。
施設の種類別、夜間の人員配置基準
施設種類ごとの夜間の人員配置基準は以下の通りです。
従来型特養
- 入居者50人に対して職員2人以上
ユニット型特養
- 2ユニットごとに職員1人以上
- 最大20人に対して職員1人
グループホーム
- 1ユニットごとに職員1人以上
- 最大入居者9人に対して職員1人
前回の記事でお伝えしたとおり、入居系介護施設の中で日中の人員配置基準が最も高いのは、グループホームです(とは言っても、日中の時間帯はほぼ「9:2」です。)
それは、夜間・深夜時間帯も同様です。
基準の見直しは過去3回、介護保険事業で最多
最も多くの人員配置を定めているグループホームの夜間・深夜時間帯における現行の人員配置基準は、2012年度の介護報酬改定から基準化されたものです。
グループホームの「夜間・深夜時間帯の人員配置基準の変遷」をまとめました。以下の図をご覧ください。
2000年の介護保険制度が制定された際、グループホームの夜間の時間帯は「宿直勤務」で設計されていました。
【宿直勤務許可の取り扱いについて】
- 常態として、ほとんど労働する必要のない勤務であること
- 通常の勤務時間の拘束から完全に解放されていること
- 相当の睡眠設備が整備され、かつ、夜間に十分睡眠が取れること
僕は、2000年4月に開設したグループホームで10年と半年の間、ホーム長として勤務している中で「宿直勤務体制」を経験しました。
しかし、宿直勤務の取り扱いにある「夜間の十分な睡眠の確保」など、まったくできませんでした。
認知症の状態にある方の行動の特性から、夜間にも職員による対応が必要で、実際には「夜勤」と同じ勤務状態になっていたからです。
そんな「宿直勤務」から始まったグループホームの夜間体制は、事業者団体などからの要望もあり、2003年度に「夜勤」体制も可となりました。
これも含めて、これまでに計3回の体制見直しが行われています。ここまで見直しが行われているのは、介護保険事業の中でもグループホームだけです。
2006年の火災事件が契機となり、1ユニット夜勤1人以上の配置が決定
その大きな原因となったのは、2006年1月に発生したグループホームでの火災です。この火災は、9人の入居者の方のうち7人の方が犠牲となる大惨事でした。
ここからグループホームの設備や職員の配置が見直されていくことになります。
【施設や人員配置の整備】
- スプリンクラーなどの消火設備整備の義務づけ
- 宿直勤務の廃止
- 各ユニットに夜勤1人以上を配置(ただし、ほかユニットとの兼務可)
そして、2012年度からは、ユニット型特養で認められている「2ユニットで1人夜勤可」という例外規定を廃止し、1ユニットごとに夜勤1人以上が制度化されたのです。
これによって、2ユニット運営のグループホームであれば、夜間の建物内には最低2人の職員がいることになります。
建物全体で夜勤職員1人では、火災時に通報や避難介助などを行っていると「初期消火」ができない可能性があるため、多少の改善が図られた形となりました。
1ユニット運営の施設には、「複数配置」が可能な報酬加算が設けられる
1ユニット運営のグループホームについては、1ユニット職員2人以上の「複数配置」が可能になるよう、2009年度、2012年度に「夜間ケア加算」、次いで2015年度に「夜間支援体制加算」が設けられました。
ちなみに、現行の夜間支援体制加算で算定できるのは1日50単位です。9人の入居者の方で算定した場合、500円(1単位10円×50単位)×9人=4,500円になります。
独立行政法人福祉医療機構が公開している『平成29年度認知症高齢者グループホームの経営状況について』によると、1ユニット運営のグループホーム579事業所のうち、「夜間支援体制加算(ⅠまたはⅡ)」を算定している事業所は6.1%です。
もちろん加配分の人員確保が困難であることも要因の1つでしょうが、「この単位数では、夜勤者を増やすことはできない」、つまり「加算が足りない」というのが本音ではないでしょうか。
実情は夜勤職員1人、深夜の仮眠や緊急時の対応が不十分
さて、グループホームの夜間・深夜時間帯の人員配置基準を見てきましたが、現実は夜勤職員1人です。
国は、『認知症高齢者グループホームにおける夜間及び深夜の勤務の取扱いについて』のなかで、「夜勤者には労働基準法に基づき、少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と示しています。
これは労基法上当然の内容ですが、1人夜勤体制の中でどうやって休憩を取ればいいのでしょうか。
おそらく多くのグループホームでは、遅番勤務者がいる時間帯と翌日の早番勤務者が出勤後の時間帯で、分散して休憩を取っているのではないかと思います。この場合、夜間・深夜の仮眠は取れないのが現状です。
また「1人夜勤」は、入居者さんの急変、事故や災害、職員の不意の事故や病気といったアクシデントに対して脆い職員体制であることから、最善の人員配置基準とは思えません。
人員配置基準と労基法を満たすには、最低でも1ユニット6人の職員が必要
僕が行ったシミュレーションによると、グループホームの人員配置基準と労働基準法を満たしていくには、1ユニット最低約6人の介護職員が必要となります。
また、常勤換算で見た場合、1ユニット9人では「1.5:1」となる計算です。特養と同様に「3:1」以上の人員配置が必要となります。
AIやICTの活用による業務効率化で「4:1」基準を目指す
「3:1」以上の職員の配置が必要な入居系介護施設の現実と併せて、人手不足で職員確保ができないという課題もあります。
そのため、昨今、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)などを活かした「業務効率化」を前提に、「4:1」の人員配置基準への緩和を求める声が挙がっているそうです。
しかし、現状、入居系介護施設の中で人員配置基準が一番高いグループホームであっても、日中は「9:2」、夜間帯は「9:1」の職員配置が限界です。
もし、「4:1」基準になった場合、当然これよりも少ない職員数で入居者の方を支援していくことになります。
AIやICTを活かした業務効率化や、見守りセンサー・ロボットなどの活用を図り「3:1」を「4:1」に緩和できるのではないか、という議論は、人員配置基準の実態を見失った議論ではないでしょうか。
介護保険制度が施行され約20年が経過しました。
制度設計に携わる方や有識者の方々には、基準の緩和の議論以前に、人員配置基準が要介護状態にある方たちを支える仕組みであることを前提に、多角的な視点を持って遡上(そじょう)し、人員配置基準について考えていただきたいと僕は思っています。
【人員配置基準の議論に必要な主な視点】
- 「3:1」基準が、入居者の方の生活実態や職員の労働実態にどのような影響を与えているのか、またどうあるべきなのか
- 労基法改正による年5日の有給休暇取得の義務の順守によって起こる問題(人員不足を補う増員に伴う、1人当たりの給与の低下 ※給与については第119回を参照)
- 国が介護現場に求める行事やレクリエーションの実施に必要な準備、会議や委員会活動、職員の外部研修参加への機会確保、施設内研修の開催などに伴う課題(これらは介護職員が支援現場から離れて成立するため、直接的支援の人員が不足する)
- AIやICTを活かした業務効率化で「人員削減」を行うのではなく、入居者の方にかかわる時間の増加や職員の休憩時間を確保とするべきではないか