こんにちは。ケアマネジャーの小川風子です。
2021年度における介護保険法の見直しで、「介護業界にICTを導入する」「ケアマネが担当できる利用者数を増やす」という案が出ています。
居宅介護支援は黒字化の難しい職種ではあるので、担当者数を増やすことで増収につながるのはありがたいのですが、今よりも担当できる利用者数が増えたらどうなるのでしょうか。現場で働くケアマネとしては、「考えるのもうんざりしてしまう」というのが正直なところです。
筆者が介護職に就いた介護保険が施行した2000年頃、ケアマネは「現場に出ず楽で高級取り」というイメージでした。「月に1回ハンコをもらいに行けばいいのだろう」と思っていて、事実今よりも業務内容はとてもゆるかったです。それから20年経ったわけですが、今「ケアマネをしています」と言うと、周りの方からは「大変でしょう、ものすごく忙しいんでしょう」と多く言われます。
確かに大変で忙しいのですが、それは本来のケアマネ業務が要因かと言えば、決してそれだけではありません。むしろ、「本当はしなくて良いはずの仕事」に翻弄されています。どのケアマネと話をしても、抱えている問題は同じ印象を受けました。今回は、「ケアマネの業務範囲外の仕事について」を、ケアマネではない皆さんにもぜひ知っていただけたらと思います。
ケアマネの業務はICT化で楽に
「ケアマネの"本来"の仕事」という言い方は変ですが、主な業務には以下が挙げられます。
- ケアプランなどの各種書類の作成
- 月に1回のモニタリング訪問
- 介護保険関係の手続き
- 各事業所、医療機関とのやり取り
- 請求業務である給付管理 など
ざっくりと書きましたが、これらを行うのでも一苦労。担当者の入退院や新規利用者、急変などが数人出るともう大忙しです。介護保険法改定によるICT化で「ケアマネの業務が楽になるだろうから、担当件数を増やせるだろう」と国が判断したのは、おそらくこのケアマネの本来の業務しか知らないからだと思います。
くわしくは後述しますが、ICT化を徹底することによって確かにこのあたりの業務は楽になると思います。もともと「ケアプランをAIに」という話はずっと出ていたので、事務的な作業を機械化することによって、「ケアマネはどんどん暇になる」と思われているんでしょう。しかし、それはあくまでも「本来の業務のみ」を行っていた場合の話です。実際はそんな簡単なものではありません。
業務外なのに利用者の家に毎日通うケアマネも…
「ケアマネがどこまで業務外の仕事をしているのか」についてですが、厳密に言えば一括りにはできません。本来の業務以外は絶対にしないケアマネもいますし、業務外の仕事に追われているケアマネもいるからです。
ただ、筆者はケアマネ歴も長く主任ケアマネも取得しているので、ケアマネだけが集まる研修でグループワークや事例検討をたくさん行っているのですが、話を聞くとほとんどのケアマネが業務外の仕事に追われている印象です。それが困難な事例ともなると、毎日のように利用者の方の家に通って、ほかの仕事が滞ってしまうこともあるそうです。
業務外のことをしないといけない利用者の方も、業務外のことをしなくて良い利用者の方も、要介護度が同じなら基本的にケアプラン料は同じ。言い方は悪いですが、手のかかる人に時間を取られ、理解がある利用者の方にしわ寄せがくることもしばしばあります。この葛藤はどのケアマネも味わっていることでしょう。
頻繁に発生する利用者の方の通院・入退院の付き添い
「業務外の仕事とは何か」について説明すると、具体的には「協力的な家族がいた場合にするであろうこと」をイメージしてください。業務外の仕事で多い例を挙げると、利用者の方の通院や入退院の付き添いがありますね。ほかにも、利用者の方へ以下のような対応をしたことがあります。
- 入院時、家の荷物を病院に配送(病院から依頼)
- 介護保険に関係のない行政手続きの代理
- 体調不良や転倒時の対応
- ゴミ屋敷の掃除やその処理の手続き
- 破損した家具や家電製品の買いもの
そのほかにも、最近でしたらプレミアム商品券や国勢調査、特別定額給付金の手続きも行ったのですが、何人の手続きをしたかわからないほど大変でした。「政府は手続きできない高齢者のことなんて、何にも想定していないんだな」と思わずにはいられないほど忙しかったです。筆者はお金に関する手続きだけは断固として断ってはいるのですが、やらないほうがいいと思いつつ手続きをしているケアマネもいるのではないでしょうか。
本当にケアマネの業務過多をどうにかするなら、ICT化の徹底をする前に「ケアマネがすべきことはこれだけである」という法律を明確にし、それ以外をケアマネは禁止するくらいは徹底してほしいです。
資料のやり取りで膨大な時間が割かれる
介護保険ではフォローすることができず、かつ人が動かないと解決しない問題に対応することが多いケアマネですが、前述したように、ICT化で多少は業務が楽になると思います。と言うのも、ケアマネはとにかく書類の作成業務がとんでもなく多いのです。しかも同じような内容を、支援経過やモニタリング、ケアプラン、担当者会議など、それぞれ異なる様式で残さないといけません。そうしないと、指導が入ったときに減算になるからです。
担当者会議の記録やケアプラン、提供票などは、パソコンに打ち込んだものをプリントアウトして事業所に交付するのですが、何百枚にも及ぶ提供票はファックスしたあとすぐシュレッダーにかけます。そうすると月末は、時間をかけたものを捨てるという無駄な作業が発生するわけです。
市町村によっては、実績をデータで飛ばしあえたり、同一法人内であればデータを共有したりしているようですが、それはごく一部の話。月初めには、担当しているすべての事業所から紙媒体で利用実績が送られてきて、それをパソコンに入力しなければなりません。このあたりをクラウドなりで共有すれば、どれだけ時間と手間と費用が浮くことでしょう。そんなに難しい仕組みづくりではないと思います。
しかしその一方で、「個人情報保護」という観点からなかなかICT化が進まないのではないかとも感じています。
ICT化による効果を最大限にする仕組みづくりを
また、ケアマネはとにかく研修が多いのですが、今回主任ケアマネの法定外研修が新型コロナの感染拡大で軒並み中止になり、受けるべき時間が確保できないと危惧していました。ところが2020年末ごろからオンライン会議アプリによる研修が増えてきてこれが本当に良いのです。
研修会場に行かなくていいので、時間のロスが少なく交通費もかかりません。ケアマネも主任ケアマネも、5年に1回長い更新研修で何日も拘束されるのが大変なので、ICT化を勧めるというのなら、まずはこの研修から変えてほしいと切に願います。
もちろん、先述したようにマンパワーでしか解決できない業務があるのも事実。ICT化したからといって、担当人数が増えるほど楽になるかといわれると、何とも言えません。「政府がICT化を義務化して、罰則をつけないとそう普及しないのではないか」と個人的には思いつつ、普及すれば仕事が多少は楽になるので期待もしています。