皆さんこんにちは。医療と介護の連携支援センター 長谷川です。
第47回の記事で、⾼齢者⽀援センターが「地域の課題を抽出して解決⽅法を検討する」役割を担っていることを説明しました。しかし、あくまでも課題を発信する主体は地域住民の方々。その地域住民から挙げられた地域の課題を、地域住民はもちろん、高齢者支援センターだけでなくその地域のさまざまな資源を活用し、繋がりながら解決に向けていきます。
その解決(現在進行形)に向けた取り組みとして、町田市で開始された「交通弱者への移動支援の取り組み」について、ご紹介させていただきます。
地域住民の外出を便利にするために送迎手段を確立
まず1つ目は、東京都町田市の鞍掛台(くらかけだい)地区で進められている、「くらちゃん号プロジェクト」についてです。このプロジェクトは、地域住民と高齢者支援センター、高齢者施設や障がい者施設と行政が取り組んでいます。鞍掛台地区は1960年代に分譲された330世帯の約850名が暮らす住宅街。住民の9割以上が鞍掛台自治会に加入しています。
鞍掛台地区の特徴は道幅が狭く急な坂道が多いこと。最寄りのバス停まで遠いことに加えて、2019年9月時点での鞍掛台の高齢化率は32%(全国平均は2019年9月時点で28.4%)まで上昇していました。その中で、「外出が困難になってきた」「外出するのに不便だ」という意見が、住民から鞍掛台自治会に多く寄せられるようになったのです。
そこで、2018年に「買いものや外出などで困っている方を助けたい」という想いで、鞍掛台自治会が中心となり、地域の高齢者支援センターと地域の社会福祉事業所が一緒になってプロジェクトチームを結成。約1年かけて検討を重ねていきました。鞍掛台自治会と高齢者支援サンタ―は「防災見守りネットワーク」という取り組みで月に1回程度の会合を持っていたことも協力してもらう1つのきっかけにもなりました。
「地域住民にどれぐらいニーズがあるのだろうか」ということを改めて確認するため、最初にはじめたのは、地区の全世帯(約330世帯)へのアンケート調査でした。その結果、約100世帯から「あれば利用したい」とのニーズが判明したのです。
実際に2019年3月から、毎週木曜日午前11時~午後2時の間で6便、成瀬コミュニティーセンターと4ヵ所の乗降場所を結ぶルートで半年間の試行運行をスタート。試行運行を重ねて問題点を検証し、取り組みを継続するための改善も行いました。
2019年10月からの半年間は、時間と便数を変更し、午前10時45分~午後3時までの8便で再度試行運行を開始。試行運行期間である1ヵ月の平均利用者は約70人で、累計約860人でした。その後の2020年4月からの本運行では、2019年12月に行った住民へのアンケートや試行運行を検証し、毎週火曜日・金曜日の週2回、1日5便、週10便の運行で利用者の利便性と拡大を図りました。
町田市も一体となって協力することに
高齢者支援センターの協力を得て、特別養護老人ホームなどを運営する地域の社会福祉法人3団体から空いている送迎車両の提供を受けました。また、ガソリン代や運転手の人件費など運行に必要な経費は、社会福祉法「地域における公益的な取組」規定に基づき、社会福祉法人が負担。運行に必要な手続きは、町田市も協力してくれ、初期費用は皆で分担し、工面しました。
道路運送法上では、「許可・登録を要しない輸送」に該当し、住民は無料で利用できるものとしました。アンケートから出た「運行頻度を増やしてほしい」や「高齢者だけでなく、小さな子どもがいる家庭も利用したい」などの意見にも順次対応してく予定とのことです。
運用の費用面や車両提供で負担してもらっている社会福祉法人に対しては、自治会のメンバーが施設や地域のイベントを手伝うなど、地域での持ちつ持たれつの関係が以前より強くなってきており、施設関係者と地域住民の顔の見える関係が構築されています。今後見込まれる費用負担は、社会福祉法人だけが負担するのではなく、近隣商店街や商業施設からの協賛を得られないかなど、幅広くアイデアも出ています。送迎してもらいたい人の需要は、今後増えることが見込まれています。
手探りの状態で試行錯誤しながら運用
実際に運用に協力している社会福祉法人の施設長にインタビューしてみましたので、ここでご紹介します。
長谷川:そもそもこの取り組みを聞いたときどう思いましたか。
施設長:自法人で行っている高齢者支援センターが提案した話であり、自分たちが運営する施設の地域なので協力することには間違いありませんが、何をすれば良いのか手探りな状態でした。
長谷川:長谷川:まず何から始めましたか。
施設長:最初に行ったのは、法人内の了解を得ることからです。社会福祉法では「地域における公益的な取組規定」とあります。私の法⼈は施設を都内で約10ヵ所運営しておりますが、前例がない状態でしたので「実際に車両を出す」「ドライバーを出す」「保険はどうなる?」など、同法人内でも理解を得るのに時間を必要としました。最終的には法人理事長が了解してくれて、背中を押してくれたことで動き出すことができました。
長谷川:その後、運用はスムーズでしたか。
施設長:それが全然。市役所の担当課や社会福祉協議会・警察など、関係する機関との調整がまた一苦労でした。私たちの社会福祉法人だけでは対応が難しくなることも予想されました。なので、同じ地域で展開しているほかの高齢分野・障がい分野である社会福祉法人の施設長にも、同じように車両とドライバーの提供について打診依頼を併せて開始したんです。 同法人だけではなく他法人・他事業所を巻き込みながらさまざまな意見を聞き、最終的には市会議員の方にも入っていただき、司法書士の先生のご指導の元取扱いの内容をまとめ、なんとか試行することができました。
長谷川:社会福祉法人としてのメリットはありますか。
施設長:高齢者事業を行う社会福祉法人としても、支援センターを運営する法人としても、地域包括ケアシステムの構築や地域課題を解決するための社会資源の発掘と開発が急務とされています。 実際に地域住民の方から寄せられた課題に対して高齢者支援センターが対応し、見える形で結果を示すことができたのは非常に素晴らしいことだと考えていますし、この取り組みを通じて地域の方が施設へ気軽に寄ってくれる土壌ができたと思っています。
長谷川:今後の課題はなんですか。
施設長:課題は今後も継続的に取り組みを続けていくことだと思います。発着場所となっているコミュニティセンターなどに専用のバス停を置いてもらうなど、さまざまな所で地域の方のお力を貸していただいています。この部分が固有の人に頼る属人的なものではなく、公平に負担いただいて行えるような形にしないと継続性が担保できないと考えています。
他の地域でも違った形で送迎サービスが開始
今回のケースは地域住民の困りごとや課題に対して、日頃からコミュニケーションをとっている高齢者支援センターが聞き取りを実施し、実際に自分事として検討し、自法人や地域の法人、事業所、行政や議員さんも巻き込みました。最高の解決ではないかもしれませんが、最善の解決策を見出したと考えています。
その過程では、どの役割の方も欠けていたらこの事業はできなかったと感じますし、ここまでの苦労された皆さんに、尊敬の念をいただいております。この事例がそのままほかの地域で活用できるか?と言ったら難しい部分はあるかと思います。しかし、きっかけは誰にもあるでしょう。そのきっかけになる最初の1歩をぜひ皆さんで進めてみてほしいと思っています。
ほぼ同時期に町田市の鶴川(つるかわ)では、団地を中心とした買いものや外出に困っている高齢者を対象とした、送迎サービスを開始しました。この事業も地域の社会福祉法人と団地の「地域支えあい連絡会」や企業、行政、国土交通省などからもサポートしてもらっています。
こちらは、ゴルフ場などで見かける電動カートを利用して団地内の各店舗までの送迎を行う「くらちゃん号プロジェクト」とはまた違った形での取り組みになっています。また機会があれば、鶴川の取り組みについてもご紹介させていただければと思います。