ついに日本でも、新型コロナウイルス感染症対策のワクチンを国民が接種するための段取りが進んでいます。首相官邸ホームページでは新型コロナワクチン専用ページまで新設され、ワクチン担当大臣に指名された河野太郎さんが動画で現状の説明とワクチン接種推進への意欲を示しています。
政府は新型コロナワクチンの接種について
高齢者を優先して行う方針を発表
新型コロナに感染した場合、高齢者や基礎疾患をお持ちの方に多くの重症者が出ていることがわかっています。死者を出さないために、国は以下のように優先順位をつけてワクチンを接種する方針を出しています。この緊急度によって選別を行う方法は、トリアージと呼ばれます。
- 新型コロナウイルス感染症患者などに頻繁に接する医療従事者など
- 高齢者
- 基礎疾患を有する方や高齢者施設などにおいて利用者に直接接する職員
ファイザー社など各社のワクチンにおいては、通常の感染症対策ワクチンと同様、非感染者(感染したことのない対象者)に対して2回の接種を行うことで最大95%の感染抑止効果があると期待されています。
本記事をご覧のご高齢の方々や医療・介護従事者の皆さんには、ダイレクトにヒットするお話です。期待が大きい一方で、不安も同様に大きいかとは存じます。
一部の国民には抵抗感の強いワクチンですが
社会全体で接種して集団免疫をつくらなければ
先行してワクチン接種を大々的に行っているイスラエルでは、まもなく全国民の4割が第1回目の接種を終える状況です。重篤な副反応による死亡者はなく、いずれも一定のアレルギー反応による痛みや倦怠感で収まっている模様です。
デンマークでワクチン接種をした人に40名ほど死者が出たという報道がありましたが、そもそも毎日70名近く高齢者が亡くなっていることから、ワクチンの副反応による死者と誤認したものであると見られ、誤報と判断されます。ウイルスの「mRNA」と呼ばれる成分を人工合成して製造された各社ワクチンについては、少なくとも1月24日現在で4,000万人近くが1回目の接種を完了。副反応の報告数からしても、世界でも類を見ないぐらい安全なワクチンであることが明らかになっています。
まあ、国や自治体、製薬メーカー、医師が集まって「安全なワクチンなのでみんな接種してね」と言われても、ワクチン自体をなかなか信用できない国民も少なくありません。理屈ではなく、体内によくわからないものを入れて抗体をつくるということへの抵抗感は強いのでしょう。
今後は制度をきちんとつくり上げたうえで、ワクチン接種を社会全体で確実に実施することで得られる「集団免疫」を確立することが必要です。少なくとも「ワクチンが無効となる新たなウイルス株が変異で出現するまでは、コロナ前の生活に戻ることができる」可能性が高まると言えます。
せっかくできたワクチンなので、みんなで接種して(まずは当面の)新型コロナ問題を解決していきましょう。
新システム「V-SYS」で把握できるのは
ワクチン接種状況だけでかゆいところに手が届かず…
さて、本稿筆者は国民に広くワクチン接種をしてもらうための厚生労働省の仕組みや、接種の経過および事後の感染状況をどう追いかけるのかが大事であると考えています。
厚労省は、各自治体が責任もって国民にワクチンを接種できる仕組みとして、「V-SYS」という名前のシステムを頑張ってつくろうとしています。まず何が画期的かというとファックスを使わなくて済むのです。
厚労省健康局が自治体向けに出している資料でも、システムの概要については説明されています。
とはいえ、このV-SYSというシステムはあくまで国が調達した新型コロナワクチンを自治体が各国民にあまねく接種するところまでを管理するものです。
ということは、「これらのワクチン接種によって、どれだけの感染抑止効果が生まれたのか」「長期的な副反応はあるのか」「もしワクチンがつくり出す体内の抗体が効かない変異株が出現したときどうなるのか」といった、ワクチン接種後の国民の状態を追いかけられる仕組みはまだ備わっていないわけです。この仕組みは追跡能力「トレーサビリティ」と言われます。
ワクチンの効果を検証するためには
数年先までのさらに具体的な情報が必要になる
2021年に入ってから、デジタル担当大臣の平井卓也さんが「トレーサビリティを確保するためにマイナンバーを活用したらどうか」という発案をしています。
もちろん、マイナンバーによるワクチン接種後の国民の状態を管理するのは重要な基礎になることは間違いありません。しかしながら、実際にはマイナンバーと接種状況を紐づけるだけでは不十分で、ワクチン1本1本に記されるロット(製造)番号や接種経緯などはV-SYSでもマイナンバーでも追いかけられません。
必要な情報というのは、医療情報の基本に則った以下の「どの国民が」「どの会社の」「どのロット(製造)番号のワクチンを」「いつ」「どの医療機関で」接種したのかです。
さらにその後、「どのような健康状態で」「副反応なく」「新型コロナに再感染したのかどうか」ということも重要です。これをワクチン接種後の数年間は追いかけられないと、ワクチン接種から得られる情報は中途半端に終わってしまうのです。
そして新型コロナの本当の克服とは
新たな流行を察知できるようになること
新型コロナの蔓延による昨年4月の緊急事態宣言から、1年足らずで感染の再拡大と2回目の緊急事態宣言、そして新型コロナワクチンの完成、全国民へのワクチン接種計画の提示と、すべてが急スピードで進んでいます。
あまりにも世の中の情報が多く、刺激的であるため、国民も政府もマスコミも状況に応じて一喜一憂し、恐怖と安堵を繰り返し感じています。そんな状況下で、個々人が身の回りの新型コロナ感染者の体験談を聞いたり、日々の感染者数を見て自衛策を講じたりしているのではないかと思います。
こうした中、福音であるはずの新型コロナワクチンが本当に奏功するのかきちんと追跡(トレース)し、新たな流行となるまえに察知することで、本当の意味で新型コロナを克服することができるようになるのではないかと考えています。
国によっては、一連の新型コロナワクチンの接種年齢を59歳までとし、60歳以上には積極的に摂取しないという判断をしているところもあるようです。しかし我が国では、良くも悪くも人の命は地球より重いという考えのもと、海外から批判されても愚直に多くの命を救うために、高齢者に先行してワクチンを接種するという方針を選びました。それはそれで、日本らしくて良かったんじゃないかと思います。
そして政府は、新型コロナ感染の恐怖と向き合う高齢者や医療関係者だけでなく、介護施設の職員の皆さんにも優先的にワクチン接種を行うことにしました。これは、英断であったと感じます。
新型コロナワクチンが奏功することを期待し、多くの高齢者が感染の恐怖から解放されることを期待してやみません。