ついに、日本の対新型コロナウイルスワクチンの接種が医療機関向けに始まりました。爾後、順次、高齢者向け施設の職員の方々や慢性疾患をお持ちの方、そしてハイリスク群である高齢者の接種が各自治体から拡大して進められる予定です。
まずは医師や看護師など医療機関にお勤めの方、約4万人に対する接種が先行して始まっていますが、今後、優先的な接種の対象となる高齢者、慢性疾患をお持ちの方、および介護事業などに携わる関係者の接種スケジュールについては、厚生労働省やお住まいの自治体の発表を都度チェックしていただければと存じます。
大規模なワクチン接種計画がついに始動!
その副反応や取り扱いにはまだ課題が…
突貫工事の都合上、大規模な接種を進めるにあたっての準備がなかなか進められず、大変な状況にあることは前回も解説をさせていただきました。
あれから数週間が経過し、まさに各自治体の健康・保健担当の皆さまと議論をする中で、まだほかに考えるべきことがあるのではないか、何か取りこぼしはないかと自問自答しながら日々を過ごしております。
ワクチン接種を円滑に行うための調達や接種スケジュールのすり合わせは、各自治体で行われています。一方、日本へのワクチン接種全体の計画は国(官邸)と厚労省が中心となって行います。ほかにも国土交通省や外務省、部分的に防衛省(自衛隊の皆さん)など、多くの関係者にまたがって作業していかなければなりません。
特に、低温保存が必要なファイザー製のワクチンは非常に効果が高いとされつつも、運用には課題が多く残ります。今後のマスコミの報道では、ワクチンの副反応(副作用)への懸念と並んで、輸送・運搬での問題や医療機関側の不慣れな状況ゆえに「ワクチンが何千人分、駄目になってしまった」というような歩留まりに関する内容が増えると思われます。
また、欧州で問題となっているアストラゼネカ社のコロナワクチンの副反応(どうも血栓ができやすくなるらしい)についても報道が出ており、日本のワクチン調達計画も一部変更になる可能性が高くあります。
接種後の健康状態が把握しにくい背景には
個人情報保護の「2,000個問題」がある
それでも、何とかワクチンが日本に着いてしまいさえすれば、遅れ気味とされつつも接種までは漕ぎ着けられると思われます。やはり問題となるのは、前回連載でも指摘しました「トレーサビリティ」、接種後の健康状態の追跡です。
いくつか大きなハードルはあるのですが、まずひとつは自治体の個人情報管理の仕組みがおのおのバラバラであるために起きる「2,000個問題」です。全国の2,000に上る市区町村の自治体は、それぞれ個人情報保護条例の中身や運営方法が異なります。ほかの国では国や州政府などが国民の個人情報を一元管理して健康情報を把握しているところ、我が国では微妙に地方分権が進んでしまっていることもあって、ワクチン接種のシステムは各自治体がやらなければなりません。
これは超リッチな東京都のダウンタウンやビジネス街の自治体も、高齢化が超進んでにっちもさっちもいかない地方の自治体も同じように住民の接種状況を医療機関との連携をもって管理し、厚労省の指定に基づいた台帳によってやっていかなければならないのです。
これがまた、一部の自治体では悪名高き「紙とファックス」によって情報の連携がなされるため、否が応でもワクチン接種計画の現場では沢山の紙が飛び交います。これらはすべて国民のワクチン接種、つまり医療情報であって、慎重に扱わなければならない重要なものになります。
トレーサビリティ実現のために
決まっているのはマイナンバーの活用のみ
さらに、データ連携においては菅義偉政権が新しく任命した河野太郎ワクチン担当大臣と補佐官の自民党・小林史明さんのグループが何とかデータ連携可能かどうかというところまで突貫工事でシステムをつくり上げるところまではきました。ただ、先にも述べた通りこのあたりはあくまで接種までのロジスティクス(手順とデータ処理)までの話であって、いわばワクチンという「モノ」を追いかけられる仕組みであるにすぎません。
今後は、これらを接種した人のトレーサビリティ、つまりは副反応から接種履歴まで一元管理できる仕組みを別途用意していかなければなりません。しかしながら、医療機関向けのワクチン接種が始まっている状況で、マイナンバーを活用するところまでは決まっているものの、具体的に何のデータをどういう仕組みでつくるべきか、未決定のものが多く残されています。
いわゆる「接種証明」のようなものは、今後は国内だけでなく海外渡航を考えるビジネスマンや旅行者に必須のものとなります。しかし現行の仕組みはあくまでワクチンというモノを追いかけるだけの仕組みであるため、なかなか「どの個人がどの会社のワクチンを接種済みなのか」を追いかけるのは骨の折れる作業です。
ワクチンの接種方法が定まらないと
トレーサビリティの実用化は難しい
国民の心配ごとである副反応についても同様です。ワクチン接種後に具合の悪くなった人を把握することは医療機関ではできても、その人がどういう既往歴のある人で、何の薬を日常的に飲み、いかなる身体的特性のある人かまでは追いかけられません。そうなると、同じような薬を飲み、似たような身体的特性のある人にも副反応が起きる可能性が高いにもかかわらず、現行のシステムでは予見することが難しくなっています。
さらには、政府もワクチン調達計画の遅れから、通常であれば2回打つべきワクチンを1回で良いのではないかという検討をしています。さらに、最新のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社のワクチンには、1回の接種でも充分に効果があるのではないかという情報もあります。
2回打つのか1回でいいのかすらまだはっきりとした結論が出ていないので、後日大きな変更になることを恐れて、あまり思い切ったシステム設計ができないのです。
実はICTやインターネットへの理解は
社会保障を最適化するうえでも重要なこと
何より、国民は転居をします。1回目はどこそこの市でワクチンを打った人が、お引越しをして、2回目は別の自治体でワクチンを打ちますという話になると、もうなかなか大変なことなのです。
先述のように、海外では国民の健康情報は国が管理していることもあり、アメリカなどでは社会保障番号で一元管理されているため、仮に州をまたいで接種しても基本的にはすぐに追いかけられる仕組みになっています。日本の場合は、もともとマイナンバーの利用に国民があまり熱心ではなく、普及が遅れたことでワクチン接種についてもシステムが完成するまでは各自治体が手作業で接種を捌かなければならなくなるかもしれません。
蛇足ながら、新型コロナ対策の期間が長引き、首都圏では緊急事態宣言が2週間延長されたりしました。そこで経済的に困窮する母子家庭などの世帯に緊急給付金(10万円ぐらい)を支給しようと考えても、自治体は「どこに住んでいる誰が困窮世帯なのか」という情報を持っていません。そのため、ダイレクトかつスピーディに困っている人にお金を給付することができないのです。
なかなか大変なところで立ち止まっているにもかかわらず、新型コロナ対策やワクチンの接種計画を立てて実行していかなければならないという状況に、我が国は追い込まれているわけです。「社会保障制度を考えるためには、ICTやネット方面のリテラシーが超重要なんだぞ」ということが最近ようやく皆さんに理解してもらえるようになってきたようです。
これでも相当頑張っているんですがねえ。私なんて、自慢するのも変ですが2月は毎日平均3時間も寝られていない日々を送っています。誰か助けて。