この記事を執筆している8月3日現在、立憲民主党など野党は効果的な新型コロナウイルス感染症対策を行うための議論などを求めて、憲法53条に基づく臨時国会を開くよう安倍政権に求めております。

対する安倍政権は、新型コロナ対策だけでなく経済対策への失政を追及されるのを恐れてか、あまり臨時国会の召集には前向きではなさそうです。さらには総理大臣の安倍晋三さんの顔色がさえず、1ヵ月以上も総理記者会見も行われていないため、体調でも悪いのではないかという憶測まで飛び交っています。確かにいつになく精気のない安倍さんの表情が報じられると、国民としてやはり心配にもなります。

課題は「夜の街クラスター」の封じ込め!
罰則付きの休業要請は対策として適切なのか

今回の問題はまさに「新型インフルエンザ等対策特別措置法(通称:特措法)」や、感染症法を改正し、条文の中に「新型コロナウイルス感染症」を明記することです。それによって、「夜の街クラスター」など感染のクラスター(母体)となっている「接待を伴う飲食店」などへの休業要請を罰則付きにしようという流れになっているためです。

かねてより「休業要請と休業補償はセットで」という議論がありますが、諸外国で新型コロナ対策として補償をしている国自体は少なく(「補償するぞ」と大見得を切った某国の報道はされましたが、結局補償はされずじまいでした)、日本でも「感染症対策で休業要請が出ても要請を飲んだ企業や飲食店、ライブハウスなどに補償を行わなければならない」という法律は特にありません。これはもう、政治的な納得の問題に過ぎないというのが現実です。

これらの休業に対して罰則をつけたり、現在充実が求められているPCR検査や陽性判定の出た感染者に対してしっかりとした隔離を行ったりするためには、予算が必要です。また、感染経路の把握や無症状の人の接触履歴を追跡する保健所の機能や保健師を拡充するための体制づくりが同時に求められています。

私などは「罰則付きの休業要請」と言われるとそれはもはや「要請」とは言えないのではないかと思いますし、休業に対する補償といっても検討されている月額20万円程度の補償金が出たとして、それで本当にその店は成り立つのだろうかという危惧を持ちます。国が事業者に補償をしても潰れてしまうのであれば、税金の無駄遣いだけれども、やらないわけにはいかないですからね。

「雇用調整助成金」はまもなく給付が打ち切られますし、経産省が力を入れている「新型コロナウイルス感染症特別貸付」も、結局は借入に過ぎません。コロナ禍が収まらなければ事業者は借りたお金を返すことができず、いずれは潰れることになります。非常に厳しい状況になっていますが、どうしようもないのは事実なので、余力のあるうちに廃業をする事業者が9月以降ダーッと増えて、ますます寒い経済になる恐れもあります。

日本では入院患者が急増中…
重症化を防ぐには介護・医療現場での対策がカギに

一方で、我が国での感染者の急速な拡大の割に重症者や亡くなられる方の数はそう増えておりません。感染から重症になるまでタイムラグがあるにせよ、深刻な状態にはなっていない印象なのです。

もちろん、感染症対策のベッド数で見るならば、東京だけでなく沖縄、福岡、大阪、愛知、神奈川など感染者の急増とともに入院を強いられる人が増加しています。この事実を受けて、どのような対策を追加で打っていくのか、まさに国家レベルでの議論が必要な状況になっていることは間違いありません。

国内の新型コロナによる入院・療養中の患者数と新規陽性者数
出典:『特設サイト 新型コロナウイルス』(NHK)を基に作成 時点

感染症の状態が日本で悪化する一方、置き忘れられているのが、高齢者介護や医療の現場での感染防止対策が、ギリギリ状態の中で続けられていることです。一連の感染者増大の中で重症者が増えないのは、ひとえに重症になりやすい高齢者や慢性疾患患者の多くいる病院や介護施設でのクラスターが発生していないからです。

本連載でも前回書きましたが、高齢者への感染対策こそが死亡者を出さない最大の方策です。そこで感染拡大しないというのは医療関係者や介護業界の従事者がしっかりとした健康管理を行い、施設内での感染を発生させない努力を続けてきているからだと思います。本件については、感謝が尽きません。

介護事業所の約50%に経営的な打撃!
早く対策を打たないと、経営破綻が続発するかも…

しかし、経済状況はかなり待ったなしの様相を呈しています。全国介護事業者連盟の調査では、介護施設や訪問介護事業者の約49%が経営状況に「新型コロナの影響を受けている」ことが判明しています。

国内の新型コロナによる入院・療養中の患者数と新規陽性者数

また厚生労働省の聞き取り調査などでは、主にデイケア・デイサービスを中心に高齢者の需要が激減し、それを埋め合わせる方法が見繕えず、地域によっては多数の介護施設が経営破綻してしまう可能性も示唆されています。

8月3日の社会保障審議会では、介護給付費分科会の「介護報酬改定に関する関係団体ヒアリング」が実施され、介護業界が抱える新型コロナの悪影響と窮状について各団体から具体的な説明が行われました。

介護施設や宿泊系サービス、訪問、デイサービスのいずれも、介護制度に重大な問題を抱えています。例えば、原則的に利用者を自治体の住民に限定しているため、都道府県境に位置する施設や住民の利用を著しく困難にしているという状態に対し、早期に是正されるべきという声が上がっています。

介護事業の連鎖破綻に現実味が!
その場しのぎの対策では、もうどうにもなりません

経営面では、人材の確保と並んで新型コロナ対策の追加予算の確保は緊急の課題になっています。一方で、今回の臨時国会以降いわゆる追加補正の枠組みが今年度で取れるのかは不透明です。事業者に対して直接的な助成が行われたとしても、現在の見通し通り全体で800億円程度の予算しか介護業界に降りてこないのであれば、都市部近郊の介護施設を抱える社会福祉法人の連鎖破綻も現実になってきます。

正直、まったく支援の金額が足りていないうえに感染症対策の費用だけが増えていく現状では身動きが取れません。施設が破綻した場合に、あふれた入所者などの受け入れ先をどこにするのかといった課題がさざなみ状に広がっていきます。

新型コロナ騒動が数ヵ月を経て介護関連制度全体の問題として浮かび上がってくる中で、各事業者や介護に携わる人たちが現場でせっせとその場しのぎの縫合策に走り回らされるのでは本末転倒です。

一方で、先を見た対策を打とうにも当面はほかの事業者の破綻の影響が及ばないように祈りながら、ご家族との面会謝絶や手洗いや換気、ソーシャルディスタンスの徹底ぐらいしか可能なことがありません。現状で高齢者に関連する大きなクラスターが発生していないのは、まさに医療機関や高齢者介護施設での徹底した対策が感染拡大を防いでいるというのが現実ではないかと思います。

私自身も、介護施設に入居している親族の見舞いも満足に行けない状況に陥っていて、電話で声を聞くだけでは心もとなく感じられます。これで何のための福祉事業なのかよくわからなくなってしまうのは、さすがに問題だろうと思うのです。それでも、自分が万が一「新型コロナに感染してしまっていたら」と思うと、どんなに寂しくとも面会を控える以外に方法はありません。

コロナ禍で「介護の常識」は崩された!
制度の再構築には国会での議論が必須では

介護保険や介護周辺の制度については地域でしっかりと受け持てる医療と一体となった「地域包括ケア」に政策的な再編成を行い、介護全体の制度の安定化を図っていかなければならないと思います。

地域包括ケアシステムの姿
出典:『地域包括ケアシステム』(厚生労働省)を基に作成 時点

もっとも、いきなりやってきて破壊的な作用をもたらした新型コロナ騒動によって今までの制度設計の基盤となっていた前提が崩れた以上は、介護業界全体のグランドデザインを国会審議も経ずにすべて立てようというのは難しいのが実情です。であればこそ、差し迫って重要な問題と将来の制度改革とをきちんと切り分け、臨時国会および次の通常国会で弾力的な制度運用ができるように議論を重ねていかなければならないのではないでしょうか。

要はコロナ禍が長期化し「人もお金も足りない」ところで制度だけ複雑化しても、医療・介護連携が地域でなかなか進められないのは問題であるという話なのですが、うまくいかないものですかねえ。