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和歌山県の宇都宮病院では、地域に住む人々の健康とコミュニティ形成を支える施設「なるコミ」を開設している。世代を超えて人々が集い、さまざまな催しを通じて交流を楽しめる場所だ。既存の病院の枠組みを打ち破ったこの画期的な取り組みについて、なるコミ代表理事の宇都宮越子氏にその開設のきっかけや現状の成果、新たな挑戦について話を聞いた。

監修/みんなの介護

衰退するまちをつながりで元気にしたい。
そんな思いで始めた「なるコミ」

「なるコミ」を始めたきっかけは、地域の人々から「最近、近所の人たちが集まる場所がなくなった」という声を聞いたこと。多くの地方と同様、この地域も人口が年々減少しており、それに伴って都市機能もどんどん減ってきていたのです。

そんな流れを決定づけたのが、2つあったスーパーの相次ぐ閉店です。これによって「出かけていく場所」がなくなり、地域全体から活気が失われてしまいました。

開業時から「地域とのつながりを大切にする」という理念を大切にしていた私たちは、現状をどうにか打開したいと考えました。そんな想いで2015年にスタートさせたのがなるコミです。

「病気になったら行く」という一般的な「病院」ではなく、誰もが気軽に集まって健康になれる「居場所」をつくろうと考えたんです。

さまざまな催しを通じて地域の高齢者を元気に

なるコミは「和歌山市鳴神(なるかみ)にあるコミュニティ」を略したもの。施設内には、地域の人々のための「多目的スペース」や「キッズルーム」、専門家の無料相談を受けられる「医療・介護・福祉相談室」などが設けられている。

中でも最も多く人が集まるのは「多目的スペース」だ。健康教室・勉強会・趣味講座・文化教室など、さまざまなイベントが行なわれており、多いときで月間1,600人以上が訪れるという。

施設の1階に多目的スペースやキッズルーム、医療・介護・福祉相談室、2階に職員食堂などがある

人気コンテンツの代表格といえるのが「なるコミ体操」。なるコミ立ち上げ時から行なっているエクササイズだ。初回から40人以上が参加しており、大盛況だという。また、このような催しを通じて、認知機能が低下し始めた高齢者や、リハビリ患者の退院後の様子を知ることができるのもメリットだという。

地元食材を使った「薬膳ランチ」が集客の要

多目的スペースは、「薬膳ランチ」などを提供する外来食堂としても利用されている。和歌山の地産食物を使ったメニューは、とにかく「おいしい」と好評だ。

食事を提供し始めた理由を宇都宮氏に尋ねると、「人を集める秘訣は『おいしいもの』と『たのしいこと』だと思うからです。食事は会話の糸口にもなるので、私たちは薬膳ランチをコミュニケーションツールとしてとらえています」と答えてくれた。

外来食堂の料理長を務める榎本氏のエピソードもユニークだ。榎本氏はもともとスタッフとして宇都宮病院に勤務していたが、以前は寿司職人の経歴をもつ。そのことを知った宇都宮氏が、外来食堂を始めるにあたって榎本氏を料理長に抜擢したのだという。

「彼自身にも『もう一度、料理人として働きたい』という想いがあったようで、うまくマッチングしました。めぐり合わせってあるものなんですね」と宇都宮氏。地産地消の食材と適材適所の人選により、おいしく、楽しい空間が創造されている。

全員が当事者になることで
コミュニティが各々の「居場所」に変わる

なるコミを運営するうえで大切にしているのは、私たち病院のスタッフが手を出し過ぎないことです。地域の人々に「自分たちの居場所だ」と思ってもらうには、ご本人たちが自主的に参加することが何より重要ですので。「多目的スペース」などで行なうイベントの企画は、地域のボランティアさんにほぼお任せ状態です。

また、施設の利用規約についても、きっちりつくり込むのではなく、あえて「適度に」「ゆるく」決めています。そうすることで、参加者に変化がなく同じメンバーに固定される状態を防げたり、取り組みが制限されて新しいことに挑戦しにくくなったりすることなく、「風通しのよい居場所」であり続けられると考えています。

なるコミが地域に根差したコミュニティスペースとなったのは、この方針を立ち上げ当初からずっと掲げているからだと思います。

子ども食堂など幅広い世代が集まれる場に

宇都宮氏が語る通り、なるコミの主役は地域の一人ひとり。さまざまな世代、価値観の人々が、ボランティアとして自主的に企画を立てて実行している。だからこそ、「多目的スペース」で行なわれるイベントは実にバラエティ豊かだ。

フラダンスを踊ったかと思えば、ウクレレを演奏し、韓国文化について学び、麻雀や将棋教室で腕を磨く。引きこもりがちだった高齢者にとって、自ら外に出ようと思うきっかけになることもあるという。社会性が低くなった高齢者に、新たな生きがいをもたらすことに役立っているというわけだ。

「こども食堂」も定期的に開催されており、一人親からは「心の拠り所」として頼りにされているという。なるコミは、高齢者から子どもたちまで、幅広い世代がいきいきと自分らしさを発揮できる場所なのだ。

定期開催の「子ども食堂」では、ボランティア主体で料理が提供される

スタンプラリーでは地域の魅力を再発見

なるコミの立ち上げによって、まちにも変化が訪れ、徐々に活気が甦ってきたという。このことを象徴するのが、地域全体で行なう「スタンプラリー」だ。毎年恒例の「なるコミ祭り」で行なわれている企画の一環で、地域の商店や温泉などにスタンプを設置する。

約200名以上が来場し、出店やイベント、展示で賑わう「なるコミ祭り」の様子

これらをコンプリートすると景品がもらえるというものだ。スタンプ設置業者は年々増加しており、直近の2020年(2021年はコロナ禍により中止)は13ヵ所にまで増えた。スタンプを求めて歩きまわるうち、参加者が地域の魅力に改めて気づくこともあるのだとか。

和歌山市もなるコミの取り組みに注目しており、市長が自ら足を運んだこともある。さらにコミュニティの形成によって活性化したこの地域には、新しい住宅などが増えている。なるコミによる地域おこしは、まちの人口増加などにも効果がありそうだ。

「病院」の枠をさらに超えて
なるコミの機能を拡大していく

なるコミでの取り組みを通じて、地域の人々に宇都宮病院をより身近に感じていただけるようになったと感じています。

健診などを利用してくださる方が増えて、結果的に病院の業績が上がりました。やはり地域の人たちは、「居場所」を求められていたのだと思います。

なるコミをさらに面白いことができる施設にすることで、これからもコミュニティを活性化させていきたいと考えています。

病院の経営に良い循環を生み出す効果も

なるコミによる病院側のメリットは、利用者が増えただけにとどまらない。評判を聞きつけた医師や看護師、スタッフによる応募が増えて、採用募集をかけなくても自然と人材が集まるようになったのだ。

近年、医療業界の人材不足は深刻だが、宇都宮病院はその心配が無用ということだ。 宇都宮氏は次のように語る。

「なるコミを運営することで、地域の人たちに必要とされる病院になれたことが大きいと思います。医師や看護師も、『必要とされて、やりがいを感じられる場所』で働きたいですから。本当になるコミを始めてよかったと思っています。この取り組みを続けていくことで、いずれは『病院を継承したい』と言ってくれる人が現れるとうれしいですね」

和歌山市郊外の病院で始まった、なるコミ。この場所には、医療・福祉業界が抱える課題の解決に向けたヒントがありそうだ。

※2021年3月17日取材時点の情報です

【第56回】地域のつながりが新たな社会形成のヒントに!まちの健康を見守るコミュニティナース
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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