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世界初・10万円台の「パワーアシストスーツ」誕生!大学発ベンチャーが介護の腰痛予防に挑む

力のいる作業や中腰作業を補助・強化する、いわゆる「パワーアシストスーツ」は、高価で手が届きにくいイメージがあるが、東京理科大学発のベンチャー企業である株式会社イノフィスでは電力が不要で軽量、低価格の「マッスルスーツ」を開発して注目されている。開発の経緯や今後の取り組みなどを同社代表取締役社長の古川尚史氏にお聞きした。※マッスルスーツ®、INNOPHYSはINNOPHYS CO.LTD.の登録商標

監修/みんなの介護

新作は最安値の10万円台を実現!累計出荷台数は1万台で世界一に

私たちが開発・販売している「マッスルスーツ」は、2020年3月2日時点で、累計出荷台数1万台を突破しました。リュックサックのように背負う「外骨格型」のパワーアシストスーツの販売台数では、世界一※となります。

空気を入れて膨らませた人工筋肉で腰を支えるマッスルスーツは、重いものを持ち上げたり、中腰で作業をしたりする際の腰の負担を軽減するものです。中腰で作業をされるあらゆる業種、職種の方にご利用いただけます。

現在発売しているのは、2019年11月から発売している最新モデル「マッスルスーツ Every(エブリィ)」で、税別13万6,000円という低価格が特徴です。 前作である2018年モデルの「マッスルスーツ Edge(エッジ)」は49万8,000円でしたから、価格をその3割弱に抑えることに成功いたしました。

また、4.3kgから3.8kgへと軽量化も進んでいます。現在も機能向上と低価格化、軽量化を追求しています。目指すのは、「自転車を買うくらいの感覚」で気軽に使えることです。
※イノフィス調べ

介護事業者からの相談が創業のきっかけとなった

東京理科大学発のベンチャー企業である株式会社イノフィス(INNOPHYS CO.LTD.)が誕生したのは、2013年だ。小林宏教授が開発した腰補助用「マッスルスーツ」の販売会社として創立された。社名は、「生活を支援するイノベーション(新機軸)を起こす」という意味の「Innovation for Physical Support」を由来としている。

古川社長の就任は2017年で、「私も世の中を変えるようなイノベーションを起こしたいとずっと思ってきました。そのひとつが、マッスルスーツなのです」と話す。

ロボット工学が専門の小林教授は、「障がいを持っている方の自立生活を実現したい」という想いから、「動けない人を動けるようにする装置」の開発を2001年から進めてきた。あるときに訪問入浴介護サービス会社からスタッフの作業の負担軽減について相談を受けたことで、マッスルスーツが誕生することになる。

現在では介護関連だけではなく、業種や職種にかかわらず、人の身体を支えている。重いものを持ったりする中腰作業では「安くて軽くて一番力が出る」プロダクトとして、評価が高まっているのだ。

①背負って②ベルトやももパッドを調整、③人工筋肉に空気を入れて、約10秒で装着できる

空気圧式の「人工筋肉」で前傾姿勢をサポートする仕組み

大学のベンチャー企業の製品は、「大学生のアイデアの商品化」が一般的だが、マッスルスーツは介護現場からの要請を受けてつくられた。こうした発想は多くのベンチャーの参考になりそうだ。

古川社長は、「イノフィスでは、ロボットの力で困っている人を支えたいと考えています。マッスルスーツも腰の悩みで困っている人を助けるためにつくっています。もともと20kgを持ち上げられない方が持ち上げられるようになるものではないのですが、中腰での作業はとても楽になります」と説明する。

低価格化・電源不要・軽量化が実現された新作「マッスルスーツ Every」の構造

マッスルスーツは、空気圧式の人工筋肉が前傾した身体を後方に引っ張ることで腰の負担を軽減する仕組み。コンプレッサーを使用するタイプを除いて、電力も使わない。そのために「入浴の介助」など水を使う場所や屋外でも使うことができ、構造が単純なので故障もほとんどない。

このようにエコで使いやすいことも、多くの企業が出資、開発協力に名乗りを上げる要因となっており、ベンチャーの新しいあり方といえる。

イノベーションを起こすために、現場の声を聴く。イノフィスにはPR戦略と低価格化が必要だった

私は日本銀行などを経て、企業再生のコンサルタントを主に手がけておりました。脳梗塞などの治療薬のメーカーであるサンバイオ株式会社で執行役員をしていたときには、ユーザー様に直接会いに行くこともありました。現場を見るのは重要なことで、仕事はとても楽しく充実していましたね。

そうした中で、これからも人の役に立つイノベーションに携わりたいと思っていたところに、小林教授とのご縁をいただきました。 イノフィスの代表取締役社長としての私の仕事は、まずマッスルスーツの売り方を変えることでした。「顧客からの注文を待つ」のではなく、「積極的にPRをして売る」ことと、「低価格化」です。

品質が良くても価格が数十万円もするのでは、なかなか買ってもらえません。そこで、低価格を実現するために素材や工程を見直し、営業や製品管理なども含めて変えていくことにしたのです。

当初は、経営をめぐって小林教授と意見が対立することもありました。ただし、世間で思われているような、「研究者は世の中のことを知らない」ということではありません。研究者と経営者では立場が異なるので、意見がぶつかる場合もあるのです。

対立がありながらも、私たちはマッスルスーツというすばらしい商品を多くの方に手にとってもらうために、調整を続けてきました。

「価格」「重量」「騒音」が、新作では大幅に改善された

マッスルスーツで使われている人工筋肉は、ナイロンメッシュで包んだゴムチューブの両端を金属で固定した「McKibben (マッキベン)型人工筋肉」と呼ばれるもの。自転車のタイヤに空気を入れるようなポンプで空気を入れて膨らませて使用する。

マッキンベン型人工筋肉は、ポンプで空気を注入。数時間はそのまま使用が可能だ
ゴムチューブをナイロンメッシュで包んだシンプルなつくり。空気圧で体をしっかりと支える

エブリィは、本体のフレームの素材をアルミから樹脂に変え、部品の数も汎用品にしたことから低価格化と軽量化に成功した。しかし、機能そのものは変わっていないという。

「最初からいいものはつくれません。初期モデルから試行錯誤の繰り返しでした。コンプレッサーは音がうるさくて電源が要るので外し、重かったのを軽量化し、値段が高いから安くするといった工夫を重ねました」と古川社長。

話題のCMにはパワーアシストスーツへの抵抗感をなくす狙いが

エブリィの知名度向上には、タレントの浜田雅功さんを起用したコマーシャルも奏功したようだ。

エブリィを装着した浜田さんが、高齢者の介助をし、子どもを抱き上げ、大量のバナナが入った箱をゴリラに差し出す。その姿は、ユーモラスにマッスルスーツのよさを表現している。

コメディアンの浜田雅功さんが「マッスルスーツ Every」を着用し、怪獣と戦うコマーシャルの様子

古川社長によると、このコマーシャルには、もうひとつ狙いがあったという。

「力仕事が中心の業界では、どうしても『機械に頼ってはダメ、情けない』という認識があるようです。そこで、『この人が使っているならいいかな』と思っていただけるようなコマーシャルを目指しました。おかげさまで好評です」

自治体や企業とコラボした実証実験で、現場の声を拾っていく

エブリィは2020年2月に国際規格ISO 13482に基づく認証を取得しました。本認証は、パーソナルケアロボット(生活支援ロボット)の安全性に関する国際規格です。人工筋肉を使用した外骨格型アシストスーツとしては、世界ではじめての取得となりました。

また、4月には東京都の先端事業普及モデル創出事業である「KING SALMON PROJECT」の採択を受けており、都の社会課題の解決に資する実証実験も行います。

これまでも神奈川県など行政との実証実験、青森県内6ヵ所の農業高校と農大学校へのマッスルスーツの貸与など、行政や教育機関とのコラボレーションの機会があり、これがとても重要なことだと考えています。

マッスルスーツについては海外からの注目度も高く、お問い合わせも多くいただいておりました。現在は残念ながら新型コロナウイルス肺炎の世界的な流行によって海外展開は停滞しておりますが、これからは海外の市場開拓も進めてまいります。

マッスルスーツは、「障がいを持っている方の自立生活を実現したい」という想いからスタートしており、社会の課題に応じて人に寄り添った製品の開発、提供に努めたいと考えております。

障がい者の介護はまだまだ介護者の負担が大きい

「自分がワクワクしないと、仕事はできません」そう話す古川社長は、前職でも自ら現場に赴き、ユーザーと話す時間を持ってきた。現場に出るのが好きで、ビジネスチャンスも多かったという。

「高齢者福祉にも課題はありますが、障がい者の介護をめぐってはそれ以上に課題が山積しています。例えば高齢者の介護には、ある程度の社会の仕組みができていても、障がい者には『訪問介護』もありません。ほとんどの場合は、ご家族が介護をされているのが現実なのです」と説明する。

マッスルスーツを着用して介護をすることで、介助で腰にかかる負荷が軽減される

家族による介護には限界があり、特に高齢となった親が成人した子どもを介護する場合の心身の負担は以前から指摘されてきた。

古川社長は、「マッスルスーツは、例えば自分よりも身体の大きいお子さんの入浴介助などでも活用できます。親御さんから『これで介護が楽になります』と言われることもあるんですよ」と笑顔を見せる。

成功に満足しない。世界の新しい課題を解決していける企業へ

古川社長率いるイノフィスの魅力のひとつは、「満足しないこと」だろう。10万円台の価格化に成功しても、「自転車くらい気軽に」買ってもらうため、さらなる低価格化を模索している。

また、女性や高齢者が使いやすいモデルも開発中で、さらにユーザーの範囲が広がりそうだ。

「ベンチャーはスピードが命です。現場の声を聞きながらの試行錯誤の連続です。また、マッスルスーツのほかにリハビリ用のロボットも改良を続けています。このロボットの現モデルには、『100歳の女性が再び歩けるようになった』例があります。ただ介添えが必要なので、高齢者が一人でも使えるようにしていきたいと思っています。課題は多いですが、夢とやりがいがあるので、楽しいですね」

古川社長と小林教授、そしてイノフィスの夢の実現はまだまだ続く。

※2020年2月5日取材時点の情報です

撮影:丸山剛史

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「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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