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北海道天塩町は、日本最北端の稚内市から東へ約70kmの日本海に面した酪農と漁業の街。全国でも珍しい「相乗り(ライドシェア)」に取り組んでいる。ピーク時は1万人を超えた人口の流出が止まらず、2019年10月末には初めて3,000人を割った。暮らしに欠かせない交通手段の確保が挙げられる一方で、公的資金による整備や拡充は望めない。この状況を打開しようと取り組んだのが、自家用車の空席を「未利用、遊休の資産」として活用する相乗りだった。これが新たな地域モビリティとなるのか、現状と今後の可能性を佐々木裕之町長に語ってもらった。

監修/みんなの介護

天塩町は「相乗り」の先駆者に!稚内市までの移動は片道2時間も短縮された

天塩町では、「相乗り(ライドシェア)」というシステムを全国に先駆けて取り組みを始めています。

最初は、すべてにおいて手探りといった状態でした。でも、受益者である町民からは高い評価をもらっていますし、同様の問題を抱える自治体やマスコミなどから、「先駆者」として天塩町が注目を集めることになったのは喜ばしいことでもあります。

当然、ボランティアのドライバーに頼りっぱなしではいけません。役場も利用者も一緒になって取り組まないと、相乗りは続かないと思うのです。

また、現在の相乗りは天塩-稚内間のみの設定ですが、もっと近くの鉄道の駅やバス路線までといった既存の公共交通との連動や接続を考えたコースの検討も必要だと思っています。

町民の新しい移動手段…「相乗り」の仕組みとは

「相乗り」の様子。自家用車の空席を利用し、移動に困難を抱える高齢者を稚内市まで送迎する

相乗りの仕組みは、以下のようになっている。

ドライバーが出発日時や募集人数をインターネットサイトで告知し、同乗者を募る。
ドライバーと同乗者がマッチングしたら、天塩町と稚内市を住民の車が相乗りで移動する。
同乗者は交通費としてガソリン代(実費)をドライバーへ支払う(同乗者が複数の場合は折半)する。
車で移動する際の空いている席をシェアすることで、運転手にとってはガソリン代の節約に、同乗者にとってはこれまで移動できなかった場所へ行けるようになるというわけだ。

インターネットサイトの相乗りプラットフォーム「notteco(ノッテコ)」を利用して、車の空席を「見える化」して、町内のドライバーが稚内へのドライブ予定をアップ。相乗りしたい人が日時など希望に合うものを選択して同乗を申し込む。

「初期投資が不要」で「維持費も安い」、魅力的な取り組みだった

天塩町から総合病院のある稚内市まで、乗用車なら約1時間。これをバスと鉄道で乗り継いで行くと約3時間かかる。運賃は往復で5,210円だ。しかも、ダイヤ上は日帰りできても稚内に滞在できる時間は54分間しかない。

この状態を解消したいと始まったのが相乗りだった。

天塩町からは稚内市まで電車で片道3時間がかかる

相乗りだと、天塩-稚内間を往復で1,000~1,500円程度(車両により異なる)を現金で支払う。実費分しか支払わないので、道路運送法上の「白タク行為」にも問われない。

この取り組みは産業競争力強化法に基づいた、事業者が事業に対する適法性の有無を照会できる「グレーゾーン解消制度」を活用し、問題がない旨の回答を得ている。

財政が苦しい役場にとっては、初期投資が不要で維持費も安いというのは最大の利点。町民の高齢化、高齢者の運転免許証の自主返納などで自動車運転人口は減少していくが、自家用車を持たない町民の移動は手軽になるはずだ。

「役場にとって相乗りの導入は魅力的だった」と町長は話す。

インターネットを使えない高齢者への普及に苦労も…少しずつ懸念点を解消していく

旧国鉄羽幌線廃止で天塩駅がなくなってから、天塩町の公共交通はバラバラになっていったのです。住民も減っていくなかで、役場としては福祉輸送の検討などもあったのですが、これといって具体的な解決策は出てきませんでした。

そんな手詰まり感が漂う状況下にもたらされた「相乗り」の発想はすばらしかった。すぐにでも実用化できるnottecoというシステムがあったことも画期的でした。

こればかりではないのですが、背景には地域医療の必要性がありました。

天塩町内に町立病院があっても、一部の住民は専門病院に通わなくてはなりません。彼らの命を守るための、お金(費用)、気持ち(町民へ寄り添う思い)、政策が絶妙なバランスで実現したのが相乗りでした。町の評価委員会などを経て、現時点ではうまくいっていると思います。

「情報弱者」の高齢者へはアナログな手法での普及を試みた

相乗りを町民に広く利用してもらうためにはどうするか。

まずは住民説明会を開き、利用マニュアルの作成や頒布、専用サイト、窓口の開設などを進めた。最初の説明会では質疑応答を交えながら、丁寧に仕組みや利用方法の説明を繰り返した。

また、老人クラブや、町内会、要望があれば個人宅にも出向いてnottecoの利用方法を説明するなど周知に努めたが、実証実験開始から1ヵ月間の実績は9件にとどまった。

町内の交通弱者のほとんどがインターネットを使えない「情報弱者」で、その大半が高齢者だった。

相乗りを使ってもらうために、「まず役場にお電話ください」と書いたチラシを頒布した。現在も同乗の申し込みのほとんどは、役場に設けられた専用窓口に電話をするスタイルだ。天塩町のライドシェアは、デジタルの時代にアナログな手法で普及していった。

「保険加入」と「講習会の実施」で安全性にも考慮

町民のなかには事故を心配して相乗りの登録を迷う人もいる。

特にドライバーの参加が足りないので、役場は保険に加入することでドライバーが増えればと、移動支援サービス専用自動車保険と、さらに別の傷害保険にも加入した。利用者には安全運転やAEDの講習会も実施する。

相乗りの登録会や講習会などを積極的に開催して利用を促した

「相乗りを使うと悪い気がして」と、自家用車を持つ家族がいる高齢の利用者は、家族ではなく他人を頼ることに世間体を気にして利用を控えることもある。

これに対しては、地域での助け合い文化の醸成や、人への思いやりを学ぶ場を増やすことを検討している。

また、相乗りが札幌や関東の大学生らの調査や研究の対象になり、それに地域全体で協力したことが、町外の意見や人を呼び込み、町の活性化にもつながったという。

シェアリング・エコノミーで、高齢者が最期まで暮らせるまちを目指す

相乗りをきっかけに町内でのシェアリング・エコノミーの機運が高まってきたんじゃないかと思います。

でも、遊休資産の活用はインフラばかりじゃなく、人を活かすことが重要です。たとえば、シルバー人材センターの仕事や社会福祉協議会との連携を見直すことで、新たに活用できる人やお金が生まれるかもしれない。

町民が普段は使わないモノ、場所、技能なども、インターネットや役場を介して必要とする人に情報を提供することで、将来的には「ヒト・モノ・カネ」の循環を創っていきたいと考えています。

地域内外での流動性を高めて、天塩町で町民が人生の最期まで暮らしていける町づくりにつなげていきたいですね。

シェアリングシティの新たな施策は「住宅の活用」

相乗りは天塩町が「シェアリングシティ」になった看板事業。従来の発想だと公的資金で専用のバスなどを走らせていたところに、自家用車の空席を「未利用資産の利活用(シェアリング・エコノミー)」と考えたのが新鮮に映った。

現在、佐々木町長は、シェアリング・エコノミーの観点に立った新たな構想も考えている。

例えば、町内にある既存の特養老人ホームとデイサービスのそばにある公営住宅をバリアフリーに改装して、渡り廊下などで接続した高齢者の見守り住宅としての再活用がひとつ。

ほかにも、町の中心部にある施設や空き住宅を改装し、豪雪期の数ヵ月だけ雪深い郡部でひとり暮らしの高齢者に住んでもらうことで、命の見守りと除雪費を圧縮することなどだ。

冬には、雪で自宅から移動ができなくなる高齢者も多い

クラウドソーシング活用で働く機会の創出も

さらには、天塩町を離れなくても仕事ができるように、天塩町は2016年からインターネットを使って企業の仕事を個人に仲介しているクラウドソーシング「ランサーズ」との業務提携を行っている。

地域の主婦や若者を働き手とした「新しい働き方」を推進するため、ITを活用した仕事の機会創出と、スキル向上プログラムを実施している。

ホームページ制作や英文翻訳、文章の作成やデザインなどの仕事で月10万円を稼ぐ主婦もいて、継続した仕事の受注体制を地域に定着させている。

ランサーズ活用のための講習会の様子

このような発想の転換で、天塩町は遊休資産を活用したシェアリングエコノミーに関する取り組みを続けている。移動が不便とされる地域での、新しい暮らし方を見つけるヒントになりそうだ。

※2019年12月9日取材時点の情報です

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「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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