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東大教授 小林武彦氏 「日本人は“絶滅”に向かっている」

最終更新日時 2022/09/12

生物学で考えると、人間は一人では生きていけない

社会性のある生き物は一匹になると死ぬ

―― 人間は社会的な生き物だというお話がありましたが。人間以外で、一匹になると弱い動物はどんな動物でしょうか。

小林 群れで行動する生き物は概してそうです。一匹になってしまうとダメですよね。

また、昆虫も同様で、アリにも社会性があって役割分担がある。一匹で飼ったらすぐに弱って死んでしまいます。でも集団で飼ったら結構長生きです。群れで生きる魚もそうです。要するに集団で一つの個をつくっているようなものです。

―― 人間もグループ行動を取る生き物に近い。

小林 その権化のようなものです。家族を中心としたコミュニティの中で進化してきました。でも社会に生かされているというのが、都市部を中心に今の人たちはわからなくなってきています。

昔は、家族や地域のコミュニティに属していないと必要な情報やものを得ることができなかった。そういうことが今はないじゃないですか。

今の社会にはコンビニもあって、食べ物をどこでも仕入れることができる。スマホを叩けば情報もすぐ出てきます。それで済むのであれば、無理して他人とコミュニケーションを取らなくなくても生きていける。一人で生きることができると思ってしまいます。でもそれは、すごく危険です。

若いときから一人でファーストフードばかり食べてきた人は、60歳、70歳になった自分をイメージできますか。なかなか難しいんじゃないかと思います。

若いときはそれでよくても、健康に対して自信がなくなってきたときにどうするか。人との関わり合いが少ないと生きる元気が無くなってくる可能性がありますよね。

生物学的に考えても、一人でいることを良しとする風潮は危険だと思っています。

少子化・婚姻率の低下は絶滅への道?

―― 短期的には楽でも、長い目で見ると大きなマイナスにつながる。

小林 人間は社会の中でしか生きていけない。それなのに、今は一人で生きることを選ぶ人が増えています。実際に婚姻率もどんどん下がっていっているし、少子化も進むでしょう。明るい要素はあまりない。高齢社会がますます進み、人口は減少していく。このままでは日本人は絶滅に向かっていると考えても大袈裟ではないかもしれません。

いろんな生物が絶滅しながら今の私たちの存在があります。恐竜は6千5百万年前に絶滅しました。恐竜たちは絶滅する気はなかったんです。

でも、隕石が落っこちてきてしまったせいで絶滅してしまった。同時に、地球上にいる70%の種が消えました。

その中で、哺乳類は運よく消えなかった。恐竜が絶滅し、哺乳類のご先祖様が生き残ってくれたおかげで、われわれは進化できたんです。だから絶滅そのものはしょうがないことです。そのおかげで私たちも存在するわけですから。

そうは言っても、絶滅するということは、大変なことです。どんどん人が減っていく過程でいろんなインフラが間に合わなくなる。特に高齢者の比率が高い一次産業つまり食料の供給が足りなくなる。最後は物の奪い合いで戦争になるかもしれません。

それって最悪です。それに、人間が絶滅する環境は、他の生き物もかなりえらいことになります。絶滅する種に依存して生きている生き物も絶滅します。絶滅のドミノ倒しが起こるのです。

―― どうしたら絶滅を止めることができるんでしょうか。

小林 情報化社会においては得した感がないとダメです。結婚したり子供を持ったりすることにメリットがなければダメですよね。いくつかの先進国がやってるのは、とにかく養育費・教育費はただにして国が補助金を気前よく出す。

例えば2人目のお子さんには月5万円、3人目以降には一人につき月10万円を18歳になるまで差し上げたらどうでしょう。3人以上産んだらとりあえず働かなくていい感じになります。もちろん産む/産まないは自由です。それぞれの価値観を尊重しなければいけません。

健康寿命を延ばすための研究に注力

―― 先生は今どんな研究に力を入れているのでしょうか?

小林 ピンピンコロリの実現を一つのモチベーションとして、健康寿命を延ばす研究をしています。

写真:本人提供

具体的にはゲノムの研究です。歳をとって細胞が分裂していけばいくほど、DNAに悪影響が出てきます。それが細胞レベルの老化を引き起こして、がんも起こるし、アルツハイマーも起こる。

DNAが壊れにくいようにしていくと、細胞の機能が死ぬ直前までずっと低下しないのでは、という夢を抱きながら研究を続けています。介護に関しても、それが必要になる期間は、短ければ短いほどいいじゃないですか。

―― 他に明るい兆しのある研究があれば教えてください。

小林 いくつかあります、私が直接取り組んでいる研究ではないですが、老化細胞除去技術という研究です。

老化細胞が増えていくことによって、フレイルという虚弱(ヨボヨボ)状態になっていく。筋肉にしても内臓にしても、老化細胞がたまって組織の機能が低下していく。

赤ちゃんのときから常に細胞は古いものと新しいものとが入れ替わっています。それが年をとると、なぜかスムーズに入れ替わらなくなる。残留老化細胞が諸悪の根源なわけです。女性などは、美容において耳にすることもあると思うのですが、ターンオーバーが起こらなくなります。

若いときの老化した細胞は、リンパ球などによって食べられたり、自分自身が老化したりすることで壊れていきます。それが年を取ると、綺麗に食われなくなって残っていく。死ぬに死ねなくて「俺を早く食ってくれ」と言わんばかりに老化細胞が炎症性サイトカインという「白血球を呼びつけ、暴走させる物質」をばらまき、全身の健康な組織まで傷つけてしまうんです。

怪我をしたときや感染症に罹ったときにも同じことが起こります。老化細胞が白血球やリンパ球を集めて「周りを消毒してくれ」というような指令を出し続ける。それが腎臓や肝臓、筋肉などのいろいろな場所で起こるわけです。そして腎臓病になったり、肝臓の機能を低下させたり、筋肉を弱らせたりする。

炎症の程度は血液検査をすればわかります。100歳を超えた高齢者は炎症反応が高いです。これがフレイルの一因となってます。

老化細胞にうまくぶっ壊れてもらう

―― それを防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか?

小林 老化細胞にうまくぶっ壊れてもらう必要があります。それを薬などでうまく促進するのが一つの老化症状を緩和する方法です。元々壊れるようにできているものを壊すだけのことです。何かを新たにつくることに比べると、まだ実現のハードルが低い。

そのことを可能にする科学物質がいくつか見つかっています。

マウスによる実験では、腎臓や肝臓の機能が向上して元気になります。筋力も上がる。同じことが、人間でもほぼできるだろうと考えられています。


撮影:花井智子

小林武彦氏の著書『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)は好評発売中!

生物学の視点から見ると、すべての生き物、つまり人間が死ぬことにも「重要な意味」がある。その意味とはいったい何なのか。東京大学定量生命科学研究所教授の著者が、他の生物との比較も交えて解き明かす。読者の死生観を揺さぶる、現代人のための生物学入門!

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07