ピョートル・フェリクス・グジバチ「身内に厳しい日本人。日本社会の慣習や文化にもっと誇りを」
日本の人口は、ほぼ同じ面積を持つポーランドの3倍
みんなの介護 新型コロナの感染拡大に伴って、介護現場で働くエッセンシャルワーカーの奮闘ぶりが紹介されることもありました。ピョートルさんは日本の少子高齢化問題に対してどのような意見をお持ちでしょうか。
ピョートル 私は、日本の少子高齢化は必ずしも悪いことではない、と考えています。
まず少子高齢化は、日本に限った問題ではありません。およそどんな国でも、経済が大きく発展し社会が成熟していけば、国民の人口構成は必ず少子高齢化に向かうはずなのです。そういった社会では女性の高学歴化と社会進出が進み、多くの女性がそれまで子育てに充てていた時間を自己実現のために使うようになるからです。つまり、少子高齢化は日本だけが抱えている問題というより、人類が必然的に行き着く先だといえます。
また、地球規模で考えれば、少子高齢化は地球にとって望むべきことでもあります。世界人口はすでに70億人を突破し、さらに年々増え続けています。2020年代には80億人、2040年代には90億人に達するとの予測もあります。
みんなの介護 日本はすでに人口減少の局面に入っていますが、世界人口で見れば増加傾向なのですね。
ピョートル そうなんです。そして増え続ける世界人口が、環境問題や食糧問題など多くの問題を悪化させています。だとすれば、日本が高齢化してこれから人口が減っていくことは、地球全体から見れば、むしろ歓迎すべき現象だということもできます。
私の母国はポーランドです。ポーランドの面積は約31.3万平方キロメートル、人口は約3,900万人。一方、面積がほとんど変わらない日本(約37.8万平方キロメートル)の人口は約1億2,500万人と日本の人口はポーランドの3倍。ポーランドよりもはるかに山地が多い地形にもかかわらず、日本ではごく少ない平地に人々が密集して暮らしています。この狭い国土にこれだけの人口が果たして必要なのか、客観的な視点で改めて考えてみたほうがいいかもしれません。
国の豊かさや国民の幸福度は総人口・GDPでは測れない
みんなの介護 ピョートルさんのお考えでは、日本もポーランドと同じくらいまで人口を減らしてもいい、ということでしょうか。
ピョートル 「具体的にどれくらいまで減らせばいい」ということではなく、人口が減少すること自体はそれほど恐れる必要がないと考えています。
日本の人口が減ると、誰が困るのか。最も困るのは、国民にさまざまな物を売っている大企業でしょう。不動産や日用品、衣類、食料品など、購入する消費者が減れば、それだけ売上げが減ってしまいます。 加えて、社会保険制度の被保険者を支える若年層の負担がますます厳しくなるでしょう。
また、国を測る尺度としてGDPがありますが、日本はこの尺度にも縛られすぎていると思います。日本は現在、世界のGDPランキングでアメリカ、中国に次いで3位ですが、2010年に日本が中国に抜かれて2位から3位に落ちたとき、多くの落胆の声が聞かれました。しかし、私に言わせれば、「GDPは必ずしも国民の幸福度を測る物差しではない」はずです。
人口減少社会における幸福を追求する
ピョートル 人口が減少すれば、それに連動してGDPも縮小するでしょうが、いつまでもGDPの数字にこだわるのではなく、人口が減少することのメリットも考えてみるべきです。例えば、人口が減れば必要な住居もそれだけ減りますから、その分だけ街に緑を増やすことも可能でしょう。住居における一人ひとりの専有面積も大きくなりますから、それだけゆったり暮らせるようになります。
例えば北欧のデンマークの人口はわずか580万人ほどですが、男女の賃金格差も少なく、「ヒュッゲ」という独特の生活スタイルが賞賛されていて、世界一幸福な国とも言われています。
また、同じく北欧のフィンランドも、人口約530万人ながらサンタクロース、ノキア、サウナ、ムーミンのふるさとであり、世界の幸福度ランキング上位の常連国。どちらの国も生活水準は日本より高く、それぞれ世界に対して独自の影響力を持っています。日本も北欧に負けない独自の文化があるのですから、経済規模で他国と競い合うのではなく、日本ならではの幸福を追求する方向に向かってもいいのではないでしょうか。
ラリー・ペイジ「自分が心地良く感じる枠を飛び出してワクワクしに行こうぜ」
みんなの介護 これまで日本では「働き方改革」など、ある種のパラダイムシフトの動きがありました。今回のパンデミックでご自身の会社の経営方針や生活スタイルを変えてさらなる成長を遂げているピョートルさんは、日本社会の変化についてどのように見ていますか。
ピョートル 2020年に全世界で発生した新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの日常生活を一変させてしまいました。見方によっては、この社会の大きな変化そのものがパラダイムシフト、すなわち「社会の枠組の劇的な変化」に見えるかもしれません。
しかし、私がこのコロナ禍の時期にあえて『パラダイムシフト』という本を刊行したのは、そんな表面上の社会の変化について書きたかったからではありません。この社会を構成するすべての人が自己実現できるよう、社会の激変期というまさにこのタイミングで、新たな働き方、生き方のパラダイムへとスイッチしてほしかったからです。日本ではこれまで「働き方改革」という言葉にとらわれて、本質的な変化を生み出してこなかったと思います。
パラダイムシフトで重要なのは「会社都合」ではなく、あくまで「自己都合」で実行することです。「会社から求められるもの」と「自分が欲しいもの」を一致させるにはどうすればよいのか。まずそこから考えてみるのがいいかもしれません。
みんなの介護 これまでの生活を見直して、自分主体で物事を考え決断していくことは重要ですね。
ピョートル もう一つ重要なことは、自分の力で変えられることにのみ力を集中することです。新たなパラダイムで自分に何ができるのかを考えましょう。そうすれば必ず道は開けます。
私が以前勤めていたグーグルの共同創業者でありCEOでもあったラリー・ペイジの言葉で、今も私の心に残っているフレーズがあります。それは、“Let's be uncomfortably excited”、つまり、「どうせやるなら、自分が心地良く感じる枠を飛び出してワクワクしに行こうぜ」ということですね。
人が何か新しいことを始めようとするとき、決してcomfortable(心地良い)な状況にはなりません。新しい挑戦がうまくいくかどうか不安だし、やり慣れないことをするのですから、勝手が違って何となく気持ちが悪いことも往々にしてあります。住み慣れた安全な領域から未知なる危険な領域へと一歩足を踏み出すのですから、心地良くなくて当然です。でも、その状況をあえて「楽しんでしまおう」と前向きにとらえることがとても重要です。その心地悪さを恐れていては、いつまで経っても何も始まりません。
パラダイムシフトに絶好のタイミングは、今も続いています。uncomfortableを楽しみながら、あなたにしかできないことに向かって、新たな一歩を踏み出しましょう。
ピョートル氏の小説 『パラダイムシフト-新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)は好評発売中!
ベストセラー『ニューエリート』の著者であり、未来創造企業プロノイア・グループ(ギリシア語で「先読みする」「先見」を意味する)を率いるピョートル氏が、「これからの世の中」を歴史、経済、産業といった幅広い視点から考察した1冊です。日々、目まぐるしく動く世界に対して、どう向き合い、チャンスを掴むのかについて語りました。
連載コンテンツ
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