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若宮正子「AIの時代「周りと一緒」ではなく「個の確立」が大切です」

最終更新日時 2021/07/19

若宮正子「AIの時代「周りと一緒」ではなく「個の確立」が大切です」

若宮正子氏は、Microsoft Excelでつくるエクセルアートの考案や81歳でのアプリ開発などに取り組み、高い実績を残している。きっかけは、定年退職後、母親の介護をしながら外の世界と交流するためにパソコンを購入し、シニアの生きがいづくりを目的とする「メロウ倶楽部」に参加したことだ。そのデジタルに関する功績は、Apple CEOのティム・クックからも高く評価された。2018年の国際連合 社会開発委員会では基調講演を行い、内閣府主催の「人生100年時代構想会議」に82歳の最年長メンバーとして参加するなどの躍進を続けている。80代を超えて国の制度にかかわり、社会貢献事業に従事している若宮氏に、高齢者にとってのデジタル活用の可能性について伺った。

文責/みんなの介護

たとえモノにならなくてもやってみることに価値がある

みんなの介護 心豊かな人生を送る秘訣に、やりたいこと(趣味の芽)を見つけることの大切さをあげていらっしゃいます。「時間がない」「難しそう」「身につかなかったら無駄ではないか」などの考えを持つ人に対しては、どのようなアドバイスをされますか?

若宮 「難しそう」というのは私も感じます。また、「身につかなかったら無駄ではないか」という声もよく聞きます。でも、自分が納得できるまでやってみて、完成しないときがあったとしても、かじってみたらいいと思います。例えば私は81歳からプログラミングを始めましたが、幸いにして皆さんに助けていただいて、ちゃんとアプリを公開することができました。でも、もし結果的に公開ができなかったとしても、それは無駄ではなかったと思うのです。プログラミングをするというのはどういうことかを知るだけでも大きなプラスになったので、千に一つも無駄はないと思います。

また、時間がないというのは、あんまり興味のないことをしないための言い訳です。自分がやりたいことは、皆さんきっと時間がなくてもやるはずです。私は今も毎日少しずつでもプログラミングの勉強を続けています。それは、24時間の中の15分でもいいのです。毎日15分やれば、365日で五千分くらいは取り組めることになります。

みんなの介護 取り組んだのが途中までであっても、やってみた経験はその後に生きてくるということですね。

若宮 まずはやってみるということが大切ですね。やってみないうちはそれがどんなものなのかわからないし、くよくよしても始まらないと思うのです。私も「若宮さんは81歳になってプログラミング始めるのに、よく勇気を持って決断できましたね」と言われます。しかし、プログラミングをやっても誰かが傷ついたりするわけではありません。例えば、バンジージャンプやスキューバダイビングとかですと、「一度、心電図の検査をしてからの方がいいんじゃないか」という意見も出てくると思います。でもプログラミングは、パソコンがあれば開発ソフトも無料でダウンロードできて、お金もいりません。まずは、やってみればいいと思います。

若いときから視野を広げることが、定年後の人生を豊かにする秘訣

みんなの介護 定年退職後や子育てが終わったあと、どのように生きたらいいかわからなくなる人がいます。このような状況を防ぐためには、どんな考え方が必要だと思われますか?

若宮 現役のときから自分の真ん前にあるものだけではなくて、全方位的に目を向けていればいいと思います。これから世の中がどんどん変わります。ですので、現役のときからもう少し視野を広くして、いろいろなものを見ていれば、定年になって世界が一変するわけではないと思うのです。例えば、不慮の災害にあって大怪我をしたとか、思いもかけない病気になったという人は、確かに想定していなかったのかもしれません。しかし、定年というのは不慮の災難ではありませんからね…。その頃に向けて前向きな生活設計をして、老後を楽しまれるのがいいのではないかと思います。

みんなの介護 なるほど。例えば若いときから視野を広げるにはどんな方法がありますか?

若宮 若いときからいろいろなことに興味を持って、自分の世界を持つことが大事だと思うのです。「皆さまご一緒に」の国ですので、どうしても周りに左右されやすいのですが、これからは個人の時代ですからね。個を確立して、自分の世界をしっかり持つことです。今の定年制がずっと続くかどうかすらも不確定な状況です。いわゆる一斉採用で、年功序列で定年という明治時代からやっているようなパターンがこれからも続くかわかりません。特技があれば年齢にかかわらず、採用してもらえる時代です。

学校でも優秀なお子さんたちには、日本の大学ではなく、海外の大学に行くことを先生から勧めたりもします。。「子どもが変わったことをする」と言う人もいますが、子どもだけではなく、大人も今までの枠組みからの考え方をもっと見直した方がいいのではないかと思います。

みんなの介護 そのような社会になると、年齢を経てから新しく何かを始めたり、仕事をしたりすることがもっとしやすくなると思われますか?

若宮 そうですね。選択肢は広がっていくでしょう。特に、今中年の方は、狭い選択肢の中で人生の選択をせざるを得ない時代を生きてきたと思います。その狭い時代を将来像に考えている人もいますが、これからどんどん世の中が変わると思うのです。人工知能が主要な時代になっていくと、今の雇用形態もいつまでも続くかどうかもわからないですし。

ITリテラシーの低さが命にかかわってくることもある

ワクチン予約の手続きで、日本のITリテラシーの遅れが命にかかわることが判明

みんなの介護 『老いてこそデジタルを』で、エストニア共和国でのデジタルの普及が進んでいることを書かれていましたが、日本でもデジタルがあるのが当たり前の生活になりつつあると思われますか?

若宮 そうですね。逆に、なりつつあらなきゃ困るのです。今回の新型コロナワクチンのことで、インターネットで予約ができない方がおられて問題になりました。しかし、ほかの国では、あんまりそういうことは聞きません。エストニアは決して世界一ではありませんし、デンマークなどのもっとデジタル化が進んでいる国もあります。だから日本もデジタル庁というのをつくって、デジタル改革を進めています。私も今それに関連した仕事をしていますが、日本だけが飛び抜けて遅れているという気がするのです。ですので、今度の「誰一人取り残さないデジタル改革」というのも当然のことだと思います。どうして日本だけが、ということはもう少し考えなければいけない。

昨年の10月のデジタル改革関連法案についての検討がスタートしたとき、私はデジタル改革関連法案の検討プロジェクトのワーキングチームの構成員になり、その後も内閣官房や総務省関係のお仕事をさせていただいています。どうしてワクチンの予約が電話じゃいけないのかというと、全部電話で予約を受け付けたとしたらあれだけのワクチンの予約をこなせないからです。固定電話の交換機だって目一杯だったそうです。ワクチンを打つのがものすごく遅れてしまって、そのために新型コロナになって重症になる方が出るということにもなりかねません。あまりにもITリテラシーが遅れてしまうと、命にもかかわるのではないかと思います。

みんなの介護 デジタルを使える人を増やすためには、どんなことが必要だと思われますか?

若宮 海外では家族がサポートして使えるようになっている国が多いので、日本でもそれができるのが理想的です。しかし独居の方などは、地域の方がサポートしてくれることも力になります。実際、デジタルが苦手と言っている高齢者も、誰かが少し手を貸してあげればできることも多いです。今、私もデジタル活用支援員制度のあり方についての検討に取り組んでいます。これは、それぞれの市町村に「お助けマン」みたいな人にいていただいて、高齢の方がはじめてデジタル製品を買って使い方がわからないときなどに、お手伝いをするというシステムです。

一人ひとりの高齢者のニーズに合ったデジタル機器がある

みんなの介護 若宮さん自身、スマートフォンが苦手な方にどのようなアドバイスをされますか?

若宮 実は私もスマートフォンが苦手です。あれほど高齢者にとって使いにくいものはないわけです。スマートフォンというのは、お出かけするときにコンピューターの機能の中から必要なものを取り出して、小さな箱の中に詰め込んで持ち歩くというものです。しかし、後期高齢者は、必要なときにしかお出かけしない人が多いです。だからどうして後期高齢者があんな難しいものを使わなきゃいけないのかと言われたら、まさにその通りだと思うのです。ただ、これだけ普及して標準になると、使わないわけにもいかなくなってきます。

タブレットだと、オンライン通話はできても普通の電話はかけられないものが多いでしょう。高齢者の場合は逆にあんまり外からかかってこない方がいいのかもしれませんね(笑)。そう考えると、タブレットも選択肢としてはありだと思います。

また、実はAIスピーカーもおすすめです。パソコンやスマートフォン、タブレットもそうですが、ある程度操作手順を覚えないといけません。買った日から全部使いこなせる人は若い人でもほとんどいません。友達に聞くなどしていろいろ教わっているわけです。ただAIスピーカーは、例えば「冷房つけて」とか、「エアコンをオンにして」と普通の言葉で話しても、ある程度は対応できます。方言の場合も、事前登録しておくことで「テレビさつけてけろ」と言ったら、テレビがつくようになります。ですから学習の壁が低いと思うのです。また、インターネット環境があれば、ランニングコストもいらないので、一つの選択肢としてAIスピーカーということも考えていいのではないかと思っているのです。寝たきりでも使えることも利点です。誰かを呼んで「冷房をもっと寒くして」と言わないでも済むので、自立支援になりますよね。

ネット上の老人クラブは、高齢者の精神的な居場所

みんなの介護 では、介護をする側の人にとってはデジタルが使えることでどんなメリットがありますか?

若宮 新型コロナウイルス感染症が流行した影響で、デジタル活用の便利さが一般に広く認識されたと思うのです。いまだに病院とか介護施設などでは面会ができないところが多いですよね。ですが、スマートフォンを持っていると、「おばあちゃん今日どう?」と言って、ビデオチャットで話せます。これは随分孤独の解消にもなっているわけですし、人とのやり取りがあるということは、脳の活性化にもなるのだと思います。 私は20年以上前から「メロウ倶楽部」というところの世話役をしております。これは、早く言えば「高齢者の精神的居場所」です。新型コロナ対策の外出自粛などで、少し会員さんが増えて、若い方々も入ってきました。どうやら若い人たちも、そういう精神的な居場所がないらしいのです。今のSNSは、本音で深く語り合うのではなく、格闘技のように殴り合いをする場になってしまっている傾向があります。

例えば、メロウ倶楽部には「生と老の部屋」というものがあります。そこで高齢の人独特の生きる悩みについていろいろ話し合っています。もちろん「ドローンの部屋」や、「プログラミングの部屋」などもあります。今は新型コロナのワクチンの情報のための部屋をつくっています。そこで例えば、ワクチンの副反応としてこういうことを体験したということを語り合います。

一般のメディアでは、専門家と称する学者の先生が「副反応はあり得る」と言うと「はい、左様でございますか」となります。しかし、実際に自分たちはどうなのかということをその部屋で情報交換します。例えば、200人のうち本当に副反応があった人はどんな副反応があったのかというお話です。

要するに、高齢者の生活面での情報と心の悩み共有の場ですね。また、今はZoomでの勉強会を開いて、たとえば源氏物語の連続講座などもやっているため、かなり充実しています。ネット上でも精神的な居場所があれば、かなり生き方も違ってくると思うのです。メロウ倶楽部の場合は、入会されるときはオンラインでのサインアップになりますので、まったくそういうものを使う知識がない人は、入会自体が難しいかもしれません。でも、入ったらみんなが教えてくれます。私自身も、まだインターネットではなく、パソコン通信という電話回線を使っていた30年近く前からオンラインを活用しています。

ネット上の仲間の応援で元気になった独居老人の兄

若宮 私には、千葉県に90歳になる兄がいます。彼もまた独居老人です。今年の正月にこの兄の息子から「父が緊急入院しました」と連絡がありました。心不全でふらふらして変な転び方をして複雑骨折をしたそうです。それを聞いたときに、「まあ生きていても寝たきりだろうな」と思っていたのです。そしたら2・3週間ぐらいあとに、本人から突然メロウ倶楽部に投稿がありました。

「今車椅子に乗って、病院の看護師さんに、病院のパソコンを使わせてもらってここにアクセスしているんだ」と。兄は「もんちゃん」と言うんですが、みんなが「もんちゃんよかった」「もんちゃん元気だったんだ」「みんな心配してたよ」ってネットの投稿で声をかける。そしたら彼は元気になって、ご飯もちゃんと食べられるようになったのです。リハビリ3ヵ月で足も歩けるようになって、退院して今またあちこちに出かけています。兄も私同様独居老人ですので、自分を受け入れてくれる仲間がいるというのは、かなり違うのですね。「地獄の三丁目から U ターンしてきました」っていうユニークなレポートがありました。こんな仲間を持っているというのは、すごいことだなと思います。

みんなの介護 メロウ倶楽部ではSNSに起こりがちな、他人への攻撃が生まれないのはなぜなのでしょうか?

若宮 やっぱり仲間意識があって、本音で語り合っていますからね。何かあっても、「本来あの人はそんなことを書く人じゃないんだけど、新型コロナのワクチンを打った次の日だから相当混乱したんだろう」という理解が生まれるなど、ある程度のわかり合いがあります。また、先輩たちが何かあってもやんわりとたしなめてくれます。やっぱりそこは大人の常識で、うまくやっていられると思います。みんなお友達・仲間でいたいわけですから。

インターネット上の仲間は高齢者の孤独を癒やして生きがいを与えてくれる

自立支援をサポートしてくれるAIスピーカー

みんなの介護 そうなのですね。介護をする人にとっては、高齢者がデジタルを使いこなせることでどのようなメリットがあると思いますか?

若宮 まず一つは、自立支援だと思います。本人にとってもいちいち人を呼ばなきゃいけないというのは嫌ですし、周りの人もそれだけ介護の手間が省けるということで、自立支援に役に立ちます。AIスピーカーの話をしましたが、冷房をあと2度下げてといって、娘さんや奥さんや嫁さんを呼んでやってもらう。またしばらくしたら「これじゃ寒すぎるから」と言って、また呼んで「冷房二度ぐらいあげてくれ」と言う。すると、「だからさっき言ったでしょ。そんなに今日は暑くないんだって。それなのに下げるからですよ」と言われます。ですがコンピューターなら、「はい、冷房の温度を2℃下げます」というだけで嫌味は言いません。だからやっぱり自立支援になります。自立支援というのは、自尊心のためにも周りの方にも良いと思います。

ある老人ホームで、呼吸や体温などをオートマティックに測れる環境をつくったそうです。しかし、そういった先端技術の導入は介護保険制度の対象外です。いちいち人が来て懐中電灯で照らされるよりも、機械的に呼吸音などを感知してくれていたほうがいいと私は思います。

高齢者が生き生き過ごせる仕組みが広がりつつある

みんなの介護 若宮さんは、デジタル機器の操作に困ったときにサポートしてくれる支援員制度の提案のほかにも、リケジョならぬリケロウ、最新の知識を学べる老人小学校、高齢者施設へのインターネット環境の整備など、高齢者が生き生き過ごせるための仕組みを考えられています。このような取り組みによってどのように社会が変化するとお考えですか?

若宮 デジタル活用支援制度というのは、今もうすでにスタートしています。しかし当面は間に合わないので、デジタル活用支援を携帯ショップの店員さんにお手伝いしてもらうことになると思います。老人小学校として描いていたことに近いものに、「熱中小学校」というものを見つけました。これは老人も含む大人が、もう一度、7歳の頃に戻って学び直そうというものです。自分たちが何でも勉強してきたといっても時代が変わっています。特に過疎地の地域再生には、先端技術が必要です。そのため私は、熱中小学校の情報科の教諭ということで、月に1度ぐらい過疎地などにお邪魔して、授業と称して話をしたり、現地の方と交流をしたりして、自分自身もそれぞれの地域での体験をしています。これは国の補助をもらって、全国的に展開することになっていたのですが、新型コロナのために今はレクチャーをZoomなどでやっています。そのため、なかなか現地の人と交流したり、地域の産業の体験をしたりというのができない不便さがあります。

もう一つは、高齢者施設へのインターネット環境の整備です。デジタル改革でも、例えば船の上や山の中などの過疎地で電波通信の穴ができないように、網羅性を高めることに取り組んでいます。それとともに、新型コロナで面会が禁止されてしまったので、病院や施設もやはりインターネット環境が必要なのではないかということで、政府委員として少しずつそちらの方向に向いてお手伝いをしています。

みんなの介護 全国のさまざまな地域に行かれてみていかがでしたか?

若宮 それぞれ地域のやり方があるので、それを尊重して行けばいいと思います。熱中小学校なんかもそうですが、もう少し若い世代にも入ってもらおうということで、子育て中のママを仲間に入れようとしている学校もあります。それによって、新しい考え方も取り入れられたらと思います。今、地域の駅もそうですし、車で高速を降りても、どこの町も個性があまり感じられなくて残念です。やっぱりその町にはその町のやり方があったらいいなと思います。

老人ホームでのレクリエーションを社会貢献につなげよう

みんなの介護 若宮さんはボランティアに参加して、ボランティアで得られるものがあるということを本の中に書かれていました。この点をどのようにお感じですか?

若宮 高級な老人ホームには、手芸に力を入れていらっしゃるところは多いのです。でも、どこかみんなつまらなさそうに時間をつぶしている。せっかく素晴らしいものをつくっているのだったら、バザールみたいなのをやってそれを売ったお金で、子ども食堂に寄付をするなどということができたらいいのではないかと思います。そうすると、自分がつくったものがどんな風に役に立つかもわかります。また、レクリエーション活動をするだけではなく、社会と繋がっていて社会貢献できるのであれば、より生きがいを感じられるのではないかと思います。老人ホームに入っても、社会貢献ができるのは素敵です。

また、男性に多いのですが、会社を辞めたら何をしていいかわからないし友達がいないという人がいます。「どうやって友達を見つけたらいいですか?」と聞かれて、何か趣味をお持ちですかと聞いても、趣味は全然ないと言う。それならば、地域のボランティア活動に参加するのが良いのではないかと思います。NPO活動などもあるので、市役所に行って紹介してもらって、そこのお手伝いをする。そうすると人のためになることができるし、友達もできます。ボランティア活動には志が高い人が多く参加しているので、そのような人とお友達になれるといいと思います。

0から1にすることは人間にしかできない

みんなの介護 夢中になれることがあると元気でいられそうですね。好きなことを持つことが高齢者の健康にとってどのように良い影響を与えると思われますか?

若宮 心を健康してくれると思います。AIの時代になると、人の真似をするというだけでは通用しなくなる面もあると思います。例えば私たちは3Dプリンターではないので、どんなに立派な彫刻でも、ほかと同じものをつくってもつまらないのです。コピーではなく、オリジナルをつくりたいのです。私自身、何であんな変なプログラミングをつくったかと言うと、「hinadan(ヒナダン)」にしても「nanakusa(七草)」にしても、ああいうものはほかの誰もつくらないと思ったのです。幼稚かもしれないけど、今までにないアプリです。

またクリエイティブと言っていいかわからないけど、エクセルアートは人のまねではないから、自分は自分の世界で何かをつくって楽しんでいます。人工知能の時代になったら、ひとつのものを1万個つくるのは簡単だと思います。ただ、0から1にするということは人工知能にはできない。それができるのは人間だけだと思うのです。

みんなの介護 若宮さんは、アウトサイダー的な生き方をかっこよく表現した「ヤクザな女」の生き方を勧めていらっしゃいます。固定観念の呪縛から解き放たれてその人らしい生き方をするためには、どのような考え方を持つのが望ましいでしょうか?

若宮 中年の女性の方なんかには多いのですが、何か人と違うことをしていると、「誰かに何か言われるのではないか」と言う強迫観念が出てくる方がいらっしゃいます。だからなるべく無難に人と同じようなことをされます。しかしAIの時代では、自分の個性を生きないとつまらないと思うのです。言いたい人には言わせておいて、自分のやりたいことをするのがいいと思っています。

高齢者は経験で磨かれた「叡智」を持っていることに自信を持ってほしい

生(ナマ)の体験の蓄積が人間力につながる

みんなの介護  AIについては、「恐ろしいのはAIではなくAIを悪巧みに使う人間の心」と本の中に書かれていました。人間力を磨くためにはどのようなことが必要だと思われますか。

若宮 いろいろな物に接して世間を知っておくことだと思います。例えば、新型コロナウイルス感染症の流行によって、地球上の大勢がパンデミックとはどういうものかを確証したわけです。そういった自然界のことや、いろいろな昔の人の考えていることを知るために、本をたくさん読むことも、とても大事だと思うのです。

ですが、生で接することができるものは生で体験するのが良いと思います。どんな美味しい料理も、本で読むよりも食べてみる方が良いです。どんな素晴らしい音楽と言われても、聞いてみる方がいいです。また、どんな素晴らしい絵も見ないで想像しても限界があるので、現物に触れるということだと思います。ベートーベンが何を言いたかったかというのは、本を読んでも書いていない。ベートーベンから直接聞いたほうがいいです。そのような感性が大切だと思うのです。ですので、生のものと感性と現実。世の中って、綺麗ごとで成り立っているわけではないってよく言いますけど、綺麗ごとの部分もあるのです。それこそ3D化ではなく、裏の面や影の面、輝いている面など、そういうものを全部見通せるのが人間力かな、なんて思いますね。私なんか全然駄目だけど。

みんなの介護 いろいろなものを見通せるのが人間力というところでは、年齢を重ねるほど人間力を磨ける可能性は高まるのでしょうか?

若宮 高まるはずです。ただ、今の高齢者の中には、新しい先端技術の時代についていけないということで、必要以上に自信を失ってしまっている方がいると思うのです。

経験を消化して発酵させ、熟成させたものが高齢者の叡智

みんなの介護 その自信はどのようにしたら取り戻すことができますか?

若宮 先端技術からも逃げないで自分なりにアクセスしてみるのが良いと思います。それから自分の持っている叡智というものを大事にしてほしいです。「若い者にはかなわない」と言うけど、若い人というのは知識があっても経験というのはこれからです。高齢者はそういう知識を自分の経験で消化して、消化させたら今度は発酵させて、発酵させたら熟成させている。そこで生まれてくるのが叡智だと思うのです。

ですので、もっと自信を持たないといけないと思うのですが、自分たちが先端技術に遅れたということで、必要以上に自信をなくしてしまっている。自信をなくしたために、自分の持っている常識まで信じられなくなるということが、オレオレ詐欺に遭うことなどにもつながってしまうのではないかと思います。銀行の人がクレジットカードをつくるために家までいきなり来てくれるなんてありえませんからね。若いときは当然そういうことが判断できたのに、自信を失ったことで判断できなくなってしまうのは、とても残念なことだと思います。

みんなの介護 高齢者の方がコミュニティに参加することが孤独の解消に繋がると思いますが、興味を持てる安全なコミュニティというのはどのように探すことができますか?

若宮 日本は老人クラブというのがすごく発達しています。地域の老人クラブというのは絶対ありますから、とりあえずそこにお入りになればいいと思います。それで、そこから出てきた方には、メロウ倶楽部に入ってもらう(笑)。

みんなの介護 日本では一人暮らしの高齢者の方がこれからも増えていくと思われます。不安を感じる人に、何かメッセージをいただけますか?

若宮 私自身もそうですし、私の兄も独居老人です。ただ私達は、独居ではありますが、ネットを通じて社会と密接に繋がっています。だから私が2日間ぐらい何も投稿しないと、「マーチャンどうかしたんじゃないか」と気にした知人から電話やメールがきます。だから独居の人こそ、近場のリアルの人とも仲良くして、ネットを通じた人とも親しくするのが大事だと思います。こういうネットでの交流は「安否確認」の役にも立っているのですね。

みんなの介護 そうですね。ちなみに、若宮さん自身の元気の秘訣は何だと思われますか?

若宮 元気の秘訣なんかありません。視野を広げていろんなことをやってみる。引き受けた仕事には全力でコミットする。それだけだと思います。

また、介護をしている方々はあまり狭い常識にとらわれないでほしいと思います。介護はゴールの無いマラソンです。多少「不良介護人」であってもスタミナ配分を考えて「長持ちする介護人」であった方がいいと思います。介護人も反社会的なことでなければ、自分の生き方を通して、周りの目も気にしないで、のびのびと生きていってほしいと思います。

撮影:丸山剛史

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「アナログ時代を生きてきた私たちシニアが、デジタルのスキルを身につければ鬼に金棒です」 本書は世界最高齢のアプリ開発者で、「世界が尊敬する日本人」にも選ばれた著者のデジタル入門書です。今話題のスマホ決済やAI(人工知能)、プログラミングのことまで、わかりやすく解説します。デジタルは「若者のためのもの」ではありません。体の不都合、独居など、高齢者をとりまく事柄は、デジタルを活用すればプラスに変えられます。人生100歳時代を生きるシニアたちに、84歳の「マーチャン」が新しい生き方を提案します。

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07