荒川和久「日本の婚姻数が劇的に減ったのは、お見合いや職場結婚が減ったから」
「結婚しないと孤独死する」は的外れ
みんなの介護 ソロの方が高齢になったり、病気になったりするときにサポートしてくれる人がいない。今度は孤独死の問題が出てくるのではないでしょうか。
荒川 私は、孤独死をことさら悪くとらえるのもいかがなものかと思っています。結局死ぬときはみんな一人です。全員孤独死なんですよ。
孤独死を忌避すべきもののように語る人もいます。孤独死している人は汚い部屋に住んでいて、誰も家族がいないから発見が遅れると。だから「結婚しないと孤独死するぞ」なんて言われるわけですが、実際今孤独死している人のほとんどは元既婚者です。
さらに、家族と同居していても孤独死する人はいるわけです。例えば、仕事で2日ぐらい家を空けて帰ってきた。すると、同居する父が2日前に心筋梗塞になって死んでいたということもあり得ます。
孤独死の明確な定義は、今も存在しませんが、誰にも看取られず一人で亡くなってしまった状態も孤独死というのであれば、家族と同居していても孤独死する人はいるのです。
みんなの介護 家族と同居していても孤独死になるかもしれないのであれば、死に対してどんな心構えを持ったら良いのでしょうか。
荒川 孤独に死ぬことを心配するぐらいなら、孤独でもどう生きるかを考えた方がいい。死ぬときは死ぬし、死んだときにはもうわからない。
例えば、今日帰りがけに車にはねられて死んでしまうかもしれないじゃないですか。だから、死ぬ瞬間のことをああでもないこうでもないと考えることに私は意味を感じないんです。死ぬ瞬間のことを考える暇があるのなら、「今日のご飯何しようかな」と考えて生きる方がよっぽど楽しいわけです。
妻の買い物に後ろからついていく“妻唯一依存症”の男性
みんなの介護 著書の中で触れられていた、定年後妻に対して過度に依存してしまう“妻唯一依存症”の男性のエピソードが印象的です。結婚しているがゆえに、それを失ってしまうとダメージが大きいこともある。
荒川 “妻唯一依存症”の男性というのは、今までは“会社唯一依存症”だったわけです。会社の中で、肩書きや立場があって、部下の前で踏ん反り返っていられたわけです。それによって、自分の社会での存在意義を認識できていた。会社に所属しているからこその安心感でした。
そのため、名刺がなくなると誰とも話ができなくなるんです。そうなってしまうと妻だけが依存相手になってしまう。用もないのに、妻のスーパーの買い物に後ろからついていく。「邪魔だなぁ」と思われて、今度は妻にも見放される。
みんなの介護 肩書によって自分の存在価値を確かめることがすでに依存になっているということでしょうか。
荒川 そうですね。しかし、会社人間だった人は、肩書を外した裸の自分で人間関係をつくる経験がありません。そもそも、問題は依存先が少なすぎることにもあるのです。
会社「しか」、妻「しか」、家「しか」、子供「しか」寄りかかるものがない。それではだめ。本当は、800万ヵ所ぐらい依存先をつくった方がいいんですよ。
コミュニティへの参加だけでなく自分との対話を
みんなの介護 800万の依存先ですか?
荒川 八百万(やおよろず)のね。私は、人間の依存先には、所属するコミュニティと接続するコミュニティ、2種類があると思っています。
所属するコミュニティはかつての地域、会社や家族のようなもの。そこに所属することで安心を感じるコミュニティです。
接続するコミュニティは趣味や自己研鑽や学びなど、場面に応じて柔軟に接続するコミュニティです。ニューロンネットワークのシナプスのようなイメージが近いでしょう。所属に依存しない分、一人ひとりに個人としての精神的自立が生まれます。
昨今話題になっていますが、所属するコミュニティとしてサードプレイスのような場所をつくることは、いいことです。会社と家庭のほかにもボランティアや趣味のサークルに入ったりしてね。
しかし、それだけだと、結局居場所への唯一依存ということになり、そこがなくなると不安定になってしまう。
みんなの介護 環境に左右されない、ブレない自分をつくることが大切ですね。
荒川 私は、「ブレない確固たる自分」なんてそれもまた唯一依存だと思います。むしろブレていいんですよ。カメレオンのように変化できることの方が大切だと思います。それが「自分とつながる」ということだと思っています。
「この問題に対してはこんな考え方があったよな」とか「あの友だちはここに行ったと言っていたなぁ」。そんなふうに、自分の中にあるたくさんの自分に接続するのです。
人と会ったり、何かに触れたりする中で生まれた「自分」が60歳なら60年分蓄積されています。ある意味、財産です。それにも気付いてない人が多いので、会社を失うと家族しかいないというような思いになってしまうのです。
そのような人には、今からでも自分の中にいる八百万の自分に向き合ってごらんなさいと言いたいですね。自分の中にいますから。
自分と向き合えないのであれば、自分の経験を人に話して客観視してもらうのも一つの方法です。
撮影:駒形美世瑠
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2040年、人口の5割が独身(=ソロ社会)という時代がやってくる!それは「絶望の未来」かそれとも「希望の未来」か?”オワ婚”時代の「結婚」「家族」「コミュニティ」「しあわせ」について、豊富なデータをもとに、独身生活者研究の第一人者が視点を多重化して考察した1冊。
連載コンテンツ
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