皆さんこんにちは。終活カウンセラー協会認定講師でジャーナリストの小川朗です。
本日は軽度認知症の方などを狙った悪質商法について、考えてみたいと思います。
増え続ける悪質商法の事例
先日、旧知の訪問看護師の方からこんな話を聞きました。あるお宅(仮名:Aさん)に伺ったところ、同じ健康食品や電化製品ばかりが、封を切らない状態で部屋の中に散乱していたというのです。Aさんは軽度認知症で、一人暮らし。どうやら以前に一度ある商品を購入したところ、その後も巧みなセールストークに乗せられて、同じものを購入させられたようなのです。
コロナ禍で訪問販売の被害は減っているようですが、その分増えているのが、電話を使った送り付け商法です。カニなどの魚介類や健康食品の購入を勧める電話があり、強引に契約をさせられたり、断ったのに商品が届いたりするトラブルの相談が国民生活センターに寄せられています。
公式ホームページに掲載されている最近の相談事例を挙げてみましょう。
- 「新型コロナウイルスの影響で困っている。カニを半額にするので買ってほしい」と電話勧誘があり承諾した。クーリング・オフしたい
- ポストに宅配便の不在票が入っていたので再配達をしてもらったら、注文した覚えのない海産物だった。後から請求を受けるのではないかと不安だ
- 近所に住む高齢の叔母から、「注文していないカニが届いたが、仕方なく代金を支払った」と相談があった。送りつけ商法なら返品させたい
- 地方の海鮮市場を名乗る人物から電話があり、一方的に「鮭を送った。送料込みで1万円だ」と言われて断る間もなく電話を切られた。不要だが、届いた場合はどうすればよいか
(国民生活センター公式ホームページより)
こうした事例は氷山の一角に過ぎません。トラブルの多くが当事者のところで埋もれてしまっているのです。その複雑な事情を、前出の訪問看護師の方が明かしてくれました。
被害を受けたことすら認識していないケースや、それを認識しているために、良心の呵責に苛まれて身内に告げられないケースもあるのです。
こうなると、現場を抑えるしか対策がないようにも思えますが、前出の訪問看護師によると、それすら難しいケースもあるそうです。
悪質な販売トラブルを回避するための支援策
こうしたトラブルを防止するため、多くの自治体が対策を講じています。例えば、東京都練馬区です。白石けい子練馬区議は、次のように話します。
これは固定電話に接続するもので、呼び出し音が鳴る前に電話の発信者に警告メッセージが流れ、通話内容を録音できるもの。詐欺の犯人は、音声を録音されることを嫌がるため、電話に出ずに犯人を撃退することができます。電気代も年間数百円程度しかかからないということで反響も大きく、昨年練馬区が用意した5,000台の自動通話録音機には、応募が殺到したそうです。
オレオレ詐欺も含め、電話を使った高齢者への特殊詐欺は依然として後を絶ちません。それだけに自衛策への意識が高まっていると言えるでしょう。こうした自動録音機による対策も有効ですが、周囲の人がいかに見守り、異変に気づくかが大切です。
「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事は、こう語ります。
前出の訪問看護師さんの例でもわかるように、周囲の人の「気づき」こそが、高齢者の詐欺被害を防ぐ鍵であることを、鈴木代表も強調していました。
「成年後見制度」と「家族信託」を活用しよう
私が終活カウンセラーの立場から強調したいのは、「成年後見制度」を検討することです。私の所属する協会のテキストの最終稿にも掲載しており、介護や相続の講義で登壇したときには、できるだけ盛り込むようにしています。
この制度は大きく分けて2つの形があります。一つは「任意後見」です。これは「元気なうちに将来認知症などで自分の判断能力が不十分になったとき、そこからの人生をどこで誰と暮らしたいのか」「どのような介護を受けたいのか」「自分のお金の使い道を誰に託すのか」ということを考えて準備しておくものです。
もう一つは「法定後見」です。こちらは、本人が判断能力が不十分になった場合に、周りの親族などが成年後見制度の申し立てを行い、家庭裁判所が成年後見人を選任するものです。
成年後見人というのは、認知症などによって自分で判断することが難しくなった人のために、本人に代わって財産の管理やさまざまな契約事項を行なう人や法人のことを指します。選任は、家庭裁判所が行います。実際には、まだ認知症になっていない方から直接依頼を受けて、公証役場で正式な契約書類をつくって、ご本人が認知症になった時点で契約書の効力が発生する任意後見契約を、事前にする方が増えてきています。
また、手軽に利用できる手段として「家族信託」も選択肢に入ります。文字通り家族を信じて、財産の管理・処分を託す方法です。所有権には「管理する権利」と「お金をもらう権利」(家賃収入や売却して得る利益)があります。この「管理する権利」だけを家族に託す方法です。
例えば、父が持っているマンションの「管理する権利」を長男に、父亡き後の「お金をもらう権利」を母が相続すると決めておきます。そうすれば、長男がマンションを管理し、家賃収入は母が受け取る形をつくることができます。信託契約書の作成などには信託登記が必要となるため、専門家にアドバイスを受けながら進めていくことが賢明です。
大事なことは自分が認知症になったとき、「自分がしてもらいたいことを誰にお願いするのか」を決めておくこと。この信頼できる人を探す活動こそが、終活とも言えるのです。