撮影当時の関口監督の心境は?
淋しさを紛らわそうする母の気持ちが、手に取るようにわかりました
私の息子である先人(さきと)は、母が無条件に愛した相手だと思います。残念ながら、娘である私に対する愛以上ですね!
それは、母が遺した日記からもわかります。そこには「サキ君の明るさに救われている」と繰りかえし書かれていました。認知症初期のころの最も辛かった日々を過ごしていた母を癒してくれたのは先人だったのです。
前回の記事にも書きましたが、当時10歳でシドニーの小学校に通っていた先人は、学校が休みになる夏休みと冬休みの年に2回、日本に帰国していました。1年に2回しか会えない孫を母は一番愛したという訳です。
私もそのことを十分理解していたので、先人には申し訳ないのですが、映画の中でプロップ(小道具)のように使ってしまいました!(どこまでも映画監督!スミマセン…。)
つまり、「私じゃ母を撮れない」と感じたとき、あるいは母の機嫌が悪くなることが見て取れたときには、先人にバトンタッチです。

この動画の撮影も然り。後ろ姿から、母の機嫌の悪さが伝わってきますよね。
先人がもうすぐいなくなる淋しさを紛らわすように、自分の得意な<漢字の読み方>に話を持っていく母の気持ちも、手に取るようにわかります。
先人に「すご~い!」と言われることで、母の自信につながる。というより、自尊心を保つことができたのでしょう。
そのとき関口監督がとった行動は?
母の自然な様子を撮るために、先人にビデオカメラを持たせて母の部屋に送り込みました
先人にビデオカメラの使い方を教えて、先人を母の部屋に送り込む。それだけでした。
先人の離日が迫って機嫌が悪い母を撮りたい。でも、私では母はどんな反応をするのか読めない。
「それならば、先人に撮ってもらおう」と思いついた訳ですね。先人も喜んでカメラマンの役をしてくれました。

久しぶりに動画を見て、グッときたり、クスリとしたりしてしまいました。
先人が撮った映像には、2人の関係がしっかりと写っています。邪心のない撮り方で、いつものように自然に母とかかわりながらカメラを回した見事なシーンです。
親バカながら「なかなかやるじゃん」と、先人を褒めたことを思い出しました。
関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?
介護されている人の味方になってくれる、第三者の存在が重要です
「先人による撮影」という今回の特殊な状況を介護的見地から見てみると、とても示唆的だと思います。
- 1対1の介護ではなく、ほかの誰か(今回の場合は先人)がいる
- その誰かが介護されている側(我が家の場合は母)を大切に思っている
つまり、母にとって先人は「唯一無二の味方になってくれる存在」という訳です。現に母は、私ではなく、いつも先人に同意を求めました。
先人は母との関係をよく理解していて、母が私を批判したときには必ず母の味方をしました。母にとって、どんなにか安心できて心強い存在だったことでしょう。

先人は、母がアルツハイマーであろうとなかろうと「おばあちゃんは“おばあちゃん”」という姿勢を1回も崩すことはありませんでした。
いえ、むしろ最初に「アルツハイマーのおばあちゃんの方が好き」と言ったのは先人だったのです。先人は、認知症のお陰で取りつくろうことができなくなった母の真の本質を見抜いていたのではないかと思っています。
そんな先人に母だけではなく、私自身も救われていたことは言うまでもありません。
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