撮影当時の関口監督の心境は?
母の腰痛を悪化させないため、誠心誠意、説得しようと考えました
「毎日がアルツハイマー」は、2012年発表の作品ですが、この介護ベッドのエピソードもその頃ですね。
映画の中では、編集で落ちてしまいましたが(笑)!
当時の母の気持ちは、痛いほどわかっていました。つまり、娘である私の<憐れみ>は無用という訳です。
「介護ベッド」というのは、そんな<憐れみ>のシンボルだったのだと思います。

しかし、このままコタツで寝ていては、「母の腰痛がどんどん悪化していくだろう」と思ったことも鮮明に覚えています。
ここは、ほかの選択肢を取るよりも、母を脳神経外科に連れて行ったときと同じように、誠心誠意、説得しようと考えました。
そのとき関口監督がとった行動は?
母の説得には、憐憫や上から目線はダメ
娘の立場から母を<説得>するという行為は、ほぼうまくいきません。それは、母と私の力関係に由縁(ゆえん)しています。
それでも、母は意外と情にもろいところもあります。
そんな母の性格をわかったうえでの説得ですね。
そして、母の説得には、憐憫(れんびん)や上から目線は、ダメ。
ひたすら心を込めて説得するのです。

でも、邪心なく説得するってとても難しい…。
このときも、一度の説得では解決しませんでした。
いや、きっと、母は「なぜベッドが搬入されたのか」を忘れちゃったんですね。
ここは私の「ネバーギブアップ」の精神を発動させて、最終的に本人がベッドの良さを確認し受け入れてくれたので、めでたし、めでたしとなりました。
関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?
一番大事なのは、本人がしっかり納得すること
介護する側が、介護されている側を説得するとき、介護する側の理屈や論理だけでは相手は、まったく動かないと思います。
これは、介護だけに限ったことではありません…。
では、何が必要なのか?
本当にケース・バイ・ケースですが、例えば、母の場合は、「母のことを思っている」というこちら側の誠意が母に伝わることがまず大前提で、そのうえでの提案や説得ですね。

そして、一番大事なのは、本人がしっかり納得することだと思います。
母は直近のことは忘れるので、そのことを踏まえたうえで、諦めずにもう1回、時間を置いてもう1回、と何度か同じ提案をしてみる。
このとき、私にとっては同じ話の繰りかえしでも、母にとってははじめて聞く話であるということを忘れてはいけません。
こうやって考えていくと、「認知症ケア」には、高度なスキルと簡単には諦めない心が必要であるということがわかると思います。