「え?ないの?まったく?」
福祉車両に外車がない問題があった

前編では車椅子について書いたが、国際福祉機器展の今回の目的はもうひとつある。

昨年、日本でベンツなどの外車を輸入・販売するYANASEと、「オフィス清水」が正式に業務提携したことによって、福祉車両としてベンツを展示していた。

今年も、オフィス清水さんらの“福祉車両”を拝見しに行くのだ。

ボクが2011年にくも膜下出血を発症しはじめて出版した、スーパー闘病エッセイ『一度、死んでみましたが』のなかには「クルマが壊れた」という章がある。

それによると、発症前から乗っていたワーゲンのトゥーランが壊れたとある。

車椅子も入るくらい、荷物をたくさん積める。車高も多少あるので、車椅子からの移乗もしやすい。

妻は介護のしやすさから気に入っていたようだ。介護車ではないけれど、使いやすかったらしい。

代車にベンツのCクラスがきたのだが、普通のセダンってこんなに車高低かったっけ?と思うほど、乗り降りをするのに踏ん張りが必要だった。

修理にはかなりの金額がかかると聞いて、妻はあれこれ車を物色し始めた。

当時こんな身体になったボクではあったが、仕事をし始め取材に出かけることも多くなっていた。

車がなくてはやっていけない状態だった。

車にはそのときの家族構成や生活が大きく左右する。

ベンツのワゴンからトゥーランに変えたのだって、広島の両親や子どもを乗せたりするのに、7人乗りが必要になることが多くなったからだ。

今回は介護車だった。ポチポチ調べ始めると日本車にはさまざまな介護車両というものはあるが、ベンツ、ワーゲン、BMW,アウディーなどなど…まったく介護車がないのだ。

「え?ないの?まったく?」と驚いた。

そこで妻はYANASEに行って、車を見て介護車について聞いてきてくれた。

「Bクラスというのが、ちょっと車高も高めで乗りやすそう。以前乗っていたEクラスとはちょっと違うけど気に入ると思うよ」という。

YANASEの方も、介護車に改造できるところがあるか調べてくれるという。

さすがYANASEだね、というところでその記事は終わっている。

Bクラスを購入して介護車両に改造しよう!
そんな夢も志半ばで終わった

もちろん、日本の全体から考えたらそんな高級車に乗っている人はわずかかもしれない。

でも今まで、そんな車に乗っていた人々はベンツなどを乗り捨てて、国産車に変えてるんだろうか?

不思議だった。身体を悪くしてまでそんなこと気にしてられないんだろうか?

いや絶対そんなことないよなあ。そう思って何回か記事にも疑問を投げかけた。

我が家だって、その頃から高級車に乗るような余裕はなかった。

けれどどうしても、ベンツに介護車がないなら作ってみたい!というボクのわがままを家族が聞き入れてくれて、Bクラスを購入した。

「これからは毎日お茶漬けでいいから」「頑張って本書くから」子どものような言い訳でそれは許可された。

その夢は、志半ばで終わってしまった。調べてもらっていたYANASEの子会社も閉鎖したと聞いた。

Bクラスも昨年、TOYOTAの介護車に乗り換えた。

それが、買ってみるとやはり快適でよくできていた。

ベンツが福祉車両になっている!
すごい!ついにボクの理想が実現したのだ

災害時に活躍するJINRIKI

TOYOTAの介護車に変えてすぐの頃、昨年のHCR(国際福祉機器展)。

オフィス清水のブースでの衝撃。

「もっと自由に車を選ぼう」をコンセプトに、それこそベンツだって福祉車両にしてしまっているではないか!!!

長年(5年くらいだけど)言い続けていたことを、実際にやってくれている方がいる!!!!

嬉しかった。

そして今回は、清水さんやYANASEの担当の方とも直接お話しすることができた。

オフィス清水の取り組みは、全国の中小企業の工場ともネットワークでつながっている。

「日本の中小企業の底力です」そうおっしゃっていたがまさしく。

介護の世界だってかっこよくないと!
こんな車でドライブしたいなあ

災害時に活躍するJINRIKI

長年、ボクは車雑誌に連載していたが、そのころドイツのAMGで福祉部品を見たことがあった。

もう30年以上前のことだったが、担当者は「これが一番の技術革新」と話していたのを思い出した。

そのときのボクは、ピンときてなかったんだと思う。

あの頃の自分に言ってやりたい。「よく見ておけよ」。

今回の国際福祉機器展で展示された、車椅子になる回転する助手席、後ろの扉に車椅子がそのまま入れるスムーズなリフト、屋根に車椅子が収納できる収納庫…それらを自分が持ち込んだ車や、YANASEで新車を買ったときに取り付けることができるのだ。

災害時に活躍するJINRIKI

自由に、自分の好きな車が介護車になる。夢のような話だ。

海外から、まだ認知度の少ない介護車両の部品を吟味して輸入してくれている。

ボクの好きなデザイン性にも優れている。介護の世界だってかっこよくなきゃいけない。

あと1年早く出会っていたらなあと思う。

こんな車で長距離ドライブしたいなあと、ブースで車に乗り込んだ。