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第35回

介護施設で起こりやすい高齢者虐待と身体拘束。その防止策とは?

最終更新日時 2020/12/24
こんにちは、行政書士の山田拓郎です。今回は、筆者が「介護職員にとって必要だと考える権利擁護の考え方」についてお話します。

こんにちは、行政書士の山田拓郎です。

介護の仕事をしている方なら一度は「権利擁護」という言葉を聞いたことがあると思います。しかし、「権利擁護と言われてもよくわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、筆者が介護職員にとって必要だと考える「権利擁護の考え方」についてお話します。

"利用者のため"と思い、無自覚にご本人の尊厳を奪ってしまう

そもそも、なぜ人間には「権利」があるのでしょうか。それは、「人間は特別な存在であり、人間にはあらかじめ備わった『尊厳』があるから」です。では「尊厳」とは何でしょうか。介護サービスとの関係であえてわかりやすくお伝えするならば、「人として尊重されていること」というのが当てはまると思います。「人として尊重されていること」と言われてもイメージしにくいかもしれません。具体的に、以下の介護の場面で考えてみます。

  1. 食事量が少ない利用者の口をスプーンでこじ開けて食べさせる
  2. お風呂に入りたがらない利用者の服を無理やり脱がす
  3. 立ち上がらないように体をベッドや車椅子に縛る

実際の社会生活の中で、私たちが他者からこのようなことをされることはあってはいけません。上記で挙げたような介護は、「人として尊重されていない状態」ではないと思います。なぜこのような介護が行われるのでしょうか。その1つには介護職員が「利用者のためになる」と考え、行っている場合があります。つまり、「栄養状態を維持・改善することは利用者のため」「清潔にすることは利用者のため」「転倒を防止することは利用者のため」と考えている場合です。

介護職員は権利侵害を起こしやすい立場である

このように「その人のために」と考え、ほかの人の行動に干渉することを「パターナリズム」と言います。パターナリズムは、強者と弱者の関係がある場合に見られます。介護サービスの利用者は、体と精神機能の低下によって支援を必要とする人が多いです。介護職員に依存しなければ日々の生活を送ることができない方もいらっしゃるでしょう。このような状態では対等な関係にはなりづらく、強者弱者の関係になってしまうのだと思います。もちろん「利用者のために」と考えることは、悪いことではありません。しかし、介護職員が利用者にとって立場的に強い存在になり得ることに無自覚な場合は、パターナリズムによる「権利侵害」が起こりやすくなります。

介護職員と利用者の関係は…

高齢者虐待と身体拘束について考える

介護職員は虐待を目撃した段階で通報する義務がある

「高齢者虐待」は、権利侵害の最たるものといっても過言ではありません。高齢者虐待を防止し、高齢者の権利・利益の擁護を目的とした法律に、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下、高齢者虐待防止法)」があります。高齢者虐待防止法では、介護職員による高齢者虐待の定義を次のように定めています(第2条5項1号)。

身体的虐待

高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加える

介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)

高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠る

心理的虐待

高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行う

性的虐待

高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせる

経済的虐待

高齢者の財産を不当に処分することそのほか当該高齢者から不当に財産上の利益を得る

そして介護事業所の職員は自分が勤務する事業所において、虐待を受けていると思われる利用者を発見した場合、速やかに市町村に通報する必要があります(高齢者虐待防止法第21条1項)。介護事業所の職員には「虐待があったと思われる」ときに通報する義務が課されていますので、確かな証拠がない場合でも市町村に通報する必要があるのです。

これは、介護事業所の職員は高齢者虐待を発見しやすい立場にあるので、迅速に通報することによって、利用者への虐待を防止する趣旨であると考えられます。通報者は、通報したことによって刑法の秘密漏示罪の規定や、その他守秘義務に関する法律(社会福祉士及び介護福祉士法第50条等)によって罰せられることはありません(高齢者虐待防止法第21条6項)。また、通報したことによって解雇その他不利益な扱いを受けないことを明記(高齢者虐待防止法第21条7項)し、通報者の保護を図っています。

通報により罰せられることはない

身体拘束は緊急性が高く、やむを得ない場合のみ

2000年に介護保険制度が施行され、介護保険施設などでは、「緊急やむを得ない場合」を除き、身体拘束は原則禁止となりました(「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準第11条4項」「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準第97条5項等」)。

身体拘束についても、通常の私たちがしている生活の中で、何も悪いことしていないのに自分の意思とは関係なく自由を制限されることはあり得ないでしょう。身体拘束も人として扱われていない一つの場面であると思います。身体拘束にあたる具体的な行為は以下の通りです。

  • 徘徊しないように車椅子やベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 転落しないようにベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
  • 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひもなどで縛る
  • 点滴・経管栄養等のチューブを抜かない、または皮膚をかきむしらないように手と指の機能を制限するミトン型の手袋などをつける
  • 車椅子や椅子からずり落ちたり、立ち上がらないよう、腰ベルト、車椅子テーブルなどをつける
  • 立ち上がる能力がある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する
  • 脱衣やおむつが外れるのを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
  • 迷惑行為を防ぐため、ベッドなどに四肢をひもなどで縛る
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
  • 自分の意思であけることのできない居室などに隔離する

これらの行為は原則禁止です。しかし、当該利用者やほかの利用者などの生命や身体を保護するためにやむを得ない場合は、例外的に身体拘束が認められます。この「やむを得ない場合」とは、次の3要件をすべて満たす場合です。

切迫性

利用者本人やほかの利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が高い

非代替性

身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がない

一時性

身体拘束その他の行動制限が一時的なものである

さらに、上記の3要件を満たした場合でも、身体拘束廃止委員会などの組織としての判断や利用者、家族への説明、記録が必要であり慎重な手続きが求められています。

利用者の権利を擁護するために事業所が取り組むべきこと

利用者の権利を擁護するために、介護事業所はどのような取り組みをするべきでしょうか。ここでは以下の4つ紹介します。

1:研修を行う

まずは、事業所内で虐待防止や倫理に関する研修を行うことが必須です。『平成30年「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果』によると、虐待の発生要因として最も多かったのは、「教育・知識・介護技術等に関する問題」358件(58.0%)でした。この結果から虐待などの権利侵害を防止するためには、職員の研修、教育が必要であると考えます。

また、2018年の介護報酬改定で「(地域密着型)特定施設入居者生活介護」「認知症対応型共同生活介護(地域密着型)」「介護老人福祉施設」「介護老人保健施設」「介護療養型医療施設」「介護医療院」においては、介護職員や他の従業者に対して、身体的拘束などの適正化のための研修を行うことが義務づけられました。

2:当事者意識を持つ

利用者は、介護職員と違う世界に住む人ではありません。もしかしたら、いつか自分も介護が必要になるときがくるかもしれません。自分自身に置き換えてみて、提供しているケアが適切であるか検討することが大切です。

介護の現場は、日常的に忙しい現場です。忙しさのあまり、倫理や人権感覚が麻痺してしまうことがあるかもしれません。忙しい現場だからこそ、日々のケアを振り返り修正することが大切だと思います。

3:風通しを良くする

介護事業所は閉鎖的になりがち。利用者と介護職員、介護職員同士、事業所と外部の人との関係など、組織として意識的に風通しを良くすることが大切です。虐待に至らないような不適切なケアがあった場合でも、職員間でコミュニケーションを取り改善していく仕組みや雰囲気が必要だと思います。

4:介護職員の権利も擁護する

利用者の権利擁護を実践するためには、介護職員自身も人間らしく生活を送ることが大切です。利用者や事業所のために自分自身を犠牲にして、毎日サービス残業や休日もなく働いていては、到底人間らしい生活とはいえません。介護職員の負担を減らし、できるだけストレスのない状態で仕事ができる環境を整えることが利用者の権利擁護にもつながります。

利用者の権利を擁護するには…?

利用者・介護職員の双方が人として尊重されなければいけない

以上、介護における権利擁護についてお話しました。冒頭で「食事量が少ない利用者の口をスプーンでこじ開けて食べさせる」「お風呂に入りたがらない利用者の服を無理やり脱がす」「立ち上がらないように身体をベッドや車椅子に縛る」とお話しましたが、それらはすべて「私が介護職員として働いていたときにやっていたこと」です。

権利擁護について学ぶ機会がなければ、利用者を人として見ることができなくなっていたかもしれません。相模原障害者施設殺傷事件(以下、やまゆり園事件)を起こした植松死刑囚は、裁判の中で勤務していた介護施設であるやまゆり園での勤務を振り返り、職員について以下の発言をしています。

少し感覚がずれてしまうのかなと思いました。人間として扱えなくなってしまうと思いました。
口調が命令的。流動食はただ流し込みだけの作業。人間ではないと思いました。

そして、検察官から「園での勤務経験から意思疎通の取れない障がい者はいらないと思ったのか」と問われ、「はい」と答えたそうです。やまゆり園でどのような介護がされていたのかは明らかになっていません。しかし、植松死刑囚が利用者を人として尊重していれば、あのような事件は起きていなかったのかもしれません。利用者や介護職員が人として尊重されているか。社会福祉に携わる人が、一人ひとり考えていかなければならない課題ではないでしょうか。

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